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56. 奴はかつて魔族領から追放された者だ
「ジュリーヌ!」
どっと倒れ伏すジュリーヌさんに、弾かれたようにフォード王子が駆け寄りました。
「こんな――こんなのは、おかしい。
なんで……私が――」
うわ言のようにジュリーヌさんが、呟き続けます。
「無理に喋るな。
ジュリーヌ、こんなところで死んではダメだ。
おい、何をしている!? 誰か回復術師を呼べ!」
フォード王子は必死でした。
しかしフォード王子の呼びかけも虚しく、誰もその声には応えません。
この場に回復術師が居ないのか、もしくは立ちはだかる魔王に怯えているのか。
「誰か、誰か……」
フォード王子は、力なく項垂れます。
このままジュリーヌさんが死んだのなら――フォード王子は悲しみの中で、魔族たちに剣を向けるでしょう。
それに魔王様が応戦すれば、そのまま戦争が始まってしまうことでしょう。
このような形で、結局はジュリーヌさんの目的が果たされようとしているのは皮肉な話です。
どこまでいっても、私と敵対していたジュリーヌさん。
本当は、助ける義理などありませんが……
「……私がやりましょう」
そう声を上げて、私は2人の方に歩きだしました。
魔王様はチラリとこちらを見ましたが、何も言わずに静観することを選択。
「何のまねだ……?」
フォード王子は、こちらを威嚇するようにこちらに問いかけました。
「――ジュリーヌさんには、ここで死なれると困りますから」
「魔族の仲間を信用できると思うのか?」
「他に手はありませんよ。
問答する時間も惜しいと思いますが?」
ジュリーヌさんの傷は深く、猶予がないことは明白で。
葛藤は僅かばかり。
他に手はないことを悟り、フォード王子は縋るような目で私を見るのでした。
◇◆◇◆◇
「あれ……?」
さっそく回復魔法を使ってみて、私は違和感に気が付きます。
「傷の治りが早い……」
その回復力は微々たるもの。
それでも命を落とすことだけは、確実に避けられる程度のわずかな違い。
それに加えて、私は致命的な違和感に気が付きます。
「フォード王子。
あなたの眼は、本当に節穴でしたね」
「何の話だ……?」
魔族領での経験があったからこそ、私は微かな違和感に気付きます。
ジュリーヌさんから、わずかに異質な魔力があふれ出しているのです。
――ジュリーヌさんの中に、魔族の気配がある
「魔族との戦争を恐れて、私の罪を疑ってる暇があるのなら。
やるべきことが、他にあったんじゃないですかね……?」
「だから、何のことだ?」
「……これから、お見せしますよ」
苛立つフォード王子に、私はそう答えました。
実際、こうして魔力を通して初めて気がつく違和感でした。
気が付かないのも無理はありません。
無理はありませんが――未来の国母にすると決めたのなら、もう少し慎重になって欲しかったところです。
ジュリーヌさんの中に、魔族の魔力を感じると同時に。
私は、神聖魔法の謎にも1つの答えを見出しました。
――なぜ、魔族にとって聖属性の魔力は毒となるのか
――なぜ、私の魔法は魔族を癒すことができたのか
人間にとって神聖魔法……中でも回復魔法は、"人間にとって"正しい姿を復元するものです。
私がメインで使っていた初級の回復魔法は、そのものが持つ生命エネルギーを強化し、少しだけエネルギーの方向性を変えてやるだけのシンプルなものでした。
しかし効果の大きい回復魔法は、そのような生易しいものでなく"傷を異物として排除する"という強引なやり方になっていきます。
魔族は排除するべき敵、そう無意識に心の中で思っている限り。
神聖魔法の魔力は、魔族を排除するべき"異物"だと認識してしまうのです。
だからこそ、その意志に関わらず毒のような効果を持ってしまうのでしょう。
「もしあなたが――私たちに害意がないのなら。
今すぐにその体から出ていきなさい」
ジュリーヌさんの体の中にいる"何か"に向けて呼びかけます。
予想どおり、何も応答はありませんでした。
私はジュリーヌさんに向けて、回復魔法を放ちます。
私が魔族領で使って来た、生命が本来持つエネルギーを強化するだけの初級魔法ではなく。
ジュリーヌさんを傷1つない状態に戻すことを目的とする上級魔法。
――魔族には毒となる、異物を排除するための神聖魔法
「な、フィーネ!?
おまえ、そんな回復魔法なんて使えたのか……?」
「これまでは、必要になる場面がありませんでしたから」
見守る一行の前でジュリーヌさんの傷がみるみる塞がっていき、血色が戻っていきます。
ですが私の目的はそれだけではありませんでした。
ジュリーヌさんの中に、しぶとく残り続けようとする魔族の気配を感じます。
私はその気配に、回復魔法をぶつけ続けることにしました。
――やがて観念したように
ジュリーヌさんの体から飛び出してきたのは、霧のように黒い魔力の塊。
飛び出してきた黒い魔力は、そのまま一点に収束していき、熊のぬいぐるみのようなものを形作りました。
「あなたが、ジュリーヌさんに取りついていた――魔族ですね?」
全身は禍々しい黒で、目だけは紅く光っています。
本能が警鐘を鳴らしています。
同じ魔族であっても、こいつはジュリーヌさんに力を貸していた危険な魔族です。
「ああん?
いずれは魔王となる俺に向かって、ずいぶんと舐めた口を利くじゃねえか」
「奴はメディアル。
人間を滅ぼさんとする過激派で――かつて魔族領から追放された者だ」
どっと倒れ伏すジュリーヌさんに、弾かれたようにフォード王子が駆け寄りました。
「こんな――こんなのは、おかしい。
なんで……私が――」
うわ言のようにジュリーヌさんが、呟き続けます。
「無理に喋るな。
ジュリーヌ、こんなところで死んではダメだ。
おい、何をしている!? 誰か回復術師を呼べ!」
フォード王子は必死でした。
しかしフォード王子の呼びかけも虚しく、誰もその声には応えません。
この場に回復術師が居ないのか、もしくは立ちはだかる魔王に怯えているのか。
「誰か、誰か……」
フォード王子は、力なく項垂れます。
このままジュリーヌさんが死んだのなら――フォード王子は悲しみの中で、魔族たちに剣を向けるでしょう。
それに魔王様が応戦すれば、そのまま戦争が始まってしまうことでしょう。
このような形で、結局はジュリーヌさんの目的が果たされようとしているのは皮肉な話です。
どこまでいっても、私と敵対していたジュリーヌさん。
本当は、助ける義理などありませんが……
「……私がやりましょう」
そう声を上げて、私は2人の方に歩きだしました。
魔王様はチラリとこちらを見ましたが、何も言わずに静観することを選択。
「何のまねだ……?」
フォード王子は、こちらを威嚇するようにこちらに問いかけました。
「――ジュリーヌさんには、ここで死なれると困りますから」
「魔族の仲間を信用できると思うのか?」
「他に手はありませんよ。
問答する時間も惜しいと思いますが?」
ジュリーヌさんの傷は深く、猶予がないことは明白で。
葛藤は僅かばかり。
他に手はないことを悟り、フォード王子は縋るような目で私を見るのでした。
◇◆◇◆◇
「あれ……?」
さっそく回復魔法を使ってみて、私は違和感に気が付きます。
「傷の治りが早い……」
その回復力は微々たるもの。
それでも命を落とすことだけは、確実に避けられる程度のわずかな違い。
それに加えて、私は致命的な違和感に気が付きます。
「フォード王子。
あなたの眼は、本当に節穴でしたね」
「何の話だ……?」
魔族領での経験があったからこそ、私は微かな違和感に気付きます。
ジュリーヌさんから、わずかに異質な魔力があふれ出しているのです。
――ジュリーヌさんの中に、魔族の気配がある
「魔族との戦争を恐れて、私の罪を疑ってる暇があるのなら。
やるべきことが、他にあったんじゃないですかね……?」
「だから、何のことだ?」
「……これから、お見せしますよ」
苛立つフォード王子に、私はそう答えました。
実際、こうして魔力を通して初めて気がつく違和感でした。
気が付かないのも無理はありません。
無理はありませんが――未来の国母にすると決めたのなら、もう少し慎重になって欲しかったところです。
ジュリーヌさんの中に、魔族の魔力を感じると同時に。
私は、神聖魔法の謎にも1つの答えを見出しました。
――なぜ、魔族にとって聖属性の魔力は毒となるのか
――なぜ、私の魔法は魔族を癒すことができたのか
人間にとって神聖魔法……中でも回復魔法は、"人間にとって"正しい姿を復元するものです。
私がメインで使っていた初級の回復魔法は、そのものが持つ生命エネルギーを強化し、少しだけエネルギーの方向性を変えてやるだけのシンプルなものでした。
しかし効果の大きい回復魔法は、そのような生易しいものでなく"傷を異物として排除する"という強引なやり方になっていきます。
魔族は排除するべき敵、そう無意識に心の中で思っている限り。
神聖魔法の魔力は、魔族を排除するべき"異物"だと認識してしまうのです。
だからこそ、その意志に関わらず毒のような効果を持ってしまうのでしょう。
「もしあなたが――私たちに害意がないのなら。
今すぐにその体から出ていきなさい」
ジュリーヌさんの体の中にいる"何か"に向けて呼びかけます。
予想どおり、何も応答はありませんでした。
私はジュリーヌさんに向けて、回復魔法を放ちます。
私が魔族領で使って来た、生命が本来持つエネルギーを強化するだけの初級魔法ではなく。
ジュリーヌさんを傷1つない状態に戻すことを目的とする上級魔法。
――魔族には毒となる、異物を排除するための神聖魔法
「な、フィーネ!?
おまえ、そんな回復魔法なんて使えたのか……?」
「これまでは、必要になる場面がありませんでしたから」
見守る一行の前でジュリーヌさんの傷がみるみる塞がっていき、血色が戻っていきます。
ですが私の目的はそれだけではありませんでした。
ジュリーヌさんの中に、しぶとく残り続けようとする魔族の気配を感じます。
私はその気配に、回復魔法をぶつけ続けることにしました。
――やがて観念したように
ジュリーヌさんの体から飛び出してきたのは、霧のように黒い魔力の塊。
飛び出してきた黒い魔力は、そのまま一点に収束していき、熊のぬいぐるみのようなものを形作りました。
「あなたが、ジュリーヌさんに取りついていた――魔族ですね?」
全身は禍々しい黒で、目だけは紅く光っています。
本能が警鐘を鳴らしています。
同じ魔族であっても、こいつはジュリーヌさんに力を貸していた危険な魔族です。
「ああん?
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