冤罪で魔族領に追放されましたが、魔王様に溺愛されているので幸せです!

アトハ

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54. 「悪役令嬢め、全部あんたのせいよ!」とヒロインはヒステリックに叫ぶ

「お、恐れながら発言よろしいでしょうか?」
「発言を許可しよう」

 
 裁判長に許可を貰って立ち上がった1人の貴族がいました。

「失礼ながら、フォード殿下。
 フィーネ様を魔族領に追放したことは、今や冤罪であったという見方が一般的になっています。
 事実確認を怠ったがゆえの、判断の過ちであったと」


 身から出たサビ、とでも言うのでしょうか。
 それはフォード王子が頭を悩ませてきた問題でした。

「冤罪などではない!
 さっきから説明しているだろう。
 この女の正体は、戦争を引き起こそうとする悪女であると!」

「さきほどの説明は、どこまでもカレイドル男爵令嬢とフォード王子の主観に過ぎません。
 ……国家反逆罪を適用しようと言うのなら、それなりの証拠が必要かと存じますが?」

 立ち上がった貴族の発言は、正論そのものです。

「黙れ、辺境の貧乏貴族が!
 貴様の意見など聞いてはいない。
 判断を下すのは貴様ではない、ここにいる裁判官たちだ。
 フィーネ・アレイドルは黒だ。黒だと言え!」

 対するフォード王子の返す言葉は、癇癪を起こした子供のそれ。
 とてもではないが、王になれる器ではない。
 そんな共通認識が裁判を聞く者たちの間で広まっていったことでしょう。


「そうですか。
 王家に逆らう者は、身内の証言だけで国家反逆罪を適用して葬り去ると。
 そういう意思表示だと受け取れば良いのですね?」

 貧乏貴族と罵られた貴族は、もはや問答を続けるつもりもないとばかりに席に着きました。

 このような場で提言してくれている臣下は貴重です。
 その助言を無視し、挙句の果てには理不尽な理由で罪に問い葬り去ると宣言まで匂わせてしまったのです。
 それは為政者としては最悪の姿で、もはや誰にも擁護はできないでしょう。


「どれだけ調査しても、証拠は何も出てこなかったのだ。
 きっと、アレイドル家が証拠を完璧に隠蔽しているに違いない!」

 馬鹿にされたと思ったフォード王子は、そう勢いで口にします。
 それが更なる怒りを呼び起こすとも気づかずに……。



「ほう?」

 その愚かな発言は、それまで黙って聞いていたお父さまの地雷を見事に踏み抜いたのでした。

「殿下は、我が娘に冤罪を被せるだけではなく。
 よりにもよって、我がアレイドル家が国家反逆罪に関わっていると。
 そう主張するというのだな?」

 底冷えするような声で、そう声を上げるお父さま。

「そ、それは言葉のアヤで……」

 萎縮したように言葉をぼかすフォード王子。
 当然、それを許すお父さまではありません。


「国家反逆罪の疑いが向いたとあれば、家の取りつぶしも覚悟しなければならない。
 それが裁判による厳正な結果であればな。
 ……裁判の結果すら王子の一存で捻じ曲げて、そのような横暴を押し通そうとするのなら。それなりの覚悟は出来ているのだろうな?」

 徹底的な失態。
 青ざめるフォード王子を、容赦なく冷たい視線が射貫きます。



「魔族領への追放騒動となったきっかけの暗殺未遂の件について。
 集められた"証拠"とやらも、少し調べてみればそこの女の自作自演ではないか。
 隠す気があるのかと、逆に裏を疑ってしまう拙いものであったぞ」

「そ、そんなはずはない」

 なおもジュリーヌさんを庇おうとするフォード王子の根性は、いっそ見上げたものですが。
 お父さまがはっきりと「暗殺未遂の証拠はカレイドル男爵令嬢の自作自演だった」と言い切ったことで、フォード王子の言い分を信じる者は誰もいなくなりました。


「ど、どうして。
 この世界はヒロインである私を中心に回っているはずなのに。
 私の言うことを誰も信じてくれないなんて、おかしいじゃない!?」

 ジュリーヌさんは、立ち上がり大声で騒ぎはじめます。

 豹変した彼女を困惑した様子で見つめるフォード王子を見て、思わず笑ってしまいました。
 その姿が、あなたが浮気してまで手に入れたかった女の本性です。
 

 ――悪役令嬢め、全部あんたのせいよ!
 

 顔を醜く歪め、ジュリーヌさんはヒステリックにそう叫びました。
 こちらを指差すジュリーヌさんから、黒い影が立ち昇ります。
 
「ジュ、ジュリーヌ。その力はなんだ?」
「殿下、見ていてください。
 おかしくなったのは、すべてそこの女のせいです。
 その女さえいなくなれば、すべてが上手くいきますから」


 ジュリーヌさん狂気を滲ませながら、そう笑いました。
 そのまま私を指さすと「私の前から永遠に消え去れ!」と叫び、何やら魔法を唱えました。


 ――ッ!



 指先から飛び出したのは、真っ黒な光線。
 強い憎しみに駆られたものが使うことができるという闇属性の魔法でした。

 私に圧倒的な速度で飛来したそれを避ける術はなく。
 それどころか、咄嗟のことに体を動かすことすら出来ません。


 思わず目を閉じてしまった私ですが、伝わってきたのは微かな衝撃。

 パリーン


 代わりに聞こえてきたのは、持たされていた宝玉が割れる音。
 ジュリーヌさんの放った攻撃魔法を吸い込み、役割を果たしたとでも言うように宝玉は割れたのでした。

 割れた宝玉は、なぜか強烈な光を放つと空中に魔法陣を描き出しました。
 そしてその魔法陣から現れたのは――



「気休めに、と思っていた防御魔法が発動するとはな。
 フィーネよ、怪我はないな?」


 魔族の王、魔王。



「……ヴァルフレア様?」

「怪我がなくて良かった。
 人間を信じた余が愚かだったのだ。すぐに終わらせる」

 ゾッとするような冷たい目。


 私を庇うように立ちながら。
 魔王様は、裁判に集まった貴族たちをゴミでも見るように睥睨しました。


「……やはり余は、人間を根絶やしにする運命の下に生まれたということだな」

 悲しそうに、しみじみと呟きます。
 そこに一片の迷いもなく。

 ――故に止めることもできない。

「……ヴァルフレア様」


 私にできたことは、ただ名前を呼ぶことだけでした。
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