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21. 爆誕、エルフの里の守護神

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「旦那さま。地点46ー33にレッドボアが現れたようです!」

 結界の制御台の前にいる俺には、迫りくるモンスターの姿を見ることは出来ない。見張りから受け取った情報を、ティファニアを介して受け取る形だ。あらかじめ結界に座標が設定されていたので、結界師の俺はそれを調整すれば良かった。

「その地点に味方は?」
「大丈夫です、居ません!」

 俺はうなずき、結界の術式のパラメータを一部だけ書き換える。そして、風の攻撃魔法を結界に流し込んだ。


ドゴーンッ!

 激しい轟音とともに、エルフの里の外に眩い光の筋が降り注ぐ。
 結界により水属性に変換されたウインドカッターだ。あらかじめ結界に魔力が貯めこまれていたため、ただのウインドカッターとは威力も見た目も別物のようになっていた。

「アルフレッドさん! ど、どうしたんですか!?」

 慌てたティファニアの声。

「ティファニア、どうしたんだ?」
「伝令役のアルフレッドさんが、すごく取り乱しているんです。神を怒らせた――天罰だとか」

 天罰、だと。いったい何が起きているんだ!? 熟練の見張りが取り乱すともなれば、余程のことだろう。

「なんでも遠目に見えたレッドボアに、光輝く激しい鋭い水の刃が降り注いで――浄化されたと。旦那さま、まさかとは思いますが……」
「ああ、ティファニアの想像どおりだ。それは天罰でもなんでもなく――」

 ティファニアは呆れとも安堵とも取れる、何とも言えない表情を浮かべた。

「それも結界の効果なんですね?」
「ああ、慌てる必要はないと伝えてやってくれ。これからも情報を頼むとも」

 随分と大げさな反応だな、そんなものが天罰なはずがないのに。きっと、ティファニアの緊張を和らげようとした、見張りなりのユーモアだろう。



「旦那さま、6-31です。……目標消失」
「13-46……目標消失。43ー213……目標消失」

 ティファニアの指示を受け、素早く座標を調整して魔力を撃ち込む。

「これが師匠の、世界一の結界師の仕事。私もいつか、その領域まで……」
「連携も見事です。あのバカエルフ、こんなときだけはしっかり決めるんだから……」
「紋章が、こんな形で使われるなんてな。新たな使い道、これは売れるで!」

 レッドボアの討伐は、あまりに順調だった。まずティファニアの指示が的確だった。俺は結界の術式のパラメータを素早く調整し、ウインドカッターの魔法を結界に流し続ける。


「ついに群れのリーダーであるエルダーボアが現れたそうです。地点は、33ー4」
「分かった。33ー4だな?」

 ティファニアが、ごくりとツバを飲み込み緊張した様子で言った。まずは試しだ。俺はウインドカッターの魔法を結界に打ち込む。


ドゴーンッ!

 激しい轟音が響き渡るが、もはやその効果を見守る者たちに動揺はない。


「む、生きているそうです。旦那さま、もう一発撃てますか? ダメージは与えられたそうです」
「なるほど、さすがはエルダーボア。群れのリーダーというところか……」

(エルダーボアごとき、1発で仕留められないとはな)

 この結界の威力不足を実感する。今後は触媒となる素材を埋め込み、改善していく必要がありそうだ。まあこの場をしのぐだけなら、連続で撃てばどうにでもなるだろう。

「試しに連続で100発撃つ。駄目なら他の手を考えることにする」
「ひゃ、百? だ、旦那さま何を……。アルフレッド、心を確かに保ってください。天罰、100発行きます!」

 ティファニアがアルフレッドに声をかけたのを確認し、俺はウインドカッターを連発する。できる限り魔力を均等に、共鳴効果も狙って一定間隔で流し込む。

「ねえ、エマ? 紋章魔法って、普通にあんなに連打できるものなの?」
「ふつうの人間なら、3発も撃てば魔力が空になると思うんやけど……リットさんやからな」
「師匠ですからね……」

 はあ、とアリーシャとエマがため息をつく。俺はキッチリと、100発のウインドカッターを撃ちきり、ティファニアに確認を取る。

「どうだ、ティファニア? まだエルダーボアは生きてるか?」
「いえ、エルダーボアは20発目あたりで影も形もなく消滅したとのことです。旦那さま、やりましたよ――!」

 感極まったとばかりに、ティファニアは俺に飛びついてきた。
 付きまとっていたエルフの王女としての重責。エルフの里の存亡をかけた戦いで、伝令役としての役割をしっかりと果たしたティファニアは――

「まさかエルダーボアを、こうもあっさり倒せるなんて。本当に怖かったんです――今日でここも終わりなのかって」

 俺の腕の中で、涙をこぼしていた。気丈に振舞っていたが、本当に怖かったのだろう。

「よく頑張ったな」

 俺はティファニアの頭を撫でてやる。


「旦那さまは、本当に神様みたいな人です。もしくは神が世界を救うために遣わした救世主です」
「そんな、大げさだよ」
 
 大真面目な顔で「神様みたい」と言われても困ってしまう。俺はちょっとだけ結界について詳しい、ただの結界師に過ぎないのだから。そんなことをしていると、レッドボアの討伐に出ていた者たちが戻ってきた。

「救世主さま!」
「うお、なんか救世主さまとティファニアさまが抱き合ってるぞ!」

 真っ赤になったティファニアが、パッと離れる。

「ええっと、あはは……」

それから誤魔化すように照れ笑い。

(おい、いつもは無邪気に抱きついてきたのに、その新鮮な反応はなんだ。俺まで恥ずかしくなってしまうぞ!?)

 その様子を見る人々の反応は、どこか生暖かいものだった。少なくとも「なぜ、人間なんかと!」と反発される様子はなく、そこは安心だった。
 いや、それどころか……


「リット様。エルフの里の――守護神だ!」
「救世主様! 森に舞い降りた新たな守護神に感謝を!」
「リット様! リット様! リット様!」

 おい、俺を取り囲んで、崇めるな! なんの御利益もないぞ?

「旦那さまっ!」

 そしてティファニア、さっきまでの恥ずかしそうな態度はどこに行った。じゃれつくな、そして抱きつくな!


「師匠は、救世主で守護神でした。なるほど、やっぱり神だったんですね!」

 そして我が一番弟子よ、なぜ一緒になって俺を崇めているんだ! 師匠はとっても困っている、悪ノリせず助けてくれても良いのだぞ?



 ――そうして、その日、エルフの里に守護神が誕生してしまった

 というか俺のことらしい。どうしてこうなった?
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