59 / 71
58. 取り戻したばかりの力で、余と渡り合うつもりか?
「そ、そこまでして、戦争を起こしたいのですか。
なんでそんな命令を?」
「あっはっは!
良い表情ね、フィーネ・アレイドル」
ジュリーヌさんは、狂ったように笑い続けます。
「フィーネ・アレイドル、これはあんたに捧げる戦争よ。
……こうでもしないと、あなたは私を見ないでしょう?」
――苦しめ
――そして私という存在がいたことを思い出せ
まるで呪詛のような。
それでいて切なる願いが込められているような。
それが、ジュリーヌさんの最後の言葉でした。
「いただきます」
メディアルはふわふわと浮遊すると、ジュリーヌさんに近づきます。
ジュリーヌさんが黙って腕を差し出すと、ガブリとその腕にかぶりつきました。
「――ッ!」
契約に基づく生命エネルギーの譲渡。
――止めなければいけない
そう思っていても、ジュリーヌさんの迫力に呑まれたように動くことができず。
私は、その光景を呆然と見守ることしか出来ませんでした。
やがてパタリと糸が切れたように。
ジュリーヌさんは、地に倒れ伏しました。
◇◆◇◆◇
「くだらねえ最期を迎えやがって」
なんとも言えない表情で、メディアルは倒れたジュリーヌさんを見つめていました。
やがてふわっと浮き上がると、私たちの方を見て歪な笑みを浮かべます。
「人間を皆殺しにか。
どうすっかねえ。手始めに、ここにいる人間を血祭りに上げれば良いよなあ?」
全方位にまき散らされた強烈な殺意に、肌が粟立ちます。
もともと人間を滅ぼしたがっていた過激派です。
「メディアルよ、人間と契約してまで戦争を望むか。
……そんな取り戻したばかりの力で、余と渡り合うつもりか?」
「ふん、和平協定なんて手段を取りたがる腑抜けが相手だ。
むしろ、ちょうど良いハンデだろう?」
禍々しいオーラをまとった熊のぬいぐるみ。
臨戦態勢に入ったメディアルを前にしても、魔王様は涼しい笑みを浮かべています。
「余と戦うというのなら、そのふざけた着ぐるみから出てきたらどうだ?」
「余計なお世話だ!
これは……あの女が依り代として渡してきたものだしな」
互いに睨み合ったまま動きません。
「……俺が力を取り戻すための、くだらん共犯関係だったけどな。
いなくなっちまうと寂しいもんだな」
メディアルは、小さくつぶやきました。
両者は互いに一歩も動かぬままに、バチバチと互いの魔力をぶつけ合っています。
強力な魔力が相殺されている余波か、行き先を失った黒い雷となって裁判所を駆け巡ります。
あまりにも強大な魔族同士のぶつかり合い。
こんなものに巻き込まれたら、か弱い人間はひとたまりもありません。
「ひめさまはお下がりください」
どこからともなく、私を守るように魔族が現れます。
それは地下牢で話したアルテという魔族の兵を束ねる者でした。
さらにアルテに率いられた魔族の兵たちが、裁判所に駆けつけていました。
その数はざっと見て100を超えるでしょうか。
これほどの魔族が人間領で活動を行っていたと思うと冷や汗が出てきます。
「アルテさん。メディアルという魔族は強いのですか?」
「ああ。メディアルは魔族の中でも、魔王様に次ぐ実力の持ち主だよ」
畏怖を込めて、アルテが肯定します。
「……それは大規模な争いになりそうですね。
申し訳ありませんが、なるべく被害が出ないよう。
どうかよろしくお願いします」
「もちろんそのつもりさ」
私の言葉を聞いたアルテの行動はとても迅速でした。
テキパキと配下の魔族に指示を出すと、裁判所内の人間を守るように兵たちが配置されます。
「な、何だって魔族がこんなところにいるんだ!?」
急転する事態についていけない人々は、ただただ魔族に怯えていましたが。
「死にてえのか、そんなのは後回しだ!
死にたくなけりゃ、俺たちの後ろに隠れてやがれ!」
対する魔族たちは、キレ気味にそう返します。
そうしながらも、きちんと人間を庇うような体制を整えました。
「裁判所のみなさん。
魔王様は味方です。ここにいる魔族の兵士たちも味方です。
信じて、どうか取り乱さないで――」
ここでパニックを起こさないことが重要です。
私が使ったのは、言葉を直接相手の心まで届ける神聖魔法。
上位の回復魔法に、広範囲の伝心魔法。
使いどころがなかった神聖魔法ですが、これまで真面目に学んできておいて良かったです。
「フィーネ様が、そうおっしゃるなら……」
「まさか、魔族に守ってもらう日が来るとはね」
巻き添えを喰らってはたまらない。
背に腹は代えられないという判断でしょうか。
――それとも私の呼びかけが、少しは届いたのでしょうか?
混乱のさなかにいる裁判所の貴族たちでしたが。
やがては、魔族による守りを受け入れることを選択したのでした。
◇◆◇◆◇
一方、睨み合う魔王様たち。
実力が拮抗しているのか、隙を見せぬよう鋭い睨み合いがつづきます。
魔族の頂点同士の争いが、いつ始まるかと。
そう固唾を飲んで見守っていましたが……
状況を動かしたのは、どちらの魔族でもありませんでした。
「時は満ちた。
今こそ、儀式魔法の発動条件は満たされた」
響く厳かな声。
倒れたジュリーヌさんの体から、神聖属性の魔力が溢れだします。
『清浄なる鎖よ。邪なるものを戒めよ』
場を自然と支配するような声。
静まり返った空間に響き渡る、神聖魔法の詠唱文。
ジュリーヌさんからは、再現なく魔力が溢れだし。
やがて詠唱に応て、その魔力は音もなく光り輝く黄金の鎖となりました。
その鎖は音もなく魔王様とメディアルに近づくと、戒めるように縛り上げました。
――な、何? この魔法は?
トップクラスの魔族を、2人も抑え込む大規模な魔法。
おそらく専門家が何か月もかけて準備を行うような、儀式魔法にカテゴライズされるものでしょう。
そしてこの魔法は目の錯覚でなければ、ジュリーヌさんの肉体を触媒として発動しました。
さらには『儀式魔法の発動条件』という言葉の意味するもの。
――ジュリーヌさんの死?
そんなトリガーを持つ魔法が仕掛けられていたのなら。
まるで、全てを予想していたようではありませんか?
ゾクッとします。
私は、その魔法の発動者――国王に視線を向けました。
なんでそんな命令を?」
「あっはっは!
良い表情ね、フィーネ・アレイドル」
ジュリーヌさんは、狂ったように笑い続けます。
「フィーネ・アレイドル、これはあんたに捧げる戦争よ。
……こうでもしないと、あなたは私を見ないでしょう?」
――苦しめ
――そして私という存在がいたことを思い出せ
まるで呪詛のような。
それでいて切なる願いが込められているような。
それが、ジュリーヌさんの最後の言葉でした。
「いただきます」
メディアルはふわふわと浮遊すると、ジュリーヌさんに近づきます。
ジュリーヌさんが黙って腕を差し出すと、ガブリとその腕にかぶりつきました。
「――ッ!」
契約に基づく生命エネルギーの譲渡。
――止めなければいけない
そう思っていても、ジュリーヌさんの迫力に呑まれたように動くことができず。
私は、その光景を呆然と見守ることしか出来ませんでした。
やがてパタリと糸が切れたように。
ジュリーヌさんは、地に倒れ伏しました。
◇◆◇◆◇
「くだらねえ最期を迎えやがって」
なんとも言えない表情で、メディアルは倒れたジュリーヌさんを見つめていました。
やがてふわっと浮き上がると、私たちの方を見て歪な笑みを浮かべます。
「人間を皆殺しにか。
どうすっかねえ。手始めに、ここにいる人間を血祭りに上げれば良いよなあ?」
全方位にまき散らされた強烈な殺意に、肌が粟立ちます。
もともと人間を滅ぼしたがっていた過激派です。
「メディアルよ、人間と契約してまで戦争を望むか。
……そんな取り戻したばかりの力で、余と渡り合うつもりか?」
「ふん、和平協定なんて手段を取りたがる腑抜けが相手だ。
むしろ、ちょうど良いハンデだろう?」
禍々しいオーラをまとった熊のぬいぐるみ。
臨戦態勢に入ったメディアルを前にしても、魔王様は涼しい笑みを浮かべています。
「余と戦うというのなら、そのふざけた着ぐるみから出てきたらどうだ?」
「余計なお世話だ!
これは……あの女が依り代として渡してきたものだしな」
互いに睨み合ったまま動きません。
「……俺が力を取り戻すための、くだらん共犯関係だったけどな。
いなくなっちまうと寂しいもんだな」
メディアルは、小さくつぶやきました。
両者は互いに一歩も動かぬままに、バチバチと互いの魔力をぶつけ合っています。
強力な魔力が相殺されている余波か、行き先を失った黒い雷となって裁判所を駆け巡ります。
あまりにも強大な魔族同士のぶつかり合い。
こんなものに巻き込まれたら、か弱い人間はひとたまりもありません。
「ひめさまはお下がりください」
どこからともなく、私を守るように魔族が現れます。
それは地下牢で話したアルテという魔族の兵を束ねる者でした。
さらにアルテに率いられた魔族の兵たちが、裁判所に駆けつけていました。
その数はざっと見て100を超えるでしょうか。
これほどの魔族が人間領で活動を行っていたと思うと冷や汗が出てきます。
「アルテさん。メディアルという魔族は強いのですか?」
「ああ。メディアルは魔族の中でも、魔王様に次ぐ実力の持ち主だよ」
畏怖を込めて、アルテが肯定します。
「……それは大規模な争いになりそうですね。
申し訳ありませんが、なるべく被害が出ないよう。
どうかよろしくお願いします」
「もちろんそのつもりさ」
私の言葉を聞いたアルテの行動はとても迅速でした。
テキパキと配下の魔族に指示を出すと、裁判所内の人間を守るように兵たちが配置されます。
「な、何だって魔族がこんなところにいるんだ!?」
急転する事態についていけない人々は、ただただ魔族に怯えていましたが。
「死にてえのか、そんなのは後回しだ!
死にたくなけりゃ、俺たちの後ろに隠れてやがれ!」
対する魔族たちは、キレ気味にそう返します。
そうしながらも、きちんと人間を庇うような体制を整えました。
「裁判所のみなさん。
魔王様は味方です。ここにいる魔族の兵士たちも味方です。
信じて、どうか取り乱さないで――」
ここでパニックを起こさないことが重要です。
私が使ったのは、言葉を直接相手の心まで届ける神聖魔法。
上位の回復魔法に、広範囲の伝心魔法。
使いどころがなかった神聖魔法ですが、これまで真面目に学んできておいて良かったです。
「フィーネ様が、そうおっしゃるなら……」
「まさか、魔族に守ってもらう日が来るとはね」
巻き添えを喰らってはたまらない。
背に腹は代えられないという判断でしょうか。
――それとも私の呼びかけが、少しは届いたのでしょうか?
混乱のさなかにいる裁判所の貴族たちでしたが。
やがては、魔族による守りを受け入れることを選択したのでした。
◇◆◇◆◇
一方、睨み合う魔王様たち。
実力が拮抗しているのか、隙を見せぬよう鋭い睨み合いがつづきます。
魔族の頂点同士の争いが、いつ始まるかと。
そう固唾を飲んで見守っていましたが……
状況を動かしたのは、どちらの魔族でもありませんでした。
「時は満ちた。
今こそ、儀式魔法の発動条件は満たされた」
響く厳かな声。
倒れたジュリーヌさんの体から、神聖属性の魔力が溢れだします。
『清浄なる鎖よ。邪なるものを戒めよ』
場を自然と支配するような声。
静まり返った空間に響き渡る、神聖魔法の詠唱文。
ジュリーヌさんからは、再現なく魔力が溢れだし。
やがて詠唱に応て、その魔力は音もなく光り輝く黄金の鎖となりました。
その鎖は音もなく魔王様とメディアルに近づくと、戒めるように縛り上げました。
――な、何? この魔法は?
トップクラスの魔族を、2人も抑え込む大規模な魔法。
おそらく専門家が何か月もかけて準備を行うような、儀式魔法にカテゴライズされるものでしょう。
そしてこの魔法は目の錯覚でなければ、ジュリーヌさんの肉体を触媒として発動しました。
さらには『儀式魔法の発動条件』という言葉の意味するもの。
――ジュリーヌさんの死?
そんなトリガーを持つ魔法が仕掛けられていたのなら。
まるで、全てを予想していたようではありませんか?
ゾクッとします。
私は、その魔法の発動者――国王に視線を向けました。
あなたにおすすめの小説
試験でカンニング犯にされた平民ですが、帝国文官試験で首席合格しました
あきくん☆ひろくん
恋愛
魔法学園の卒業試験で、私はカンニング犯に仕立て上げられた。
断罪してきたのは、かつて好意を寄せてくれていた高位貴族の子息。そしてその隣には、私を嫌う貴族令嬢が立っていた。
平民の私には弁明の余地もない。私は試験の順位を辞退し、その場を去ることになった。
――だが。
私にはもう一つの試験がある。
それは、帝国でも屈指の難関といわれる帝国文官試験。
そして数日後。
その結果は――首席合格だった。
冤罪で断罪された平民が、帝国の文官として身を立てる物語。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
阿里
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
「お前は妹の身代わりにすぎなかった」と捨てられた養女——でも領民が選んだのは、血の繋がらない姉の方だった
歩人
ファンタジー
孤児のフィーネは伯爵家に引き取られた。
病弱な令嬢エーデルの「代役」として。社交も、領地管理も、使用人の采配も——
全て「エーデル様」の名前で、完璧にこなしてきた。
十一年後。健康を取り戻したエーデルが屋敷に帰還した日、伯爵は言った。
「もう用済みだ、出ていけ」
フィーネは静かに屋敷を去った。
それから一月もしないうちに、領民たちが伯爵に詰め寄った。
「前のお嬢様を返してください」
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
呪毒鑑定士の令嬢、冤罪で追放されたので国中の「呪い」を解除して回る
あめとおと
恋愛
王宮で地味に「呪物の鑑定と浄化」を担っていた伯爵令嬢。異世界から来た「聖女」に、汚いものを扱う不浄な女だと蔑まれ、婚約者の王子からも「お前の代わりは聖女がいる」と断罪・追放される。
しかし、彼女が密かに浄化していたのは、王宮の地下に溜まった建国以来の強大な呪いだった。彼女が去った瞬間、王宮は真っ黒な泥に沈み、王子たちの顔には消えない呪いの痣が浮き上がる。
幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。
ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。
不器量令嬢は、婚約破棄の断罪が面倒くさい
あんど もあ
ファンタジー
不器量なマルグリットは、婚約者の美しい第一王子からずっと容姿を貶められる日々。とうとう王立学園の卒業パーティーで王子に婚約破棄を宣言され、「王子から解放される! それいいかも!」となったが、続く断罪が面倒くさくて他の人に丸投げする事にする。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!