上 下
26 / 66

26話

しおりを挟む
哀留と円が風紀室へ向かっている頃……


風紀室はカオスっていた。




NO side





蓮達3人は、目の前での事がいまだに信じられずに固まっていた。


「本当、唯は可愛い顔してるな」

「なっ////俺は男だぞ!!可愛いって―…///」

「照れんな照れんな。ほらクッキー好きだろ?食え食え」


照れながらも満更じゃなく、クッキーを食べる唯。
そんな彼を、クスクスと笑いながらからかう東。


彼は前風紀委員長であり、ありとあらゆる意味で有名な人物だった。

その彼が、あの転入生と風紀室でいちゃこらしているのだ。
そんな現場を目の当たりにしている蓮達が、混乱していても無理はない。


そんないつまでも入り口に突っ立っている彼らに、唯が声をかけた。


「あ!いつまでもそこに居るなよ!こっち!こっち来て座れよ!!!」


キラキラと輝く笑顔を振りまき、蓮達に我が物顔でソファーに座るように促す。
先ほど、蓮に怒鳴られ泣きそうになっていたのが嘘のようだ。


その場違いな声に、やっと動き出した蓮が声色を低くしながら口を開いた。

「…―何で部外者のお前が此処にいる?此処は生徒会と同様、一般生徒は立ち入り禁止だ…」


それに、此処は鍵もかけていたはずだが?


…―そう、風紀室には鍵がかけられていた。
しかも、普通の鍵では開かない。

原則、風紀の幹部は学園内の教室・各部屋の鍵が開けられるように設定されている、カードキーを持っている。
それは、防犯や規律を守り正す風紀委員に必要な物だった。

ただし、生徒会室だけは生徒会役員達と風紀委員長のカードキーでしか開けられない。
それは生徒会に重要な書類やらが置いてあるためで―……つまり、それは風紀室も同様だった。


風紀室の鍵は各学年幹部と委員長・副委員長と、生徒会長のカードキーでしか開けられない。


ではなぜ一般生徒である唯が、鍵がかかっていた部屋に入れたのか?


…―答えは簡単だった。


「あぁ、俺が開けたんだけど?」


東のカードキーで開けたのだ。
本来ならば悪用されないためにも、役員を辞めた場合カードキーに組み込まれていた情報も消去するのだが―…委員長を辞めた今でも、東はそのシステムを使用出来ているのだ。


それは、皆川 東だからこそ出来ることで、許されることだった。


この時、蓮・彼方・大輝の中で同じ言葉が駆け巡った。



(((余計なことを――……!!!!!!!!)))



本当に余計な事だ。
何故に厄介な人物を、自分達のテリトリーに招かねばならない…


蓮は、東に軽蔑するような視線を向けた。

「……鍵をあんたが開けたとしても、何故部外者を入れた」


そうなのだ。
何故、東が唯を室内に入れた?
何故、そんなに平然と部外者を受け入れているのだ?
あの皆川 東が―……?




「あぁ?だって、唯は新しい風紀委員長になるんだろ?」



「は!!?」

「―…っ?!!」

「…あんたがそれを言うのか!!??」



東から発せられたそれは。
哀留を、拒絶するような言葉だった。




その時、ガチャッと静かに扉が開けられた。
室内にいる全員が振り向くと、そこには―……




「―………えっと、俺今KY?」 




頭をカリカリとかきながら苦笑する、哀留がそこにいた。



NO side end




************




哀留side


俺と円は早歩きだった足を、駆け足に変えて風紀室へと走っていた。


必ず何か起きる。

あの変人委員長が、ただで俺らの前に現れるはずがない!!
そう確信し叫んだ。


「くっそ―!!!!変人なら変人変態らしく、土の中に埋まっていればいいんだぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」

「哀ちゃ―ん、それって土に還れって事ぉ?」

「お―いえ―!肥料になれば草花の役にたつじゃん」

むしろ俺が埋めたるわ!!と、妙にハイになって円と会話をする。
けらけらと笑う円が可愛い。

荒んだ心に、円と言うキュンを入れていると―


…前方に青い髪を発見した。


ヲイコラ。
放課後風紀室集合って連絡あったのに、何を悠長に歩いてんだね君は?!


「円隊員!前方よりターゲットを発見!」

「遅刻ぅ?生け贄にしたら良いと思いまぁす」

「思いまぁす」


そうと決まったら即行動あるのみ!
俺達は足を更に早めて、此方に後ろを向いてゆったり歩いている青髪―……せっちゃんの背後から、両脇にぐわしっと手を突っ込んだ。

「あ゛ぁ゛!!!??」

当然驚くせっちゃん。拳が振り上げられたが、犯人が俺と円だと気づくと一瞬ぴたりと動きを止めた。

その隙を見逃さず、俺達は走り出した。


せっちゃんの両腕を掴みながら←


そうなると、せっちゃんも強制的に一緒に走ることになる。

「はぁ゛?!てめぇらなにしやがr「連行と言う名の、追加生け贄だよせっちゃん☆」」

パチンとウィンクを飛ばしたら、蔑んだ視線を向けられた。
なんだよ、俺に喧嘩売ってんのか?
今なら盛大に買ってやるぞ!!?

そのまま視線で攻防をしながら走ると、あっという間に風紀室に着いた。
ちっ。
決着は後でつけてやる!


ふぅっと乱れた息を整え、扉に手をかけようとしたら―……




「あぁ?だって、唯は新しい風紀委員長になるんだろ?」




は?


中から、あの人の声が聞こえた。
しかも、内容が内容だ。
どんな展開なわけ???


何やら蓮達の怒鳴り声が聞こえる中、俺は扉を開けた。


「―………えっと、俺今KY?」 



そう言いながら室内に入ると、俺の登場にひぃりんとカナたんの顔が驚愕で歪み、蓮の顔は般若になっていた。


え、何故にその般若顔で俺に近づく?!


すると、バッシィン!!!と盛大に頭を叩かれた。

「!!は、え!??俺なんかした??!!」

「その間抜け面に腹立ったんだよ、悪いか阿呆が。悔しかったら整形してこい」


超 理 不 尽!!!!!


が。イラッイラしている蓮に、刃向かうHPは今の俺には無かった。
このHPは違う人物に使うんだよ!
すると、その人物―…

「あれ?何だ哀留達も来たのか?」

変態皆川先輩は、優雅にソファーに座りクスクスと俺達を見ていた。

それにいち早く気づいたのはせっちゃんで、

「あぁん?何でお前が居んだよ」

ぐっと眉間にシワを寄せ、嫌そうな表情をした。
そりゃそうだ、この人に関わるとろくな事がない。
それを身を持って知っているせっちゃんは「…チッ。だから生け贄かよ」と、俺がさっき言った台詞を思いだし、俺を睨んできた。


生け贄あざ―す


にやにやとせっちゃんを見ていると、いきなりひぃりんに抱きつかれた。

「!ひぃりん?」

「…俺の委員長は先輩だけっす…!!!!!」

泣きそうに顔を歪め、ぎゅうぎゅうと抱きついてくるひぃりんに、キュンッとしたが―……流石の俺も空気を読んだ。

まぁ、恐らくさっき聞こえてしまった皆川先輩の言葉が原因だろう。

カナたんを見ると、カナたんは不機嫌な表情で皆川さんを睨み、蓮の般若は引き続き、円はさっきの言葉が聞こえていなかったのか首を傾げて蓮達を見ていた。



さっきの台詞―…



俺じゃなく、あの小猿を風紀委員長にする―…


といった事。


俺は再び頭をカリカリとかいて、ゆるりとひぃりんを引き剥がした。
そのさいに、頭をポンポンと撫でて笑ってやると、ひぃりんの表情もいくらか和らいだ。

そして、蓮達の前に出て皆川先輩と向き合う。


と、


「哀留!何で此処に居るんだよ!!?」

皆川先輩の隣から、小猿が顔を出した。
お―お―、口元クッキーの食いカスをくっつけてやがるy―……ちょっと待て。
そのクッキーは、俺が買ってきたやつじゃんか!
限定品だから、少しずつ食おうとしてたやつなんだけど?!
それをお前―……


だが、イラッとしながらも俺は大人だから(あ、小猿くんよりはな!)、小猿くんに返事した。

「それはこちらの台詞だよ、転入生くん。何で一般生徒の君が此処に居るの?立ち入り禁止のはずだけど?
……そして、何故それを食っている?俺のだぞ?食い物の恨みは深いんだかんな?
ぜってぇ忘れねぇからなぁぁあ!!!!」


大人な対応をした。
もう一度言おう。
大人な対応をしたのだよ!

しかし、やんわり(?)と言ったこの言葉に、小猿くんはむっとしたのか唇を尖らせた。

「何言ってんだよ!委員長になるんだから、そんなの関係ないじゃん!哀留の方こそ来ちゃだめだろ!!!」

それに、このクッキーは此処(風紀室)にあったんだから皆の物だ!

そう堂々とのたまった小猿を殺らなかった俺は……超偉いと思う。


後方から「え、何あいつ言ってんのぉ…」と、円の言葉と怒気が流れてきたが、カナたんとひぃりんが止めてくれているらしい。
偉い子達だ。
此処で円が暴れたら、俺が我慢している意味がない。報復はこの手で…!!!


とりあえず。こほんと、咳払いをし、果てしなく図々しい小猿くんに再確認する。

「えっと、その委員長になるって話さ……君が勝手に言ってる事でしょ?」

「違う!東だって、俺が風紀委員長に相応しいって言ってくれた!!!皆だって、哀留みたいな平凡で何も出来ない奴よりも、俺の方が相応しいって思ってる!!!!」

随分な自信だよな。
さり気に俺も貶してるし(笑)

……と言うか、小猿くんがここまで自信を持ったのは、間違いなく目の前で楽しそうにしているオレンジのせいだよ。


風紀委員は、風紀委員長の推薦で決められるのがだいたいだが。
辞める時も、風紀委員長の権限で辞めさせれる。


だが、委員長というトップを辞めさせるときは、前委員長の権限が可能で―………

つまり。
皆川先輩に、その権限があると言うことだった。
皆川先輩にかかれば、俺を辞めさせ小猿くんを委員長に据えるのは簡単だ。

小猿くんもそんな皆川先輩の後押しがあるから、あんなに自信満々なんだろう。


すると、壁によりかかってしばし傍観していたせっちゃんが口を開いた。

「おい皆川。てめぇマジでそいつが相応しいって言ったのか?」

「唯がなりたいって言ったから。駄目か?」

クスクスと、小猿くんの頭を撫でる皆川先輩と、その様子に満足気な小猿くん。


あぁ―……
そういう事か。


わかってしまった。


「…何、皆川先輩も惚れたんだ?」


「「「!!?」」」


俺の言葉に、後から驚愕で息を呑む音が聞こえた。


そんな俺達に皆川先輩は、

「さぁ、どうだろ?」

と、人を小馬鹿にするような笑みを絶やさない。


なんだ、そっか。
簡単な事なんだよな。
小猿くんに惚れたから、小猿くんの望みを叶えようとする。
だからこうして、普段は傍観してるくせに今回は俺達の前に現れ―…こんなお膳立てもした。


あ――所詮変態変人な人も、一端の恋愛感情ってもんを持った男だって事か。
ボンクラ生徒会連中と同じかい!

思わず、ふぅっとため息がでた。

「あ―…で、結局俺は委員長を辞めさせられるのか?」

つまりはこういう展開だろ?


そう言った次の瞬間、

「哀留!!!」

「哀ちゃん!!!!!」

「ざけんなよ!」

「先輩!!!駄目っす!!!」

「冗談は止しなさい!!」


一斉に後ろから怒鳴られた。
ちらっと後を見ると、5人と視線がぶつかる。
揺らいでいる視線、縋るような視線、不機嫌な視線。
様々だったが、皆俺に怒りをぶつけてきていた。


本気で、辞めるとか言っているのか―…?!と。


それは、俺が「風紀委員長」として彼らに認められているって証だった。

こんな時になって、皆から認められていたって気づくのは遅いかもしれないが―……嬉しかった。
単純に照れた。


思わず口元に笑みを浮かべていたら―…それを見ていた小猿くんの顔が歪んだのに気づいた。

だから、更に笑みを深めてやった。


嫉妬かよ?醜い顔になってるぜ?


すると、まぁ人様にお見せできないくらいに、小猿くんの表情が更に歪んだのが見えた。


ちょ!!隠して隠して!!
あんた、一応顔だけは良いんだから!!(笑)



結果。
小猿くんから、どん引くほどの顔を向けられました(笑)



next
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,854pt お気に入り:2,078

危険な森で目指せ快適異世界生活!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:9,464pt お気に入り:4,130

sweet!!

BL / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:1,348

百年の恋も冷めるというもの

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,338pt お気に入り:23

時代小説の愉しみ

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:553pt お気に入り:3

王妃は離婚の道を選ぶ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7,214pt お気に入り:38

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,422pt お気に入り:2,921

処理中です...