冤罪で魔族領に追放されましたが、魔王様に溺愛されているので幸せです!

アトハ

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47. ここで怒っては相手の思うツボです

「暴れたり逃げられると面倒だ。
 念のため縄で拘束しておけ」

 馬鹿王子は、こちらに来るなりそう言い放ちました。
 私が黙って両手を差し出すと、兵たちが容赦なく縄で縛ります。
 逆らうだけ無駄なので抵抗はしませんが、たいそうな歓迎です。

 元とはいえ、公爵令嬢に――いいえ、もはや貴族に対する態度ではありません。


「それで、何の用ですか?」

「魔族領から助け出してやったのだ。
 その恩人に、感謝の言葉1つもないのか?」
「あら、フォード王子の図らいだったのですね。
 無事に帰ってこられて感謝しておりますわ」

 この結界の中にいる者は、魔族領のことを恐ろしい場所だと思い込んでいます。
 フォード王子は挑発でもなく「助け出してやった」と心から思ってそう言ったのでしょう。

 反射的に言い返しそうになりますが、腹芸はお手の物。
 私もそつなく返します。


「魔族領は、力こそ正義の荒れ果てた土地だ。
 暴力が支配し、力を持たぬものは淘汰される秩序なき世界。 
 その中で貴様のような大した能力も持たない令嬢が、どうやって生き残ったのか興味深いな」

「……心優しい魔族に保護して頂きましたから」
「はっ、心優しき魔族に保護――か」

 フォード王子はそう吐き捨てました。
 心優しい魔族たちを馬鹿にされ、内心で苛立ちを覚えます。
 ですが、その怒りはおくびにも出さずに。


「ええ。無実の罪で国を追われて死を待つばかりだった私を、憐れんでくださったのでしょう。
 とても良くして頂きましたわ」

 にこりと微笑みんで見せます。
 

「フィーネ・アレイドル。墓穴を掘ったな」

 そんな皮肉にも動じず。
 対するフォード王子もニヤリと笑い、そう答えたのでした。


「墓穴? 何のことですか?」
 
 本気で意味が分からず聞き返す首を傾げた私を、

「猫被るのも大概にしなさいよ、この売国奴っ!」

 そう怒鳴りつけたのは、私を陥れた――ジュリーヌ・カレイドル。

 怒りのあまり思わず口を出してしまった――とでも言うような、そんな完璧な演技。
 馬鹿王子にあることないこと吹き込み、私を罠にめた性悪女。

「ジュリーヌさん、私に何の用でしょうか?
 売国奴とは、随分と穏やかではない言葉ですね」
「とぼけても無駄です、私は見ましたっ!
 フィーネ様が魔族の王・魔王と親密な関係になっているのをっ」

「なっ――」

 突然飛んできた予想外の発言。
 ぽかーんとする私に、発言の隙を与えまいとでもいうように。
 ジュリーヌさんは、こちらを糾弾するように畳みかけます。

「私がフォード王子と結ばれるのが気に喰わないからって、国を滅ぼそうとしたんですね。
 そうして国を滅ぼせたら満足ですか?」

 まるで舞台俳優のように。
 時には怒りを、時には悲しみを全身を使って表します。
 
「魔王と言えば、人間の敵。
 魔族を束ねる魔族の王ではありませんか」
「そんな相手と手を組んででも――私に、国に復讐がしたかったのですね。
 そこまで私が憎かったんですか……?」


 あまりの言いように怒りを覚えます。
 国に復讐? 魔王様のことをろくに知りもせずに。

 魔王様は、先代魔王を殺された恨みをどうにかこらえて。
 人間との和平交渉を選ぶ誇り高い人なんです。
 こんな女に、ここまで言われる筋合いはありません。


 ――ここで怒ってはカレイドル男爵令嬢の思うツボですね

 相手は、明らかに私を挑発しています。 

 魔王様は今もこちらを見ているでしょう。
 情けないところは見せられません。



「ジュリーヌさん。誤解ですよ。
 私は、そのようなこと――」

「とぼけないでください! 私は遠見の魔法で見ました。 
 フィーネ様が、魔王の開催する歓迎パーティーに参加しているところを。
 魔族たちに囲まれて楽しく笑っているところを!」


 遠見の魔法の効果は本物なのでしょうか?
 中途半端に真実が混ざっているせいで、妙に信憑性のある話になってしまっています。
 人間の魔族に対する恐れを最大限利用した、馬鹿王子たちの戦略でしょう。

 敵意を煽る形で、魔族領の話題が出されたことも良くありません。
 ここで私が魔族との和平などと言い出しても。
 信頼されるどころか、鼻で笑われてしまうでしょう。
 


「我が国は、カレイドル嬢に感謝しなければならないな。
 こうしてフィーネ・アレイドルの企みをまた暴いたのだから――」

「フィーネ様のことは、今でも怖くて怖くてたまらない。
 だとしても、この国の人たちが死んでしまうのはもっと怖いです。
 この国と――何よりフォード王子のために、勇気を振り絞りました」

 瞳をうるうるさせながら、王子の胸に飛び込むジュリーヌさん。
 それを優しく受け止めるフォード王子。
 まったくもって茶番です。
 

「未来の国母であるジュリーヌに対する、殺人未遂に飽き足らず……。
 魔族の王と手を組んで、国家転覆を測ったこと。
 貴様の罪は、すべて貴族裁判で明らかにしてみせよう。
 覚悟しておくが良い」


 フォード王子は、どこまでも自身が正義だと疑っていない様子でした。

「兵たちよ、フィーネ・アレイドルを牢へ。
 逃げられないよう厳重に監視しておけ」

 そう兵士たちに言い渡し、ジュリーヌさんを伴って城に帰っていくのでした。
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