え、宮廷【結界師】として国を守ってきたのにお払い箱ですか!? 〜結界が破られ国が崩壊しそうだから戻って来いと言われても『今さらもう遅い』~

アトハ

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29.【王国SIDE】エリーゼ、偽聖女として地下牢に放り込まれる

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 結界を破壊して、大混乱を引き起こした数時間後。
 私たちはどうにか無事に、王都に帰り着いた。颯爽と儀式に向かったはずの聖女が、ボロボロになって急いで逃げ帰る姿を見た人々は、果たして何を思うのか。


(気が重いけど、父上に報告しない訳にはいかないよね……)

 国を混乱に陥れた大罪人のそしりは免れないだろう。それでも現状を正確に報告するのが、せめて王族としての最後の務めだった。こうなってしまっては王位など夢物語。出した被害を思えば、罪人として捕らわれる可能性だってあり得る。だとしても、


(聖女の力さえあれば。まだ何かチャンスが与えられるかもしれない――)
(この事態を納められれば、まだ返り咲ける……)

 私は諦めていなかった。
 それどころか、国の崩壊を止めた英雄になれる可能性すら夢見ていたのだ。



◆◇◆◇◆

「貴様というやつは! ほんとうに何をしてくれるのだ!」

 開口一番、国王にそう怒鳴りつけられた。
 私はその目の前で、震えながら跪くことしか出来ない。


「結界師をクビにしたことに懲りたかと思えば、1日で更なる凶報を持ち込むとはな。貴様にはほとほと愛想が尽きた――どうせ責任を取らせるつもりなら、さっさと牢にでも放り込んでしまえば良かった」

(王女である私が、牢屋ですって!)

 はるかに見通しが甘かったことを突きつけられる。
 国王は真顔も真顔。冗談を言っている様子はない。


「貴様には自室での謹慎を命じたはずだ! それなのに、いったい何をしていた?」
「まだ国のために、私にも出来ることがあると思ったんです」

「その結果がこれか!」 

 怒り冷めやらぬと国王は叫ぶ。


「……申し訳ございません。私は結界のことを、何も理解していませんでした。全ては、私の思い上がりが招いたことです」
「謝罪などもう遅いわ!」

 国王の瞳には、身内に見せる情は何もない。何を言ってもまるで心に響かない様子に、震えが止まらなかった。


「もう一度、チャンスを下さい。今度こそ、必ず期待に応えてみせますから」
「貴様は相談もなく結界に穴を空けた。国を滅ぼしかねない行為だ。
 この短期間で二度も取り返しの付かない失態を犯しておいて、どうしてチャンスなど残されていると思った?」

「そ、それは。どうか、お許しください……」

 私が今後どうなるかは、この場で決まるだろう。必死で足元にすがりつくが、乱雑に振り払われるだけだった。


「案ずるな。貴様の最後の役割は、もう決まっている」
「役割、ですか?」

(最後の?)

 不穏な言葉。
 あまりにも冷淡な声だった。一切の温かみのない宣告を聞いて、私は完全に見捨てられたことを悟る。この国王は身内であっても、役立たずには一切の容赦をしない。取り返しの付かない失態を犯した者に与えられる役割など、ろくな物ではないだろう。


「今回の件が無事に解決したら、貴様には国民の不満のはけ口となってもらう。聖女の名を騙り、国を滅びに導こうとした大罪人の処刑――さぞかし派手なショーとなろう」
「な!? 私はれっきとした聖女です。国を滅びに導こうなどとしていません!」

 告げられた内容に、体が震えるのを抑えられなかった。

 国家に仇なす大罪人の公開処刑。ストレスの溜まった国民のガス抜きも兼ねる残虐なショーである。重大な犯罪を犯した者を捕らえたモンスターと戦わせ、ジワリジワリとなぶり殺しにする最低のショーだ。
 貴族の娯楽であり、王女の私も連れていかれたことは何度もあったが――正直、好きになれなかった。始めてみた日には、トラウマになったものだ。


(そんな場に引きずり出される?)

「それだけは許して下さい。他のことなら、何でもしますから――」

 恥もプライドもなかった。頭を地面にこすり付け、必死に許しを乞う。しかし国王は、まるで心を動かされた様子はなかった。


「衛兵、そこの偽聖女を地下牢に連れていけ」
「はっ!」

 衛兵が力づくで、跪く私を立たせた。

「王女である私に、許可もなく触るなんて許されると思っているの!?」
「黙れ! エリーゼのことは、王族としてはもちろん、貴族として扱う必要すらない。国家反逆罪を適用する。どんな手段を使っても構わん――すべての罪を自白させろ」

「はっ!」


(偽聖女として国家反逆罪で処刑? 冗談じゃない!)

 必死に抵抗したが、衛兵は容赦なかった。「痛い!」と思わず悲鳴を上げてしまったが、衛兵たちはまるで気にした様子もない。強引に後ろ手に縛りあげ、ギチギチと厳重に拘束される。


「近衛! 私がこんな目に遭わされているのよ。私を守りなさいよ!」
「……結界師をクビにするときも。今回のことも、何度も忠告いたしました。近衛のことなんて何も気にかけてこなかったのに、今さら私たちを頼るのですか?」

「うるさい! この無礼者を早く切り捨てなさい!」
「……今のあなたに、命令権はない。もう会うこともないでしょう」

 私は必死でエリーゼ近衛隊に助けを求めたが、容赦なく切り捨てられた。清々しいとばかりに、笑みを隠そうともしない人までいた。私に絶対の忠誠を誓うはずのエリーゼ近衛隊ですらこの反応。


「今に見てなさい! 私にこんな事をして、ただで済むと――!」

 ショックを隠すように声高に叫ぶが、

「不愉快だ。もう黙れ!」
「むぐっ!」

 何かを口に押し当てられ、ついには喋ることすら封じられた。
 罪人の口を戒めるための拘束具。犯罪者の魔法詠唱を封じるための物だろう。私に聖女の力を使って暴れる意思なんてないのに。


「ん~! ん~!」

 ここまでされるなんて、本当にただの犯罪者ではないか。

「その者は詠唱せずとも、光魔法を行使できます。魔封じの魔法陣を両手両足に括り付けるぐらいのことは必要かと」
「情報提供感謝する」
 
 助言をしたのは、よりにもよって近衛隊のひとり。
 その言葉に従うように、両手両足に魔法の行使を封じるための魔法陣を括り付けられた。魔封じの魔法陣は、魔力を吸い出すことで術者の魔法を封じる代物だ。1つでも十分な効果があるのに、4つも付けられたら、瞬く間に魔力がすっからかんになりひどい吐き気に襲われてしまう。

(何でこんな目に遭わないといけないの! 私はれっきとした聖女なのに!?)

 涙が止まらなかった。元・王女に対する敬いなど、欠片も存在しない。そこにあったのは、国を滅ぼそうとした大罪人に対する容赦ない扱いだった。
 

 地下牢に連れていかれる私を庇う者は、誰ひとりとして居なかった。
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