病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

アトハ

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それぞれの戦い

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【エリンサイド】

「まさか私が、こんな重要な任務を受けることになるなんて」

 そう呟きながら校舎内を歩く少女が1人――エリンは、怯える心を叱咤するように1歩1歩と歩みを進めていた。
 向かう先は、学生食堂――魔封じの結界の魔法陣があると言われている空間だ。

「私、ちょっと前だったら、ただ怯えて端っこの方で震えてたんだろうな。おかしいな、本当はその方がお似合いなのに……」

 自分という人間の性質は、よく分かっているとエリンは思う。
 テロリストと対峙し、その作戦の要となる役割を負う――そんな英雄のようなこと、とても自分のキャラじゃないとも思う。

 けれども本物の英雄が進む道を照らすぐらいなら、自分にもできると思うのだ。

 勇気を振り絞り、こっそりと食堂に忍び込んだエリン。
 幸い食堂には誰もいなそうで、しばし怪しい場所を探っていき、

「これが魔法陣のコア!」
「……ほう。まさかここに勘づくやつがいるとはな」

 食在庫の物陰に、禍々しい赤の魔法陣を発見。
 しかしそれを守るように、見張りの男が数人立っており、

「油断するな。相手は1人とはいえ、ここに気づくようなツワモノだ」
「……待てよ、こいつ。エリンじゃねえか?」
「エリン?」
「あれだよ、穢れた血の聖女さま」

 ねぶるような視線で見られ、エリンは背筋に冷たいものを感じて後ずさる。
 相手は5人――ましてエリンは、魔法が封じられているのだ――圧倒的に不利な状況。
 一瞬、怯えを見せるエリンであったが、

「作戦によれば、こいつは人質に使えるらしいぞ」
「あー、例のエリシュアンの魔王に大しての人質か。でもシリウス様も、ただの小娘1人を、あまりにも警戒し過ぎなんじゃないか?」
「……今、なんて言いました?」
「あ?」

 人質――フィアナに対する人質。
 この男は、そんなことを言ったのだ。
 すなわち卑怯にもこの男たちは、私の英雄――フィアナちゃんを手に掛けようというのだ。それも人質などといいう、卑劣すぎる手段を使って。
 気がつけば、エリンの身体の震えは止まっていた。

 残るのは、目の前の男たちに対する激しい怒りのみで――、


「もしかして、フィアナちゃんに手を出すつもりなんですか?」
「おい、おまえ――いったい何を!」
「フィアナちゃんを傷つける人は、たとえ誰であっても許しません!」

 エリンは、まっすぐに杖を構えてそう宣言。

「馬鹿め! ここには魔封じの結界が――」
「だから、どうしたっていうんですか!」

 そう言いながらエリンは、男たちに向かって直進。
 そのまま手にした大杖でフルスイング――吹き飛ばされ、覆面男たちたちは壁に叩きつけられる。

「な!? そんな馬鹿なっ!」
「死守だ! なんとしてでも、ここを守り抜――ぶへしっ!?」

 魔法銃による狙撃すら、杖の1振りで弾き返し。
 次々と男に躍りかかり、杖でぶん殴っては沈黙させていくエリン――その戦闘力は、鬼神のごとき圧倒的な強さであり、

「馬鹿、な――」
「あ……」

 最後の1人がバタリと気を失い、ようやく我に返るエリン。
 その周囲は、気絶した男たちで、まさに死屍累々といった様相を呈しており、

「……これ、フィアナちゃんには見せられませんね」

 返り血を拭いながら、エリンは苦笑い。
 その足で、魔法陣のもとにたどり着き……、

「えいっ!」

 魔法陣の中心に杖を叩き付け。
 見事に、1つ目の魔法陣を叩き壊すことに成功したのであった。



【セシリアサイド】

 金髪のロングヘアをなびかせ、少女――セシリアは、旧校舎を目指して歩いていた。

「風のマナよ、我が求めに従いて顕現せよ。切り裂け、唸れ、切断せよ――やっぱり駄目、ですわねえ――」


 学園の隅っこであれば、結界の効果も薄いはず。
 そう期待していたセシリアであったが、多少の揺らぎはあるものの魔法を発動せず。
 どうやら魔封じの結界は、非常に強力である様子。

「ふむ……、この校舎のどこか――ですか」

 セシリアは、記憶をたどるように目を閉じる。
 この広さの校舎で、小さな魔法陣を闇雲に探し回っても、発見することは不可能だ。
 幸い旧校舎には、何度も掃除で訪れている。その際に見かけた怪しい空間は……、

「地下1階の倉庫!」

 不自然な立ち入り禁止の札があった空間だ。

 フィアナとの勝負で訪れたその時は気にも止めなかったが、冷静に考えればあの周辺だけ明らかに手入れが行き届いていた。
 それは廃墟と化した旧校舎の中で、一部分だけ人が頻繁に出入りする空間が存在しているということで、

「ビンゴ、ですわね!」

 地下倉庫に入り込み、セシリアはそう歓声をあげる。

 その視線の先には、禍々しい赤に輝く魔法陣が稼働していた。
 魔法陣からは、淡く輝くマナの線が2本、虚空に向かって伸びていた。
 その先にも同じような魔法陣が繋がっているのだろう。

 フィアナの見立て通り、3つの魔法陣が連動して結界を生み出しているのだ。

「後は、これをどうにか破壊すれば――」
「おおっと。そいつには誰も近づけるなって、命令でね」
「ッ!」

 しげしげと魔法陣を見ているセシリアは、背後から声をかけられヒッと息を呑む。

 パッと後ずさるが、狭い倉庫で後ろに逃げ道はなく。
 魔法を封じられたセシリアは、悔しそうに歯噛みすることしか出来なかった。
 ――ちょうど、そんなタイミングであった。

「ッ!」
「なんだ、何事だ!?」
「これは……! 唸れ――風刃《ウィンド・ブレイド!》」

 それは強いていうなら、直感に近い。
 長年訓練してきたからこそ分かる微かな感覚の変化。

「やって下さったんですね!」

 果たして魔封じの結界に阻まれて、今までは発動する気配すらなかったセシリアの魔法は、不完全な形でありながらこの世に顕現する。
 ヒュウウと音を立てて、風の刃は油断していた男たちに襲いかかり、

「何だと!?」

 またたく間に男2人を、戦闘不能に追いやった。
「邪魔しないで下さいまし。邪魔するというのなら――同じ目に遭わせますわ!」

 凛々しく叫ぶセシリアであったが、

「金髪で風魔法使う――おまえ、セシリア・ローズウッドか?」
「そうだとしたら、なんですの?」
「馬鹿め! おまえの弱点は、すでに分かってる――喰らえ!」


 男が取り出したのは、数十センチほどの巨大な瓶だ。
 中には生き物が入っており、ぐにゃりとグロテスクに蠢いていた。

 瓶の中からムカデが現れ、セシリアに向かって這いずっていく。
 そのグロテスクな動きは、以前のセシリアであれば、悲鳴をあげて逃げ惑うようなものだったのかもしれないが、


「はっはっは、これで貴様は魔法が使えない無能に逆戻りだ!」
「ええ。ワタクシは――こんなものを怖がってましたのね」

 勝ち誇った様子で高笑いした男を、セシリアは哀れむように睨み返す。

 今でも虫は嫌いだ。
 けれどもセシリアが1番恐れていたのは、その秘密が暴かれて失われることになる信頼だ。

 すべての地位を失う恐怖――しかし今は、違うのだ。
 その程度のことでは、何も揺るがない確かなものを得た今、ムカデは蠢く気持ち悪い生き物でしかなく、

「邪魔ですわ」

 セシリアは、迫りくるムカデを情け容赦なく踏み潰す。

「なっ、話が違――」

 それから呆気に取られる男たちに向かって、

「おととい来やがれ、ですわ! これで終わり――踊り狂う風の妖精よ、眼前の敵を討ち滅さん――風踊竜巻ハリケーン!」

 高らかにそう宣言。
 次の瞬間、倉庫内には猛烈な風が吹き荒れ、


 パリーン!
 そう甲高い音を立てて、破壊される魔封じの魔法陣。


「ワタクシも、やりましたわよ!」

 自身の役割を果たしたのを見届け、セシリアは大きく息を吐き出すのだった。
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