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5.王権政争救出編

8.交渉は、相手の狙いを理解したうえで小細工を仕掛けることのススメ

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 一国家ではなく、一公爵家が相手となれば、軍事力が高いシスプチン王国へご機嫌伺いをしたい他の周辺国もウルフォン公爵の命を狙いに来るだろうなと計算する。

 公爵が、さらに顔を青くした。

 狙い通りと俺は内心ほくそ笑む。

 この時、国内で影響力が落ちているウルフォン公爵家をフランド王国が国を挙げて本気で盾になってまで守ろうとするだろうか。

 「,,,,,,,,,,,,,」

 公爵が俺の脅しを想像し、世界中から狙われることを意識したのか押し黙る。
 
 ダメ押しとばかりに、俺は続ける。

 「それと、我は心を読み取れる秘術をもっているとしたらどうするな?さすれば、今回の工作員の国境侵犯の件も含め、アリア殿たちへの公爵殿の悪意と関与具合がわかろうな。貴殿は、今回の件は関係ないと言うたが、もし嘘をついていた場合は、貴殿の魂を砕く呪いをかけることもできるぞ。主(ぬし)の近習は魔法師もいるようじゃな。どれ、我の力の片鱗を見せてやろうかのう」

 俺は公爵のことを、公爵殿や貴殿から主(ぬし)とわざわざ言い換える。

 そして、魔法師のうち、より魔素の扱いがうまいであろう右側の魔法師に向けて、右手をかざし、エクスからの禍々しい魔素を当てる。

 急に老人の一人が顎をガチガチさせて、真っ青な顔をした後、膝を折り、床に倒れ、頭を抱えてうずくまる。そこまで、オーバーリアクションしなくともよいじゃないか?と俺は逆にびっくりしたが、もちろん顔にださない。

 「お、お、お許しを!!どうかお許しを!!偉大なる御使い様。私は金輪際、あなた様の前には現れませぬ故、今回ばかりは何卒ご慈悲を!!浅はかな私にどうかご慈悲を!!」

 「ベ、ベ、ベンズ。どうしたのだ!!ベンズ!!」

 魔法師の老人の一人があまりに様子がおかしいため、公爵も焦る。
 
 ちなみにもう一人の左側の魔法師も禍々しい魔素にあてられたのか、両膝をついて、両手を顔の前に組み、頭を下げて俺に慈悲を願ってくる。

 「偉大なる御使い様」って、いっていたけど、エクスは魔王だから、「神の御使い」の訳がない。せいぜい、甘味をねだってくる「金使い」様が精一杯だ、と別の事を考える。


 「ベルグ様。間違っても、このお方に逆らってはなりませぬ。これが私の最後の進言でございます。私は今を持ちまして、お暇を頂戴いたします」

 「わ、わ、私も今を持ちましてお暇をいただきます。ま、ま、まだなさねばならぬことがあります故、お許しください」

 と魔法師2名が、ウルフォン公爵家に立て続けに暇をもらうと宣言した。
 
 俺は、公爵家の主従のやり取りを聞いて、公爵は、ベルグ・ウルフォン公爵という名前なんだなと、また関係ないことを考えていた。気をとりなして言葉を続ける。

 「さて、公爵殿よ。もう一度、主(ぬし)に問う。次はない。我の友人のアリア殿とその部下シルフェ嬢が監禁され、殺されそうになっている。どうするな? 我は主(ぬし)から、二人が無罪であるだろうから、すぐに開放すべしとの進言状を書いてくれること、そして、今後、2名から一切の手を引くと、この場で、魔法契約にて約定してくれさえすれば、おとなしく退散するがのう」

 「クッ。他国の皇族が我が国の王権争いに口を出すつもりか!!」

 公爵が恐怖を怒りで克服し、俺に怒鳴り声をあげる。

 「ベルグ様!!なりませぬ!」

 と魔法師の老人が二人同時に主人、いや元主人を諫めようとする。

 公爵の荒声に呼応し、騎士達2名も動き出そうとし、ノーフェースの2名のショートソードがさらに騎士たちの首筋に食い込み、動きを再度止める。

 俺が右手をかざすと、全員が動きを一瞬とめ、息をのむ。

 「公爵殿は、勘違いしているようじゃのう。アリア殿はすでに第二王女殿が謹慎させられた時点で主(ぬし)と第一王子殿に抗う力はない。シルフェ嬢も身分違いの職を得たため、主(ぬし)と主(ぬし)の派閥から妬みは買っていたであろうが、投獄され、辱めを受けた時点(操を護るため、自分の排泄物を頭からかぶったこと)で、もう十分意趣返しはしたであろう。この辺で許してやれ。もしアリア殿が再度王権争いに絡む場合は、ここまで追い込まれたことで失った権威と信頼を取り戻し、一から自派閥を作り直さねばならぬ。そして、第一王子殿との不利を跳ね返すことがどれほど困難なことか、主(ぬし)にもわかっておるじゃろうが。今更二人の命を奪ってなんになる」

 俺が冷静に現状分析を伝えたところ、公爵もようやく冷静になったようだ。この辺の感情の切り替えの早さはさすが大貴族様だな、と感心する。

 ウルフォン公爵が口を開く。

 「ゲファルナ卿はいったい何が狙いだ?アリア殿下たちを助け、その余勢を駆って、次は第二王女殿下の窮地を救うつもりか?」

 「我は、アリア殿と友誼を結んでおるで、友人を見捨てる訳にはいかぬ。ただ、それだけじゃ。第二王女殿とは面識がないため、口出しするつもりはないわ」

 俺は、「今のところは」第二王女と面識がないことを説明する。

 「ベルグ様。優秀な将は引き際を見誤らないものですぞ」

 と、ベンズと呼ばれていた老人が、床に這いつくばりながら、再度進言してくる。

 「クッ。わ、わかった。今後、王権争いにかかわらぬ限り、アリア殿下と忌々しい専属魔法師のアンダーソンには手出しはせぬことをここに誓おう。そちらにもシスプチン王国の刺客の事はわすれてもらう」

 俺はその言質をとったので、すぐに魔法で、ここにいる公爵、騎士、魔法師含め全員を縛った。

 ちなみに、今の契約では、俺が王権争いに「勝手に」介入した時は、縛りは発生しない。

 『クックック。主殿は相変わらず魔法契約での小細工がすぎるのう。それでは大物になれぬぞ』

 エクスちゃんよ。小者は小細工のテクニックを駆使するから小者なのだよ。

 その後、俺は、公爵に、アリアさんとシルフェさんは無実だろうから、無罪放免にするべきと法務大臣、第一王子あての進言状を書くように、真っ新な書面と万年筆を公爵との間にあるテーブルに広げておく。

 公爵は、一瞬だけ、眉間に皺を寄せたが、俺の要求のままに、法務大臣あてと第一王子あてに、二人の嫌疑の証拠はないため、法の解釈に従い、適切な判断をするように進言する書状を急ぎ書き上げ、「ベルグ・ウルフォン公爵」とわかるようにサインをした。

 俺はその公爵の自筆の進言状2通を筒状に丸めて懐にしまう。

 「これで、すべて約定成立じゃのう。邪魔したのう。公爵殿。これでも、我は礼儀をわきまえているつもりでのう。公爵殿が執務を終えて、一息いれるのを待っておったかいがあったというものじゃ」

 「我が屋敷内の動きも筒抜けなのか!」

 公爵は悔しさを隠さない。

 「では、用件は終わった。我らはお暇させてもらおうかのう。さらばじゃ。」

 「もう二度と私の前に現れないでくれ」

 と公爵は捨て台詞を吐く。

 「それは主(ぬし)次第じゃ。では、さらばじゃのう皆の衆!」

 と俺は、念の為の脅しをかけ、自分、ノーフェース5名全員、シスプチン王国の全身鎧、そして、死体をすべて、王都のノーフェースのアジトへ転移させた。




 『主殿よ。我は、あんな「皆の衆」なんて婆くさいセリフはいわぬわ!』

 とアジトに戻ってすぐに、なぜか「皆の衆」という表現が癇に障ったエクスに怒られた。

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