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略奪

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シュナイゼルは高潔な人間だった。

だがそれと同時に人間味の薄い人格でもあった。
彼の行動規範は常に国にとって有益であるかどうかの一点に終始しており、そこに個人的な感情は一切挟まない典型的な合理主義者であった。

シュナイゼルを批判する者たちの多くは彼の内面に対する指摘をし、その人間関係の希薄さを問題視した。そのくらい彼の周りには人が寄り付かず、けれど彼を信奉する崇拝者たちは後を絶たなかった。つまりシュナイゼルの周囲には、彼を熱烈に支持する者しかいなかったのである。


その日、リアーナはいつものように執務をこなし、書類の束を抱えてシュナイゼルの元へと向かっていた。
婚約者といっても、リアーナが1日のうちでシュナイゼルと言葉を交わすのは書類を手渡すこの瞬間だけであった。それはエナが現れる以前からそうであり、その時交わされる事務的で短い会話だけがシュナイゼルとリアーナをかろうじて繋いでいた。

(今日は、いつもよりも早く処理出来たわ)

エナが現れイヴの立場を追われてからも、与えられる執務の量は減らなかった。それがシュナイゼルの婚約者という立場上からきた仕事なのか、それとも単なる嫌がらせめいたものであるのかはリアーナには判断がつかなかった。
けれどこの仕事まで奪われてしまえば、リアーナはシュナイゼルと言葉を交わす機会を完全に失ってしまう。そのことだけは、はっきりとわかっていた。
その為リアーナは毎日必死に執務をこなしていた。ただ一時の、逢瀬の為だけに。



いつものように執務室の前に着くと、リアーナはノックをしてシュナイゼルからの返答を待つ。
けれどいつまで経っても中からの返答はなく、リアーナは首を傾げた。

(不在、なのかしら?)

出直そうか、そう考えたところで室内から微かに物音が聞こえてきた。留守ではない。シュナイゼルは確かに、この扉の向こうにいる。

(もしかしたら、体調不良で倒れているのかもしれない)

反射的に、そう思った。何故ならシュナイゼルは時折寝食を惜しんで仕事に没頭し、己の体調管理を二の次にする悪癖があったからである。

「シュナイゼル様、失礼致します!」

リアーナはもう一度ノックをしてから執務室の扉を開けた。
けれどその先に見た光景は、リアーナにとってあまりに残酷なものであった。


「あら、やだぁ」

見られちゃいましたね、と目の前の黒髪の少女が悪びれもせず舌を出す。
その瞬間、リアーナの手からバサバサと書類が滑り落ちていった。


そこには、いつものように執務机の前で座るシュナイゼルと、その膝の上に跨る格好で向い合うエナの姿があったのだった。
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