冤罪で魔族領に追放されましたが、魔王様に溺愛されているので幸せです!

アトハ

文字の大きさ
51 / 71

50. 今日のやり取りで、運命が決まるんですね

しおりを挟む
「すまなかったな、試すような真似をして」

 兵士の格好をした魔族は、私に深々と頭を下げました。


「試したってことは、本気ではなかったんですね。
 貴族裁判を待たずして、戦争に突入するのかと本気で焦りましたよ」
「普通に本気だったぜ。
 ……たとえば、ひめさまが命惜しさに人間サイドに寝返ったりしたらな」

「私がヴァルフレア様を裏切るなんてあり得ません」
「そのようだな。
 カレイドル男爵令嬢とのやりとりを見て、すぐ杞憂だとわかったさ」

 アルテは楽しそうにくっくと笑う。


「それで? 地下牢まで何の用ですか。こう見えても、私は忙しいんですよ」
「まあ、そう言うなって。
 貴族裁判に向けて、興味深い話を持ってきてやったんだぜ?」

 地下牢の中で得られる情報は貴重です。
 私は、アルテに続きを促します。


「まずはアレイドル家について。
 当主は、全面的に第二王子派を支持することを決めたそうだ」
「フォード王子の愚かさを思えば当然でしょう。
 ……怒り狂うお父様の姿が、容易に想像できます」

 ――私が戻るまで、過激な手段に踏み切らないで本当に良かったです

 魔族領への追放後、王家から何の詫びもなかったなら。
 冗談抜きにお父様は、王が相手であっても剣を向けたでしょう。そのまま国を割るような争いに発展する可能性すらありました。

 公爵家の持つ不信感に気づかないほど、国王も愚かでないはずです。
 なぜフォード王子を自由にさせているのでしょうか。


「それで、肝心の貴族裁判の情勢はどうですか?」
「フォード王子は、自らの息のかかったものを裁判官に送り込もうとしてぜ。
 アレイドル家の力で、阻まれていたけどな」

 私が黒だと確信していても。
 不安からか、私を完膚なきまでまでに叩きのめしたいためか。
 フォード王子が悔しがる様子が、目に浮かぶようです。

「カレイドル男爵令嬢は、必死になって偽の証拠を集めて回っているが……。
 単純なフォード王子は騙せたとしても、裁判官を騙すのは不可能だろう。
 貴族裁判は、十中八九ひめさまの潔白を証明するだけだろうな」
「……フォード王子も終わりですね」

 私の潔白が証明されれば、フォード王子は自然と責任を取らされることになるでしょう。
 公爵家を敵に回しかねない愚かな行為の代償は高くつきます。
 廃嫡を言い渡されても、何ら不思議ではありません。


「そう思っていたんだけどな」

 和やかなムードに冷や水を浴びせるように、アルテが重々しく口を開きます。

「報告があがってきている。
 この国を戦争に向かわせようとするきな臭い動きだ」
「また、カレイドルさんですか?
 この期に及んで、あの方に出来ることなんて何もないと思いますが……」

 いくらフォード王子の婚約者だとしても、実質的な権限はなにもないはずです。
 ここにきて脅威になるとは思えません。

 そんな楽観的な考え読んだのでしょう。
 アルテは、首を横に振り楽観的な考えを打ち消すようにこう告げました。

「国王が裁判の拝聴に来る、という噂がある」
「は……?」

 どれほどの大罪人を裁くためであったとしても。
 王自らが裁判の行方を見に来るなんて聴いたことがありません。
 

 ーーいったい、なんのため?


「いくら王が見に来るとしても。
 裁判の行方に影響はありませんよね……?」
「どうだかな。国王はフォード王子を自由にさせていた前科がある。
 それだけでなく、カレイドル男爵令嬢の代わりを探すこともなかったどころか――」

 アルテは辺りを警戒するように見渡し、誰もいないことを改めて確認。
 

「これは、本当に一部の者しか知らない事実だがな。
 どうやら、陰ではカレイドル嬢の行動を手助けしていたらしい」
「な――?
 そ、そんな……。あり得ませんよ」

 だって、それではまるで……


「カレイドル男爵令嬢の行動が。
 ――まるで、国王の思惑通りみたいではありませんか?」

 アルテは黙って肩をすくめてみせました。


「警戒だけは怠らないようにな。
 たとえ何が起きても対応できるように。
 こっちはこっちで、用意をしておくさ」

 そのようなことを言い残し、アルテは地下牢を立ち去ったのでした。



◇◆◇◆◇

 地下牢での日々は、あっという間に過ぎ。

「フィーネ・アレイドル。
 運命の刻だ。裁判所まで同行願おう」

 ついに貴族裁判の日がやって来ました。
 私を迎えに来たのは、魔族領から帰った私を迎えたフォード王子お付きの兵士たちです。

「そんなに警戒しなくても逃げませんよ」
 

 馬車で移動すること1時間ほどでしょうか。

 私が案内されたのは、国内でも有数の大規模な裁判所でした。
 国中でも注目度の高い、それこそ歴史に残る多くの大罪人に引導を渡してきた場所。
 今日の裁判には、フォード王子の進退もかかっているということを理解しているのでしょう――既に中では大勢の貴族が待っているようです。


 ――今日のやり取りで、運命が決まるんですね

 魔王様、見ていてください。
 私は預けられたお守り代わりの宝玉を、ギュッと握りました。

 覚悟を決めると、私は中に入ります。


「被告人、フィーネ・アレイドルの到着だ」

 私を迎えるのは、ざわざわという囁き声と好奇の目線。
 そして……私を陥れようとしているフォード王子とカレイドル男爵令嬢とも目線が合う。

 ――気圧されたら負けだ。

 
 背筋を伸ばして堂々と、前だけを見つめて。
 私は歩き出しました。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。

腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。 魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。 多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。  リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……  王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。

冷遇されている令嬢に転生したけど図太く生きていたら聖女に成り上がりました

富士山のぼり
恋愛
何処にでもいる普通のOLである私は事故にあって異世界に転生した。 転生先は入り婿の駄目な父親と後妻である母とその娘にいびられている令嬢だった。 でも現代日本育ちの図太い神経で平然と生きていたらいつの間にか聖女と呼ばれるようになっていた。 別にそんな事望んでなかったんだけど……。 「そんな口の利き方を私にしていいと思っている訳? 後悔するわよ。」 「下らない事はいい加減にしなさい。後悔する事になるのはあなたよ。」 強気で物事にあまり動じない系女子の異世界転生話。 ※小説家になろうの方にも掲載しています。あちらが修正版です。

【完結】財務大臣が『経済の話だけ』と毎日訪ねてきます。婚約破棄後、前世の経営知識で辺境を改革したら、こんな溺愛が始まりました

チャビューヘ
恋愛
三度目の婚約破棄で、ようやく自由を手に入れた。 王太子から「冷酷で心がない」と糾弾され、大広間で婚約を破棄されたエリナ。しかし彼女は泣かない。なぜなら、これは三度目のループだから。前世は過労死した41歳の経営コンサル。一周目は泣き崩れ、二周目は慌てふためいた。でも三周目の今回は違う。「ありがとうございます、殿下。これで自由になれます」──優雅に微笑み、誰も予想しない行動に出る。 エリナが選んだのは、誰も欲しがらない辺境の荒れ地。人口わずか4500人、干ばつで荒廃した最悪の土地を、金貨100枚で買い取った。貴族たちは嘲笑う。「追放された令嬢が、荒れ地で野垂れ死にするだけだ」と。 だが、彼らは知らない。エリナが前世で培った、経営コンサルタントとしての圧倒的な知識を。三圃式農業、ブランド戦略、人材採用術、物流システム──現代日本の経営ノウハウを、中世ファンタジー世界で全力展開。わずか半年で領地は緑に変わり、住民たちは希望を取り戻す。一年後には人口は倍増、財政は奇跡の黒字化。「辺境の奇跡」として王国中で噂になり始めた。 そして現れたのが、王国一の冷徹さで知られる財務大臣、カイル・ヴェルナー。氷のような視線、容赦ない数字の追及。貴族たちが震え上がる彼が、なぜか月に一度の「定期視察」を提案してくる。そして月一が週一になり、やがて──「経済政策の話がしたいだけです」という言い訳とともに、毎日のように訪ねてくるようになった。 夜遅くまで経済理論を語り合い、気づけば星空の下で二人きり。「あなたは、何者なんだ」と問う彼の瞳には、もはや氷の冷たさはない。部下たちは囁く。「閣下、またフェルゼン領ですか」。本人は「重要案件だ」と言い張るが、その頬は微かに赤い。 一方、エリナを捨てた元婚約者の王太子リオンは、彼女の成功を知って後悔に苛まれる。「俺は…取り返しのつかないことを」。かつてエリナを馬鹿にした貴族たちも掌を返し、継母は「戻ってきて」と懇願する。だがエリナは冷静に微笑むだけ。「もう、過去のことです」。ざまあみろ、ではなく──もっと前を向いている。 知的で戦略的な領地経営。冷徹な財務大臣の不器用な溺愛。そして、自分を捨てた者たちへの圧倒的な「ざまぁ」。三周目だからこそ完璧に描ける、逆転と成功の物語。 経済政策で国を変え、本物の愛を見つける──これは、消去法で選ばれただけの婚約者が、自らの知恵と努力で勝ち取った、最高の人生逆転ストーリー。

処理中です...