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51. 下らない感情論で話を進めるつもりではありませんよね?
「私が罪状を読み上げよう」
どうやら裁判長に無理を言って、フォード王子が自ら検察の役割を果たすことになったそうです。
自らの手で、どうしても私をやりこめたかったのでしょうか。
「被告人であるフィーネ・アレイドル。
貴様は実家の権力を悪用し、気に障った身分の低い者を片っ端から苛め抜き、自主退学にまで追い込んだ。
異議があるなら、その場で反論することを許可する」
敵意のこもった目線で、フォード王子は私を睨みつけてきます。
私は彼にそこまで恨まれることをしたのでしょうか?
まあ、今さらどうでも良いですね。
「まったくの事実無根です。
それに事実だとして、今そのようなことを話す必要もないでしょう」
今さらその話題を持ち出す意図も分かりません。
私怨から? それとも、印象操作でしょうか?
どちらにせよ、あまりにお粗末です。
「ふん、都合の悪い話になれば話題を逸らすか。
それとも真実を明らかにされると不都合があるのだな?」
勝ち誇ったようなフォード王子。
「そういえば、学園ではそのような噂を聞いたこともありましたね。
私の地位をうらやむ愚かな者が、そのようなデタラメを吹聴して回っているとか。
そのような報告を受けたこともありましたが――」
ちらりとカレイドル嬢を見ます。
そっと目線を逸らされました。
まさか気づかれていないとでも思っていたのでしょうか。
「取り合うまでもない、と思っていました。
フォード王子がカレイドル嬢にずいぶんと"熱を上げている"と、悪評が広まりつつあり……その火消しで忙しかったですから。
そのような噂を信じるのは、よほどの愚か者しかいないと思っていましたから」
誤算だったのはフォード王子と、その取り巻きの愚かさを見誤ったことでしょうか。
馬鹿みたいな噂を信じ切って、独断で魔族領への追放処分に踏み切るなどという思考回路は、想像の斜め上でした。その後先を考えない行動力だけは、称賛に値します。
「往生際の悪いやつだ。
自分に都合の良い言葉のみを聞いてきた、都合の良い言葉だ。
この公正な貴族裁判の場で、そのような言い訳が通じると本気で思っているのか?」
あなたが、それを言いますか?
思わず笑ってしまいました。
「貴様っ! 何がおかしいというのだ」
「いいえ、ごめんなさい」
傍聴席では、ざわざわと困惑するような声が聞こえてきました。
それも当然かもしれません。
「……その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。
まさかとは思いますが、裁判の場で下らない感情論で話を進めるつもりではありませんよね?」
国が始まって以来の大罪人を裁くという触れ込みで始まった裁判にもかかわらず。
実際にフタを開けてみれば、あまりにもお粗末な言いがかりレベルの罪状を自信満々に告げるフォード王子がいるだけなのですから。
◇◆◇◆◇
「下らぬ印象操作だな。フォード・エルネスティアよ」
やがて見かねたように、傍聴席でどっしりと座っていた人物が立ち上がり声を上げました。
声を発したのは、公爵家の当主――すなわち私の父でした。
「く、下らぬとは何だ!
私はフィーネ・アレイドルの全ての罪を明らかにするために――」
ふっ、と父は鼻で笑います。
「万が一にも、殿下の主張が事実だったとして。
それがいったい何の罪になると言うのだ?」
「なっ!?」
口をパクパクさせるフォード王子。
「ここに集まった皆が興味を持っているのは、我が娘が……魔族と共謀していたか。
戦争が、本当に起こりかねない状態なのかという点であろう。
さっさと本題に入りたまえ」
続いて父は私の方を向き、こう言いました。
「フィーネも、フォード王子の言い分にすべて付き合う必要もないだろう。
冷静になりなさい」
――冷静に、ですか
たしかに本来ならば裁判長に、フォード王子の暴走を訴えるべきだったのかもしれません。
馬鹿正直に付き合って、言い負かす必要もなかったでしょう。
フォード王子に対する溜まっていたうっぷんを晴らしたいと……無意識にでも、そう思っていたのでしょうか。
「……はい、お父さま」
諭すような父の言葉に、私は頷きました。
娘が地下牢に囚われている中、様子を見にすら来なかったことに思うところはありますが、父は父なりに私の無実を信じていろいろと動いてくれたのでしょう。
「殿下、フィーネ・アレイドルの罪状についての説明を簡潔にお願いします。
フィーネ様も、どうか途中で口を挟まぬよう」
すっかり影を薄くしていた裁判長が、フォード王子にそう告げました。
出鼻をくじかれる形となったフォード王子は、面白くなさそうに手元の紙を読み上げ始めるのでした。
どうやら裁判長に無理を言って、フォード王子が自ら検察の役割を果たすことになったそうです。
自らの手で、どうしても私をやりこめたかったのでしょうか。
「被告人であるフィーネ・アレイドル。
貴様は実家の権力を悪用し、気に障った身分の低い者を片っ端から苛め抜き、自主退学にまで追い込んだ。
異議があるなら、その場で反論することを許可する」
敵意のこもった目線で、フォード王子は私を睨みつけてきます。
私は彼にそこまで恨まれることをしたのでしょうか?
まあ、今さらどうでも良いですね。
「まったくの事実無根です。
それに事実だとして、今そのようなことを話す必要もないでしょう」
今さらその話題を持ち出す意図も分かりません。
私怨から? それとも、印象操作でしょうか?
どちらにせよ、あまりにお粗末です。
「ふん、都合の悪い話になれば話題を逸らすか。
それとも真実を明らかにされると不都合があるのだな?」
勝ち誇ったようなフォード王子。
「そういえば、学園ではそのような噂を聞いたこともありましたね。
私の地位をうらやむ愚かな者が、そのようなデタラメを吹聴して回っているとか。
そのような報告を受けたこともありましたが――」
ちらりとカレイドル嬢を見ます。
そっと目線を逸らされました。
まさか気づかれていないとでも思っていたのでしょうか。
「取り合うまでもない、と思っていました。
フォード王子がカレイドル嬢にずいぶんと"熱を上げている"と、悪評が広まりつつあり……その火消しで忙しかったですから。
そのような噂を信じるのは、よほどの愚か者しかいないと思っていましたから」
誤算だったのはフォード王子と、その取り巻きの愚かさを見誤ったことでしょうか。
馬鹿みたいな噂を信じ切って、独断で魔族領への追放処分に踏み切るなどという思考回路は、想像の斜め上でした。その後先を考えない行動力だけは、称賛に値します。
「往生際の悪いやつだ。
自分に都合の良い言葉のみを聞いてきた、都合の良い言葉だ。
この公正な貴族裁判の場で、そのような言い訳が通じると本気で思っているのか?」
あなたが、それを言いますか?
思わず笑ってしまいました。
「貴様っ! 何がおかしいというのだ」
「いいえ、ごめんなさい」
傍聴席では、ざわざわと困惑するような声が聞こえてきました。
それも当然かもしれません。
「……その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。
まさかとは思いますが、裁判の場で下らない感情論で話を進めるつもりではありませんよね?」
国が始まって以来の大罪人を裁くという触れ込みで始まった裁判にもかかわらず。
実際にフタを開けてみれば、あまりにもお粗末な言いがかりレベルの罪状を自信満々に告げるフォード王子がいるだけなのですから。
◇◆◇◆◇
「下らぬ印象操作だな。フォード・エルネスティアよ」
やがて見かねたように、傍聴席でどっしりと座っていた人物が立ち上がり声を上げました。
声を発したのは、公爵家の当主――すなわち私の父でした。
「く、下らぬとは何だ!
私はフィーネ・アレイドルの全ての罪を明らかにするために――」
ふっ、と父は鼻で笑います。
「万が一にも、殿下の主張が事実だったとして。
それがいったい何の罪になると言うのだ?」
「なっ!?」
口をパクパクさせるフォード王子。
「ここに集まった皆が興味を持っているのは、我が娘が……魔族と共謀していたか。
戦争が、本当に起こりかねない状態なのかという点であろう。
さっさと本題に入りたまえ」
続いて父は私の方を向き、こう言いました。
「フィーネも、フォード王子の言い分にすべて付き合う必要もないだろう。
冷静になりなさい」
――冷静に、ですか
たしかに本来ならば裁判長に、フォード王子の暴走を訴えるべきだったのかもしれません。
馬鹿正直に付き合って、言い負かす必要もなかったでしょう。
フォード王子に対する溜まっていたうっぷんを晴らしたいと……無意識にでも、そう思っていたのでしょうか。
「……はい、お父さま」
諭すような父の言葉に、私は頷きました。
娘が地下牢に囚われている中、様子を見にすら来なかったことに思うところはありますが、父は父なりに私の無実を信じていろいろと動いてくれたのでしょう。
「殿下、フィーネ・アレイドルの罪状についての説明を簡潔にお願いします。
フィーネ様も、どうか途中で口を挟まぬよう」
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