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60. それが何も見てこなかった私なりの、罪の償い方だ
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「魔族との戦争だ。ここを戦場だと思え。
一人残らず皆殺しにせよ」
「かしこまりました」
国王直々の命令です。
おかしいと思う者がいても、それを口に出す者はおらず。
騎士団の者が、覚悟を決めたように剣を抜きました。
「アルテさん。
少しの間だけで良いです。兵たちに人間を守らせてください」
私は傍にいた兵士長に、そう頼みます。
「ひめさまはどうするんだ?」
「……あの儀式魔法を、どうにかします」
魔王様を拘束し、国王に対する強固な結界としても機能している儀式魔法。
あれが機能している限りは、事態はどんどん魔族に不利になっていくことでしょう。
「そんなこと可能なのか?
魔王様ですら、ああして行動を封じられてる。
人間なんかに、どうにか出来るのか?」
「どうにかしてみせます。
このまま冤罪で、黙って殺されるなんて御免ですから」
強がってはみせたものの、相手は王族が自ら発動させた儀式魔法です。
私だけでは、どうしようもありません。
キーになるのは、同じく王族である――
「フォード・エルネスティア!」
状況についていけずうろたえるばかりの情けない王子に、私は視線を送りました。
「あなたに王子としてのプライドが、ほんの少しでも残っているのなら。
あなたには、ここでやるべきことがある筈です!」
呼びかけられたフォード王子は、こちらの言葉など耳に入らないように。
ここで起きようとしている事件から、目を背けるように。
ひっそりと国王の脇に佇みます。
「フォード王子。
ここまで自分の目で見てきて、あなたは何が正しいのかを知っている筈です。
……このまま帰ることは、これだけの人数の虐殺を指示したも同然ですよ!」
国王の命を受け、剣を抜いた騎士団員。
罪の無い人を守るように立ちはだかるのは、人間の敵と言われ続けた魔族でした。
「私が虐殺を指示しただと……?」
「ええ、ここにいるのは罪もない人間。
その命を、あなたの決断で奪うことになるのです。
……あなたに、その覚悟がありますか?」
決して相容れない相手ではありましたが。
ジュリーヌさんですら、自らの行動の結果何が起こるのか分かっていただけマシでしょう。
それと比べて、フォード王子のなんと情けないことか。
自らの行動により、どのような結果を及ぼすのかを考えたこともなかったのですから。
「……自分が間違っていたことぐらい、もう分かっているのでしょう?」
裁判での発言は、もともと無理がありました。
そんなこと、本当は自分でも分かっていたでしょうに。
自らの立場を守るために、そう突き進むしかなかったとして。
そのまま突き進む先に、何があるというのか。
「私は……」
迷うフォード王子の思考を奪うように、国王が耳元で囁きます。
「カレイドル男爵令嬢と貴様の行いは、もう取り返しがつかない。
明るみに出れば貴様は廃嫡どころか、追放刑でも生温い。
見せしめのため民の鬱憤を晴らすため、惨い方法で処刑というのも有効に思えるな。
……それが嫌なら。ここで取るべき行動は分かるな?」
フォード王子に決断を迫るべく、国王は邪悪に笑います。
そのまま、国王が急かすようにフォード王子の手を引きますが……
「父上、1つだけ確認させて下さい」
フォード王子は、国王の手をパシリと払いのけました。
そうしていつになく真剣な表情で向き直ると、
「……すべてが計画通りというのなら。
ジュリーヌを、死に追いやったのもあなたということですか?」
そう問いかけました。
「何を言うかと思えばくだらない。
あれは、カレイドル男爵令嬢が自分で決めたことだ」
「だとしても、こうなることを予測していた。
止められたのにみすみす見殺しにした――そうではありませんか?」
フォード王子の問いに、国王は肯定も否定もしませんでした。
「間違いないでしょう。
儀式魔法は、ジュリーヌさんの死をトリガーとして発動するようになっていました。
必要なら、ジュリーヌさんを殺すことも考えていたはずです」
私はフォード王子の疑惑を肯定します。
「……そのような恐ろしいことを。
そうなのですか、父上?」
信じられない、と愕然と目を見開くフォード王子。
国王は、怒りに打ち震える様子をつまらなそうに見ていましたが、
「だとしたら、何か問題でも?」
やがては開き直ったように、そう答えました。
「なっ――?」
「ふん。有効活用できるものを活用して何が悪いというのだ。
カレイドル男爵は、操り易く優秀な駒であった。
『フィーネ・アレイドルを殺そうとすれば、必ず魔王が現れるはず』という提案は、何をバカなことをと思ったのだが、それすらも正しかったとはな。
その優れた器から、儀式魔法の礎にもなってくれた――ここまで計画がうまく進んだのは、彼女の"協力"があったからこそよ」
国王は、愉快そうにクックと笑いました。
戦争を起こすために、国王やフォード王子を利用しようとしたジュリーヌさん。
それを利用し、最終的には魔王を討つための儀式魔法の生贄とした国王。
「私は、本当に何も見えていなかったのだな。
ジュリーヌの想いを何も知らず。
今も、ジュリーヌの仇|《かたき》に従おうとしていたのだな……」
ぽつりとフォードは自嘲するように、そう呟きました。
「従うと思われているのだな、私は」
フォード王子は、怒りに満ちた目で国王を睨みつけました。
「……私は、この場に残って虐殺を止めて見せよう。
それが何も見てこなかった私なりの、罪の償い方だ」
「その先に未来はないぞ。
良いのだな……?」
国王の問いかけに、フォード王子は迷いなく頷いたのでした。
一人残らず皆殺しにせよ」
「かしこまりました」
国王直々の命令です。
おかしいと思う者がいても、それを口に出す者はおらず。
騎士団の者が、覚悟を決めたように剣を抜きました。
「アルテさん。
少しの間だけで良いです。兵たちに人間を守らせてください」
私は傍にいた兵士長に、そう頼みます。
「ひめさまはどうするんだ?」
「……あの儀式魔法を、どうにかします」
魔王様を拘束し、国王に対する強固な結界としても機能している儀式魔法。
あれが機能している限りは、事態はどんどん魔族に不利になっていくことでしょう。
「そんなこと可能なのか?
魔王様ですら、ああして行動を封じられてる。
人間なんかに、どうにか出来るのか?」
「どうにかしてみせます。
このまま冤罪で、黙って殺されるなんて御免ですから」
強がってはみせたものの、相手は王族が自ら発動させた儀式魔法です。
私だけでは、どうしようもありません。
キーになるのは、同じく王族である――
「フォード・エルネスティア!」
状況についていけずうろたえるばかりの情けない王子に、私は視線を送りました。
「あなたに王子としてのプライドが、ほんの少しでも残っているのなら。
あなたには、ここでやるべきことがある筈です!」
呼びかけられたフォード王子は、こちらの言葉など耳に入らないように。
ここで起きようとしている事件から、目を背けるように。
ひっそりと国王の脇に佇みます。
「フォード王子。
ここまで自分の目で見てきて、あなたは何が正しいのかを知っている筈です。
……このまま帰ることは、これだけの人数の虐殺を指示したも同然ですよ!」
国王の命を受け、剣を抜いた騎士団員。
罪の無い人を守るように立ちはだかるのは、人間の敵と言われ続けた魔族でした。
「私が虐殺を指示しただと……?」
「ええ、ここにいるのは罪もない人間。
その命を、あなたの決断で奪うことになるのです。
……あなたに、その覚悟がありますか?」
決して相容れない相手ではありましたが。
ジュリーヌさんですら、自らの行動の結果何が起こるのか分かっていただけマシでしょう。
それと比べて、フォード王子のなんと情けないことか。
自らの行動により、どのような結果を及ぼすのかを考えたこともなかったのですから。
「……自分が間違っていたことぐらい、もう分かっているのでしょう?」
裁判での発言は、もともと無理がありました。
そんなこと、本当は自分でも分かっていたでしょうに。
自らの立場を守るために、そう突き進むしかなかったとして。
そのまま突き進む先に、何があるというのか。
「私は……」
迷うフォード王子の思考を奪うように、国王が耳元で囁きます。
「カレイドル男爵令嬢と貴様の行いは、もう取り返しがつかない。
明るみに出れば貴様は廃嫡どころか、追放刑でも生温い。
見せしめのため民の鬱憤を晴らすため、惨い方法で処刑というのも有効に思えるな。
……それが嫌なら。ここで取るべき行動は分かるな?」
フォード王子に決断を迫るべく、国王は邪悪に笑います。
そのまま、国王が急かすようにフォード王子の手を引きますが……
「父上、1つだけ確認させて下さい」
フォード王子は、国王の手をパシリと払いのけました。
そうしていつになく真剣な表情で向き直ると、
「……すべてが計画通りというのなら。
ジュリーヌを、死に追いやったのもあなたということですか?」
そう問いかけました。
「何を言うかと思えばくだらない。
あれは、カレイドル男爵令嬢が自分で決めたことだ」
「だとしても、こうなることを予測していた。
止められたのにみすみす見殺しにした――そうではありませんか?」
フォード王子の問いに、国王は肯定も否定もしませんでした。
「間違いないでしょう。
儀式魔法は、ジュリーヌさんの死をトリガーとして発動するようになっていました。
必要なら、ジュリーヌさんを殺すことも考えていたはずです」
私はフォード王子の疑惑を肯定します。
「……そのような恐ろしいことを。
そうなのですか、父上?」
信じられない、と愕然と目を見開くフォード王子。
国王は、怒りに打ち震える様子をつまらなそうに見ていましたが、
「だとしたら、何か問題でも?」
やがては開き直ったように、そう答えました。
「なっ――?」
「ふん。有効活用できるものを活用して何が悪いというのだ。
カレイドル男爵は、操り易く優秀な駒であった。
『フィーネ・アレイドルを殺そうとすれば、必ず魔王が現れるはず』という提案は、何をバカなことをと思ったのだが、それすらも正しかったとはな。
その優れた器から、儀式魔法の礎にもなってくれた――ここまで計画がうまく進んだのは、彼女の"協力"があったからこそよ」
国王は、愉快そうにクックと笑いました。
戦争を起こすために、国王やフォード王子を利用しようとしたジュリーヌさん。
それを利用し、最終的には魔王を討つための儀式魔法の生贄とした国王。
「私は、本当に何も見えていなかったのだな。
ジュリーヌの想いを何も知らず。
今も、ジュリーヌの仇|《かたき》に従おうとしていたのだな……」
ぽつりとフォードは自嘲するように、そう呟きました。
「従うと思われているのだな、私は」
フォード王子は、怒りに満ちた目で国王を睨みつけました。
「……私は、この場に残って虐殺を止めて見せよう。
それが何も見てこなかった私なりの、罪の償い方だ」
「その先に未来はないぞ。
良いのだな……?」
国王の問いかけに、フォード王子は迷いなく頷いたのでした。
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