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6.新派閥旗揚げ編

2.交渉の極意とは、共に活きることであることのススメ

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 俺は、これから4か月のうちに、行うことの説明を行う。

 まず、アリアさんには、第一王子とウルフォン公爵と交渉をし、アリアさんとシルフェさんには手出ししないよう取引はしたが、相手の出方次第で状況が大きくかわり、非常に危うい状況であることを説明した。

 早急に、第三王女側近のみで、自立、自衛そして中央政府内に存在感を示すことが必要であるとアリアさんに説いた。

 まずは、優秀な人材を集めることが火急の課題であり、その他、自衛のための組織の旗揚げには、「人材」に加えて、「資金源の創出」と組織運営のための「戦略級の資材」についても手当が必要だと説明した。組織論でよく言われる、「ヒト」「カネ」「モノ」というやつだ。

 俺は、第三王女としての「生存権」を確保するために、人材関連について、アリアさんへ以下に3つを行うよう説明した。他の「資金源の創出」と「戦略級資材についての手当て」は、参謀して俺の方で対応することを伝える。

【アリアさんの火急の課題】

 ①信頼できる側近を集めること。
 まずは身を守ってくれる護衛騎士を雇用すること。ここで注意したのが、そこまで護衛として優秀でなくともよいが、信頼できる人間を選ぶこと。そして、その護衛騎士を厚遇すること。

 それが終わったのちは、俺の後任の参謀を探すこと。

 ➁第三王女独自の派閥をつくること。
 ここで注意したのは、派閥の目標は第一王子打倒や第二王女派閥の復活などではなく、第三王女派閥が第一王子派からみて、潰すのは「面倒」と思わせること。

 また、旧第二王女派閥で、魔技閥のルートン家など、今更第一王子派閥へ鞍替えできないメンバーを必ず保護し、身を切ってでも守ることを強く説明した。

 ③長期目標をアリアさん自身が考え決意すること
 例えば、魔法や工業技術を核に国を発展させること、とか、第一王子やウルフォン公爵が暴走しないよう第三王女派が防波堤になる、や、自分が王位を目指す、とか、あくまで第二王女を救出する、とか。

 ここで注意したのは、長期目標は、派閥のリーダーが決めてその通りに行動してみせないと、周りのメンバーがついてこなくなってしまうということを説明する。

 アリアさんはわかったとばかりに何度も頷いていた。

 俺の話が終わったのち、やはり、最後にアリアさんは言いにくそうに切り出してくる。

 「ゲファルナ卿。姉様を、第二王女キャリソン・フランドを救出し、王都に迎え入れるよう手を打つことはできませんか?」

 「アリア殿よ。残念ながら、今は我らにその力はない。第一王子殿下の力はアリア殿の想像以上の大きさで、いたるところに根をはっておる。今はアリア殿の身の安全を確保するのが精いっぱいじゃ」

 「それでは、いつならば、姉様の救出がかないますか?」

 アリアさんも譲らない。俺は隠し立てせず、正直に実情を話す。

 □第一王子とアリアさんの今の勢力差、政治力の差は、それこそ20倍以上あること。
 □仮に今、第二王女を王都に迎え入れることができても、第二王女、アリアさんともに暗殺の危機にさらされること。
 □負けた勢力に、再度戻ってくる与力は3割あるかどうかという状況であるため、自勢力以外の増援は期待できないこと。
 □今すぐにアリアさんが第二王女救出に動けば、矛を納めた第一王子と公爵が再び牙をむいてくることは明らかであること

 最後に「小役人のススメ」の交渉の際の注意点についての一説があったので、その意図を説明した。今回のアリアさんたちの救出に際して、俺も大いに助けられた。

 「交渉するは、敵の意図を見抜き報を揃え、自らの狙いを組み合わせること也。勝敗ではなく共活がその神髄となる也」

 つまり、交渉するときは、相手の目的を正確に把握してその優先順位を理解しないとうまくいかない。自分の優先順位も考えて、取りに行くべきは利益を取りにいき、譲るべきは譲らないと話が膠着してしまう。理想的には、勝ち負けではなく、双方、優先順位の高いものをお互いに得ることが最善である、という意味だ。

 今回の状況に当てはめると、第一王子や公爵は、最大の政敵である第二王女を排除することを真の目的にしている。俺は、この一説の教えに従い、俺が厄介な力をもっていることを第一王子たちにわざわざ見せつけて、真の目的の障害になると思われるよう不安をあおった。その後、相手に脅しや利益を与え、相手の真の目的の障害にはならないことを強調した。あくまで、相手側にとっては、優先順位の低く、おまけであったアリアさんとシルフェさんの安全のみが目的であることを示し、見逃してもらった状況だ。

 相手の本命の第二王女の身柄を交渉の俎上に載せるには、今の第一王子派とアリアさんとは、力の差がありすぎる。

 「気休め程度」とはアリアさんには言えないが、今できる最善は、第二王女が遠方の謹慎の地で暗殺されないよう、信頼できる護衛を陰ながら派遣するぐらいしかできないだろう。

 俺の説明に納得はしていないようだが、今は力の差がありすぎて身動きがとれない点は理解したようだ。アリアさんに包み隠さず説明しているときに、先ほどまでアリアさんと一緒に頭を下げていた、侍女の2名が、俺を、怒髪天をつく勢いで睨んできたが、事実だから致し方ない。

 侍女の2名を見て、俺は、アリアさんには、冷静に、主を諫めることができる側近を持つ必要があると思った。

 侍女たちの目つきが鋭くなっているのに気が付いたアリアさんは2人に控えるよう嗜める。アリアさんは、しっかり部下をコントロールできるのだな、と少し見直した。

 その後、話が、俺が提案した内容の詳細となった。

 「ゲファルナ卿。護衛騎士に誰か適任者がいたらご紹介いただけないでしょうか?」

 「残念ながら、我から紹介できるものとすれば、皇族の護衛騎士としては、身分違いで、結局、前任の専属魔法師殿と同様に目をつけられてしまうぞ。支持母体の魔技閥か運輸流通閥に連なる忠義の篤いものを探すが近道じゃと思うが」

 「そうですか。わかりました。では、それほど優秀でなくとも厚遇するというのはいったい?」

 俺が先刻言った内容についてアリアさんが確認してくる。

 「アリア派はこれから人材を集めていかねばならぬはず。それほど優秀でないものでも厚遇されているという噂が流れれば、頭角を現していない優秀な隠れた人材が名乗りを上げてくるものじゃ」

 これも「小役人のススメ」の知恵だ。

 「凡庸厚遇にて奇才現れる也」とあり、「優れた者を集めるため、平凡な者を厚遇することで自然と優秀な人が集まるように仕向けるべき」という教えだ。

 結局、アリアさんとの今後の方針のすり合わせは、5時間にも及んだ。
 
 そして、魔技省のルートン次官とは、アリアさんと俺とで会うよう手配することになった。
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