病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

アトハ

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フィアナ、首謀者に挑む

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【フィアナサイド】

 私――フィアナは、魔封じの結界を解除するべく教頭先生の部屋を訪れていました。

 普段なら、ノックをしてから身長に入ることでしょう。
 だけども今の私は、テロの首謀者を追い詰める被害者の代表者という役回りでなので、

「たのもー!」
「おやおやまあまあ、本当にここにたどり着くとはね――」

 私は、勢いよく部屋に押し入ります。
 対する教頭――シリウス先生は、静かに首を振るだけで、

「やれやれ。一目見たときから、君は私の計画の邪魔になると、そう思っていましたよ」
「シリウス……、先生?」
「面白いねえ、君はこんな状態でも私のことを先生と呼ぶのか」

 シリウス先生は、そう穏やかな顔で微笑みました。

「いつから君は、私が怪しいと疑っていたんだい?」
「いえ、アレシアナさんから聞いて――」
「なるほど。あいつは、裏切ったんだね」

 シリウスは、納得したといった様子でそう呟きます。

 反応はそれだけ――手にしたおもちゃが、ただ1つ壊れただけだとでもいうよう。
 貼り付けた笑顔のまま、シリウス先生は決して表情を動かさず、

「それは……、きちんと粛清しないとね」
「させませんよ。あなたは、ここで捕らえられるんですから」
「へえ。君は、私に勝てるつもりなのかい」

 シリウス先生は、そう言いながら戦闘体制に入ります。

 彼が手にとったのは、装飾品で飾られた呼ばれる儀式用の短刀でした。
 きらびやかな武器で、騎士が使いそうな見た目を重視した剣でありつつ、

「ッ! いきなりとは、挨拶ですね!」
「ほう、今のを躱すか」

 私の瞬きと合わせて、シリウス先生は一気に距離を詰めて死角から鋭い一撃を放ってきます。

 その動きは、どちらかと言えば騎士というよりは暗殺者といったイメージがピッタリ。
 私が警戒していなければ、一瞬で急所を貫かれていたことでしょう。

「どうしましたか? 結界は、もうほとんど解除されたようなものでしょう。魔王と呼ばれた魔法の腕前――振るってみてはいかがですか?」
「先生まで魔王呼びするんですか!?」

 私は、反射的に突っ込みつつ、

「魔封じの結界が貼られた状態での試練。つまり今回の試験では、魔法抜きに実力を示せって課題ですよね?」
「はあ?」
「良いでしょう。私、魔法は使いません!」

 そう宣言した私に、


「おのれぇぇぇ! 尊き血を引かぬ卑しき平民の分際で、よりにもよって、この私を愚弄するというのかぁぁぁああ!」

 これまでの柔らかな物腰をかなぐり捨て、シリウス先生はそう吠えました。
 何が逆鱗に触れたのか分からない私をよそに、

「血の呪縛――おまえは絶対にぶち殺す!」

 シリウス先生は、血走った目でそんなことを叫びます。
 それから手にした獲物で、自らの手の甲を貫き、

「それは――血の呪い!」
「ああ。どうせおまえは、もう気づいてるんだろう――私は、犯罪ギルド・スカーレットムーンの首魁・マルコスだ」
「いえ!? 全然、気がついてませんでしたが!?」


(なんなら豹変したあなたに、軽くビビり散らかしてますが!?)

 早合点した様子のシリウス先生に、私は思わず叫び返します。

 呪い――それは従来の魔法とは異なる法則を持つ、やっかいな技術です。
 深く知られていない門外不出の秘技であり、その情報はルナミリアでも皆無。

 当然、私も初めて目にするもので、

「死ねぇぇええええ!」
「うわっ、何ですかそれ!?」
「今のすら躱すか。正真正銘のバケモノだな」

 余裕そうにくつくつと笑うシリウス先生――改めてマルコス。
 真っ赤な血が手の形を取り、背後の壁から突然襲ってきたのです。
 慌てて回避したら、血でできた手はどろりと壁に吸い込まれ、溶けるように消えていきました。

 残ったのは、血飛沫のみ――随分とグロテスクな技です。

「このナイフには、猛毒が塗ってある。少しでもかすれば、お陀仏というわけよ」
「当たれば、ですよね」
「ほざけ!」

 そう吠えるマルコス。

 その声に応えるように、部屋の壁、天井、床――いたる場所から、血濡れの手が現れました。
 上下左右、全方位から、真っ赤な手が襲いかかってくる光景は、

「まるでホラーですね!?」
「また訳の分からんことを! くたばれ、さっさとくたばっちまえ!」

 猛スピードで飛び交う血塗れの手と、猛毒ナイフたち。
 しかしそれらの攻撃は、私をかすることすらあり得ません。

「ねえ、もっと本気を出して良いですよ? これじゃあ、せっかく魔法を封じた意味がありません。目を閉じても避けられちゃいます」
「おのれぇぇええ! スカーレットムーンの我を、そこまでコケにするかぁぁあ!」

 慣れれば、ドラゴンの集団を相手取るよりは簡単です。
 あの鉤爪も、当たったら死にますからね。

 そもそも真剣勝負において、かすったら死ぬなんて当たり前のこと。
 それをわざわざ口にすることが、あまりにもナンセンスなのです。

「まさか、それで終わりですか?」
「くそっ、どうして当たらない? 当たりさえすれば、当たりさえすれば!」
「う~ん……、なら当ててみますか?」


 私は、そう言いながら立ち止まります。
 私の見立てが正しければ、ナイフに塗られた毒は神経に左右するタイプのもの。

 そもそも私は、ルナミリアでの日々で、大抵の毒物には慣れています。
 万が一、貫通してくるレベルの毒だったとしても、素早くマナを循環させてやれば中和できるはずです。

「おまえ、ふざけてるのか?」
「いいえ、これも演習の醍醐味だと思いますよ」
「良いだろう――その甘い見立て、あの世で後悔するがいい!」

 マルコスは、血塗れのナイフを飛ばしてきて、


 プスリ、
 私の腕に、ナイフが突き刺さり、

「な~んだ。これ、ただのアイロニ草に含まれてる毒じゃないですか。それなら私、3歳のときには克服しましたよ」


 私は、ポイッとナイフを引っこ抜きます。
 ……ちょっぴり、痛いです。
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