そちらから身勝手に婚約破棄しておいて、今さら何の用ですか? ~記憶を失った悪役令嬢は、今さらアホ王子の相手なんてしたくない~

アトハ

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2話

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「な、何を言い出すんですか!?」
「大した魅了魔法の使い手ですね。
 そうやって王子を骨抜きにして、操るつもりだったんですね」

 実際、途中までは上手く行っていたのでしょう。
 精神干渉の術式の影響か、王子はすっかりあなたに夢中になってましたからね。
 

「術のトリガーとなるのは、その鼻が曲がりそうな臭いがする香水。
 その特徴的な香りは、サンタニア帝国の特産品ですね?」

 ドロシーの正体は、敵国の諜報員といったところでしょうか。
 王を傀儡かいらいにすることができれば、容易に国力を削ぐことができるでしょう。
 恐ろしい話です。

 
「じ、事実無根です!
 殿下は信じたりしないですよね?」
「もちろんだ。
 あれはリーリアの苦し紛れの言い訳にすぎん。
 誰に理解されずとも――私はドロシーだけを愛している」



 ドロシーの正体に言及した以上、私はここで止まるつもりはない。

「証拠もありますよ?」

 懐から精神干渉の魔法を打ち消す回復薬を取り出します。

(何故、こんなものを持っていたのでしょう?)

 まあ、持っていたものは有難く使わせて頂きましょう。



「そ、それは――」

 果たしてドロシーの反応は劇的でした。
 王子に薬を飲ませるのを、防ごうとしたのでしょう。

 なりふり構わず腰からナイフを取り出し、私に突き刺そうとします。
 王子だけなら説き伏せる自信があるのでしょうね。


「な、なんで!?」

 しかしその凶刃は、あっさりと防がれます。
 防いだのは、隠し身の術式を使っていた細身の男――第2王子のエスティーユでした。
 彼はそのままドロシーを組み伏せると、
 


「その女は、敵国のスパイだ。
 抵抗するようなら一切の容赦は必要ない。連れていけ!」
「はっ!」

 エスティーユの命を受け、近衛兵が飛んできます。

「おい! ドロシーをどうするつもりだ!?」
「決まっているでしょう。
 徹底的な取り調べで敵国との繋がりを明らかにします。
 その後、しかるべき罰が下されるでしょう」

 一国の王子を操り、国を乗っ取ろうとまで画策したのです。
 持っている情報を全て吐くまで、徹底的な取り調べが行われることは想像に難くありません。
 
 この国に、死刑は存在しません。
 国を転覆させるような大罪人は、日の光すらも届かない離れの塔に幽閉されることになります。
 だんだんと衰弱して、誰にも看取られることもなく孤独に死んでいくことになるでしょう。


「兄上、父上が呼んでいましたよ?」

 そして見事にハニートラップに引っかかった王子に、他人を気にする余裕はありません。
 その言葉を聞いて、真っ青になりました。


「……ドロシーが、敵国のスパイだと?
 私は悪くない――何も知らなかったんだ」

 王子は震えながらそう口にしました。
 ドロシーだけを愛しているなどと口にしながら、スパイ容疑がかかった瞬間この手のひら返しです。
 その発言にも、思わず呆れてしまいます。

「殿下の立場は、知らなかったでは済まされない。
 国を背負って立つものには、その影響力に見合った責任が付きまといます。
 私も公爵令嬢として、その覚悟を持って生きてきたつもりです」
「……貴様は口ぐせのように、いつもそう言っていたな」

 覚えていない私としては、曖昧に微笑むほかない。


「兄上、これは最後のチャンスだったんです。
 あなたがするべきだったのは、これまでの振る舞いを見つめ返すことでした。
 決して許して貰えなくてもリーリアに誠心誠意謝って、その判断を仰ぐべきだったんです。
 よりにもよって謝罪をしたら、側室として召し上げてやるですって?
 僕は家族であることが、本気で恥ずかしいですよ」

 弟の辛辣な言葉。


「分かってくれ、リーリア。
 私が今まで口にしてきたのは、すべてドロシーのせい――精神干渉の術式で、まともな判断が出来なくなっていたんだ。
 どうか、許してくれ――!」
「……本当に、つまらない人なんですね」

 私は元・婚約者を冷めた目で眺めます。
 今さらすがりつかれても、手遅れです。


「リーリア?」
「最初に出てくるのが反省ではなく、保身の言葉なんて。
 愛しているのは、ドロシーさんだけなのでしょう?
 あなたとの関係は、もうとっくに終わったと思っていますので」 

 

 記憶があったら、口汚く罵ってしまうかもしれませんね。
 感情を見せないのは、貴族同士のやりとりの基本。
 私は赤の他人に向けるような作り物の笑みを浮かべてみせます。
 

「あなたは完全にリーリアに見捨てられました。
 敵国のスパイにそそのかされて、公爵家と王家の関係にヒビを入れたんです。
 兄上、もう会うこともないでしょう――どうかお達者で」

 エスティーユは、実の兄をバッサリと切り捨てました。
 私の元・婚約者は、とぼとぼと国王陛下の元に向かいます――これまでの愚かな振る舞いに見合う結果を得ることになるでしょう。
 さようなら。
 
 


「リーリア。
 結局、君は危険に突っ込んでいってしまうんだね。
 あとは僕に任せて欲しいって言ったのに」

 全てが解決したのを見計らって。
 エスティーユは、私にそんな小言を言いました。


 その言葉を無視して――

「エスティーユがそこにいるのは、分かっていましたから。
 それよりも――そろそろ私の記憶、返してくれませんか?」

 私は要求を伝えることにします。
 記憶の一部が不自然に欠けた状態――不自由はありませんが、なんだか気持ち悪かったですから。
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