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5.王権政争救出編

7.交渉は、理屈ではなく感情で揺さぶることのススメ

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 ウルフォン公爵が休憩している談話室の扉をあけ、黒ローブと仮面姿の男2名が優雅に部屋へ入る。一人は小男、もう一人は中肉中背だ。

 当然、小男は身長の低い俺で、もう一人の標準体型男は、ノーフェースのボスであったオーファのことだ。

 「ウルフォン公爵殿。休憩中に無粋な挨拶で痛み入る。少しお時間を拝借させてもらうぞ」

 俺は、今フランド王国第三王女 アリア・フランド殿下の友人で遠国の大貴族「ゲファルナ卿」という設定なので、少し横柄な挨拶を公爵「様」にする。

 「き、き、貴様。何者だ。見張りの者はなにをやっている!!」

 「少しうるさかったので、眠ってもらっておる。気を悪くしないでもらいたい、公爵殿よ。静かに2人で話したいことがあったものじゃでな。もっとも、公爵殿の近習が、まだ貴殿の傍に侍っているのう」

 ボロがでないよう、少しエクス魔王様の口調を真似る。

 ソファーに座り、紅茶を嗜もうとするウルフォン公爵の傍に、2名の騎士と魔法師の象徴のローブを羽織った老人2名が控えており、2名の闖入者を見て攻撃の態勢をとる。

 「我らは話が済めば、この場を速やかに後にするつもりじゃ。いちおう伝えておくが、この屋敷の者たちは、気絶してもらっているだけで命は奪っていない。我の配慮を少しは理解してもらいたいものじゃがな」

 俺は、恩着せがましく「殺してはいない」ことを強調する。

 「それとも、近習たちにも、話し合いの邪魔をできないようにしてほしいかのう?公爵殿よ」

 俺が、そのセリフを口にした瞬間、仮面にローブ姿の4名が、突然天井から現れ、騎士と魔法師の背後をとる。そして、騎士達の首筋に後ろからショートソードを押し付け、近習全員の首筋から少しだけ血が流れる。

 「クッ!」と騎士の一人が声を発した。

 「お前たち。その騎士ならびに魔法師が少しでも動いたら、頸を裂け!」

 俺は、ノーフェースの4名に冷静に命じ、全員が目線で俺の命令にうなずく。

 『こやつら、人間にしては、なかなかつかえる手駒ではないかのう?主殿よ』

 エクスも幹部たちの動きに感心しているようだ。

 「さて、ウルフォン公爵殿よ。これで静かに話ができるというものじゃな」

 俺はその後、公爵の向かい側のソファーに腰を掛ける。オーファは護衛としてソファーの後ろで立ちながら危険がないか見張っている。

 自分の近習の騎士・魔法師(おそらく公爵家の精鋭たち)全員が、アッという間に背後をとられ、剣を首に突きつけられているのを目の当たりにしてウルフォン公爵は、恐怖と焦りから真っ青な顔をして、その小太りの丸顔から大量の汗を流している。

 もちろん、こんなに事がうまく運んだのは、ノーフェースの幹部たちが優秀なのはあったけど、俺も大いに手助けをしている。

 まずは、侵入する6名全員に隠匿魔法をかけるだけでなく、屋敷全体に魔素を感知できないよう二重で隠匿魔法を展開させている。さらに、騎士と魔法師の4名に動きと判断が鈍くなる精神侵襲型の睡眠導入魔法「デパース」をかけていた。

 「公爵殿。まだ自己紹介をしていなかったのう。我は、「ゲファルナ」というものじゃ。フランド王国から見ると、遠国の皇族に血を連ねる者じゃ。この国の呼び方でいうと、「ゲファルナ卿」とでも呼んでもらおうかのう」

 公爵は、青い顔で、まだ精神的に立ち直れてないようだ。
 それでも、理解したという意味で、辛うじてうなずいてみせた。

 「よろしい。公爵殿よ。我の周りで実に気分が悪いことが起こってのう。それで、なんとかならんものかと貴殿のところに姿をみせたという訳じゃ。なんでも、我の友人のアリア殿とその部下が監禁され、殺されそうになっているというではないか。この国の法を司る役職のものを使い、第一王子殿と貴殿が画策しているという噂を耳にしてのう。我も友人の危機に手を貸さぬ訳にはいかぬわ」


 「ち、ち、違う。それは違う」

 公爵は、ようやく声を絞り出した。

 「そ、そ、その件は、私は関係ない。法務大臣が我が国の法に照らし合わせて、適切に判断したと聞いている。第一王子殿下も私も口を出す立場にない」

 予想通りの返答をしてきた。

 「ほう。ならば、公爵殿は、今回の仕置きについてはどのように思っておるのじゃ?」

 「わ、わたしは、王女殿下たちへの仕置きに対して、意見をする立場にはない」

 「模範解答じゃのう。我ももちろん、無料(ただ)で、手を引けとは言わんぞ。土産をもってきておる」

 俺はそう言い、シスプチン王国の誘拐実行犯であった5名の身に着けていた、全身鎧と損壊している死体をエクスの亞空間から、つぎつぎに取り出しおし並べる。

 「この者たちは、この国の隣国であるシスプチン王国の刺客じゃ。先日の「魔獣狩り」とやらで、アリア殿たちを誘拐しようと悪さをしたため、我が息の根を止めておいたわ」

 「,,,,,,,,,,,,,,,,,,。」

 公爵は、驚きのあまり声がでないようだった。
 一応、死体は腐らないよう、亜空間では凍結保存しているから、腐乱臭などは発していない。

 「さらに、不思議なことに、こ奴らは、国境近くの南西の海からではなく、この国の国土を回って北の方角から国境を侵したことまではわかっておる。「魔獣狩り」の場所から北部の方面とはいえば、公爵殿、因果な事じゃな。全く」

 俺は、すべてお見通しとばかりに、遠回しに、公爵へ促す。
 俺はさらに続ける。

 「我に考えがあってのう。もしシスプチン王国の工作員の侵入や潜伏に名門の公爵家が協力した、またはお目こぼしをしたという噂が流れればどうなるかのう?しかも、王陛下の陣立ての占いにもこっそり細工を施した、となればのう?公爵殿よ」

 「しょ、証拠などなにもない。そんな下手な脅しに乗ると思っているのか!」

 アリアさんが最前線で、アモン召喚場所の近くの配置になるように、公爵かシスプチン王国のどちらかが手をまわしているとにらんでいたが、この反応を見るとどうやら公爵の仕業のようだ。

 公爵の中央政府内への根の張り方は深く油断ならないと気を引き締める。

 「そうじゃのう。それも模範解答じゃ。しかし、隣国とこの国は長きにわたり戦っておる。たとえ噂でも工作員を招き入れた、見逃したと疑惑が公爵殿にまとわりつく。しかも皇族の一人を敵国に売ったなれば、派閥の支持と影響力は確実に弱まるぞ。もはや理屈ではなく感情の問題じゃ。それともう一つ。この鎧、工作員どもの死体,,,,,,,に加えて、公爵家の軍旗をシスプチン王国の国王の寝室においたとすればどうじゃ?」

 隣国シスプチン王国の国王は、非常に苛烈な性格をしていると周辺国にも広く伝わっている。自分放った刺客が返り討ちにあい、しかも寝室に知らぬ間に侵入され、鎧と死体が置いてあったとすれば、烈火のごとく怒り狂うだろう。しかもその矛先は、間違いなく、フランド王国ではなく、わざわざ公爵家の軍旗をおいていき、挑発してきたウルフォン公爵家へ向かう。

 しかも、一国家ではなく、一公爵家が相手となれば、軍事力の高いシスプチン王国へご機嫌伺いをしたい他の周辺国もウルフォン公爵の命を狙いに来るだろうなと計算する。

 公爵が、さらに顔を青くした。

 狙い通りと俺は内心ほくそ笑む。
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