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兄と師範

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翌日から早速リアーナは兄と共に身体を鍛え始めた。
勿論リアーナはまだ幼く剣など持ったこともない為、最初はとにかく基礎的な護身術と体力をつける運動を課せられた。

父や兄はこの段階でリアーナが音をあげると思っていたようだが、実際は違った。
リアーナの身体は6歳だが、精神はれっきとした成人女性である。イヴとして、シュナイゼルの婚約者として培った並々ならぬ忍耐力と根性は今も尚健在である。
つまり、リアーナは文句ひとつこぼすことなく毎日泥だらけになりながら身体を鍛え続けたのであった。









「リアーナお嬢様、見かけによらず根性ありますねぇ」

兄の師範として騎士団から派遣された第一騎士団所属、アベル・カーネリアスが木刀を持って一心不乱に素振りをしているリアーナを遠目から眺めてそんな感想を漏らす。

「そうだな、流石は我が妹だ。根性がある!」
「(シスコンかな…)アステリオス様にも少しは見習って欲しいものです」
「アステリオスと言うと……第五王子殿下か?」
「そうですね、確か年はリアーナお嬢様と同じくらいだったと思うのですが、これがまぁ飽きっぽくて集中力がない。貴重な鍛練の時間を割いて相手をしているのが馬鹿らしくなるほどですよ」
「アベル……不敬が過ぎるぞ」
「そりゃわかってますよ、坊ちゃんにだから言うんです。王子殿下の前では自分だってこんなこと、口が裂けても言いませんて」
「………騎士も大変なんだな」
「まあ自分は所詮、しがない下級貴族出身ですから」

いくら武勲を立てたところでそこそこの出世しか望めませんよ、とアベルは軽口を叩きながらリアーナを眺める。口調とは裏腹に、その視線には何処か真剣みが感じられた。

「ですが、侯爵家のお嬢様が騎士になるとなれば話は別です。恐らく所属は王族、それもかなり深部に配置されることでしょう。レイオルド王は嫉妬深いことで有名ですから、騎士団長相手にすら側室を見せたがりません」
「やはり、……ナビエ様のことを引きずられておられるのだろう」
「ですね、まぁこっちとしては知ったこっちゃないですけど」

ただ、とアベルは続ける。視線はリアーナから外さないままで。

「坊ちゃんや侯爵様はいずれリアーナお嬢様があきらめると思っているのかもしれませんが、自分はそうは思いません。彼女には努力し続ける才能がある。それは何物にも代え難い代物です」
「しかし、リアーナはまだ6歳で、世間を知らない。この先成長していけば己の立場もわかってくるだろう。侯爵家の令嬢が態々騎士など目指さずとも、もっといくらでも楽な道が多くあるということを──…」
「楽な道なんてありませんよ、坊ちゃん。例え彼女が見目麗しい令嬢に育ったとしても、それはそれで我々には預かり知らぬ苦労があるはずです」
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