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眠りと目覚め

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エナはそれを契機にシュナイゼルに対する好意を隠さなくなった。

何処に行くにもシュナイゼルを同伴し、食事も共にするようになった。最早王宮内ではシュナイゼルよりもエナの言うことの方が重要視されていた為シュナイゼルに拒否権はなかったのかもしれない、けれど当時のリアーナにしてみればその光景は衝撃的なものであった。

あのシュナイゼルが、誰に対しても冷酷無比な対応を崩さなかった彼が、おとなしくエナの言うことを聞いているではないか。
リアーナは頭をガン、と鈍器で殴られたような気分になった。
そして、エナの隣にいるシュナイゼルを見て、その時初めて自覚したのだ。

自分は、こんなにも彼のことが好きだったのかと







(…………嫌な記憶、この先は、あまり思い出したくないわね……)

ベッドの中、重い頭をさすりながらこの先の記憶に蓋をする。大事なことかもしれないが、今すぐに全ての記憶を整理するのは難しい。まだリアーナの胸にはシュナイゼルに向けられた剣の切っ先も、皮膚を貫く刃の感触さえも生々しく残っているのだから。

いくら時間が巻き戻ったとしても、一度経験した恐怖は簡単に消えやしない。あの時感じた圧倒的な虚無感は、百年の恋すらも一瞬で醒めさせてしまうほどの絶望をリアーナに与えたのだ。

(とにかく、今度は、…………上手くやるわ)

もうイヴ候補にもなりたくないし、シュナイゼルとは関わり合いになるのも御免だ。

(私が頑張らなくともこの国は大丈夫。だって数年後にはエナが聖女として君臨するのだから)

彼女の人間性がどうあれ、聖女としてのエナの力は本物だ。リアーナ自身それはこの目で確認している。エナがいればこの国は安泰だ。

(彼女が王妃となり子を産めば、その力も遺伝するかもしれない)

そうなれば形ばかりのイヴ制度も廃止となるだろう。なんたって本物の聖女が現れたのだ。それに適う存在など有りはしない。


(まずは………そうね、根回しが必要かしらね……)

そんなことを考えながら、リアーナは目を閉じる。
瞼の奥の暗闇は深く、まるでエナの瞳の色のようだと反射的に考える。

(眠るのが………怖いわ……)

目が覚めたらまたあの血溜まりの中にいるかもしれない。
そんな妄想に怯えながらも、リアーナはまた眠りにつく。
健全なる朝を、待ち望みながら。


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