冤罪で魔族領に追放されましたが、魔王様に溺愛されているので幸せです!

アトハ

文字の大きさ
64 / 71

63. 許されたと思うなよ?

 魔王様が放ったのは、場の重力を操る魔法でした。
 本来であれば、少し動きを緩慢にする程度の効果しか及ぼさないはずの魔法ですが。
 さすがは魔王様というところでしょうか。
 術をまともに食らった騎士団員は、どれほどの力で地面に押し付けられているのか苦しそうなうめき声を上げています。


「……魔王様? やりすぎです」
「ふむ、そうか? これでもかなり力を抑えたのだがな。
 死人は出ていない筈だが?」

 その力は、あまりに圧倒的。
 これほどの人数を、1人で1回魔法を唱えただけで無力化してしまうなんて。

 私の引きつった笑みを見たのでしょうか。
 魔王様は不服そうな表情を浮かべつつ、しぶしぶといった様子で魔法の効力を弱めました。

「やっぱり、本気を出した魔王様の魔法は別格だな~!
 その気になれば、人間なんて簡単に滅ぼせるんじゃないか?」

 魔王様の近くにプカプカと浮いていたメディアルは、笑いながらそんなことを言いました。

 縁起でもない。
 そんな未来が来ないよう、ここまで奮闘して来たというのに。


「くっ、これまでか。
 我々をどうするつもりだ……?」

 魔法の効力が弱まったからでしょうか。
 どうにか立ち上がった騎士団長は、怒りのこもった目でこちらを見上げてきました。

「フィーネ・アレイドルよ。
 まさか本当に魔族と手を組んで、この国を滅ぼそうとするとはな……」
 
 たった1つの魔法で、これだけの人数を無力化してみせた魔王様。
 騎士団の面々には、あからさまな怯えの色がありました。


「罪もない人を、皆殺しにしようとしておいて。
 よくそんなことが言えますね」

 人間はこれまで、魔族に怯えて結界の中に閉じこもって生きてきました。
 私だって魔族領を恐れていた1人です。その恐怖は理解はできます……だからこそ、これから変わっていくべきです。

「この国を守るための尊い犠牲だ。
 国王陛下が、そう判断されたのだ」
「……そんな行為、見過ごせませんよ」

 容赦なく民を手にかける決意ができる国王の方が、魔族よりもはるかに恐ろしいです。


「心配しなくても、私に国をどうこうする意志はありません。
 ……だから、そんなに怯えなくても誰にも危害は加えませんよ」


 そう言う私を見返す騎士団長の目は疑惑に満ちたものでしたが。


「どちらにせよ、敗北した我々にできることは何もない。
 好きなようにするが良い」

 やがては、そう白旗を上げました。
 一見投げやりな口調ですが、その顔色はどこか晴れやかなものにも見えます。

 私は頼んで騎士団の面々を縄で縛るよう、アルテに依頼します。
 
 騎士団の反応は様々でした。
 魔族に対して、悪魔め――と呪詛を吐くもの。
 自身の凶行を止めてくれたことに感謝するもの。
 ただただ怯えてパニックに陥るもの。


 ――溝はまだまだ深いな……

 そんな中、見えた1つの希望は。

「あ、あの。
 国王が騎士団連中を差し向けてきたときは、もうダメだと思いました。
 こうして助けてくれたこと礼を言いたい」
 
 こちらにやってきてお礼を言うのは、1人の貴族でした。
 はにかみながら貴族の礼をする人物は……


「リテュール男爵?」

 裁判の場で立ち上がり、恐れることなく王子に意見をぶつけたお方です。

「ひめさまは、本当に誰にでも大人気だな?」
「いいえ、違いますよ。
 この方がお礼を言っているのは――」

 彼が、深々と礼をしたのは――この場で人間を守るために戦ったアルテ。
 アルテは驚いたような表情を浮かべ、

「ふん、勘違いするなよ。
 すべては、魔王様とひめさまのためだ」

 などと答えましたが。
 まんざらでもなさそうな表情に見えます。


 魔族に感謝する人間がいること。
 信頼関係とは呼べない、はじまったばかりの関係性ですが。
 それは一方的に怯えていた今までとは違う、小さな一歩でした。
 


◇◆◇◆◇

「メディアルさん、アルテさん。
 おふたりは、念のため騎士団員の方々を監視しておいてください。
 この方たちは、国王に命じられただけです。
 危害は加えないでくださいね」

 私は、縛り上げた騎士団員を見ながらそう魔族たちに頼みました。
 結果的に、捕虜のような扱いになるのでしょうか。
 恨みをかわないため、丁寧に扱わないといけません。


「ひめさまは、どこに向かわれるのですか?」

 アルテが、面白がるような目線を向けてきます。


「そうですね……」

 私は口に手を当てて少しだけ考えると、


「とりあえず、国王をぶん殴ろうかなと」

 ――そう簡単に済む問題ではないんですけどね……

 私は、あえて軽い口調でそう答えたのでした。

「当然、余も同行しよう」
「ですが、私の目的はあくまで和平交渉です。
 魔王様を連れて行ったら、武力で脅すような形になってしまいます」

 当然のように、こちらに歩いてくる魔王様。
 魔王様を連れていけば、圧倒的な武力で脅すような形になってしまう。
 一瞬、そう思いましたが……

「そんなものは、もはや関係ないだろう。
 先に仕掛けてきたのは国王の方だ。
 とにかく、余も同行させてもらうぞ」

 そう一方的に言われてしまえば、止める術はありませんでした。



「フィーネ。貴様は、父上の元に行くのだな?」

 一方、緊張した様子でそう尋ねてくるのはフォード王子。

「ええ。どのような結末になるにせよ。
 ――決着を付けてきます」
「この事態のきっかけを作ったのは私だ。
 どのような結末になるにせよ、一国の王子として見届けさせてくれ。
 頼む。私のことも連れて行ってくれ」

 あまりに必死に頼み込んでくるフォード王子。

 フォード王子は、本当にどうしようもない人間でしたが。
 これでも、少しは変わろうとしているなら。

「良いでしょう。
 ……どのような結末になろうと、決して後悔しないでくださいね」


 これからどうことが進むにせよ。
 たしかにフォード王子には、見届ける権利と義務があります。
 

「……本音を言うと、貴様のことは八つ裂きにしてやりたいぐらいだ」

 一方の魔王様は、固い声で。

「貴様が、フィーネにしたこと。
 余は――魔族は、決して貴様を許さない。
 覚えておけ。こうして同行を許可されたからと言って、許されたと思うなよ?」

 魔王様はピシリと釘を刺すと、冷ややかな目線を送りました。
 フォード王子は反発することもなく、コクコクと神妙に頷くのでした。
感想 12

あなたにおすすめの小説

試験でカンニング犯にされた平民ですが、帝国文官試験で首席合格しました

あきくん☆ひろくん
恋愛
魔法学園の卒業試験で、私はカンニング犯に仕立て上げられた。 断罪してきたのは、かつて好意を寄せてくれていた高位貴族の子息。そしてその隣には、私を嫌う貴族令嬢が立っていた。 平民の私には弁明の余地もない。私は試験の順位を辞退し、その場を去ることになった。 ――だが。 私にはもう一つの試験がある。 それは、帝国でも屈指の難関といわれる帝国文官試験。 そして数日後。 その結果は――首席合格だった。 冤罪で断罪された平民が、帝国の文官として身を立てる物語。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

阿里
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

「お前は妹の身代わりにすぎなかった」と捨てられた養女——でも領民が選んだのは、血の繋がらない姉の方だった

歩人
ファンタジー
孤児のフィーネは伯爵家に引き取られた。 病弱な令嬢エーデルの「代役」として。社交も、領地管理も、使用人の采配も—— 全て「エーデル様」の名前で、完璧にこなしてきた。 十一年後。健康を取り戻したエーデルが屋敷に帰還した日、伯爵は言った。 「もう用済みだ、出ていけ」 フィーネは静かに屋敷を去った。 それから一月もしないうちに、領民たちが伯爵に詰め寄った。 「前のお嬢様を返してください」

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

呪毒鑑定士の令嬢、冤罪で追放されたので国中の「呪い」を解除して回る

あめとおと
恋愛
王宮で地味に「呪物の鑑定と浄化」を担っていた伯爵令嬢。異世界から来た「聖女」に、汚いものを扱う不浄な女だと蔑まれ、婚約者の王子からも「お前の代わりは聖女がいる」と断罪・追放される。 しかし、彼女が密かに浄化していたのは、王宮の地下に溜まった建国以来の強大な呪いだった。彼女が去った瞬間、王宮は真っ黒な泥に沈み、王子たちの顔には消えない呪いの痣が浮き上がる。

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

不器量令嬢は、婚約破棄の断罪が面倒くさい

あんど もあ
ファンタジー
不器量なマルグリットは、婚約者の美しい第一王子からずっと容姿を貶められる日々。とうとう王立学園の卒業パーティーで王子に婚約破棄を宣言され、「王子から解放される! それいいかも!」となったが、続く断罪が面倒くさくて他の人に丸投げする事にする。

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!