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前哨戦

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「リアーナ!ミレアムにいったい何を言ったんだ!?」
「…………どうか致しましたか?お兄様」

半刻もしないうちに兄が血相を変えて乗り込んできたところを見ると、やはりミレアムはろくでもない男だったようだとリアーナは溜息を吐く。

「どうかって…!ミレアムが怒っているんだ、それで謝罪を求めてる!リアーナと父上からの謝罪をもらえなければこれ以上の指導はしかねるってそう言っているんだ!リアーナ、あの温厚なミレアムをあそこまで怒らせるなんて、いったいどんな無礼を働いたんだい?一緒に謝ってあげるから、正直に話してごらん!?」
「…………………」

ううん、何処から説明しようかしら

(……なんて、現実逃避してても仕方がないわね。これはもう、お父様に直接お話しした方がいいかもしれないわ)

「お兄様、お気持ちはありがたいのですが、私はなんら恥じる行いはしておりません。よって謝罪する気はありませんし、あの男には今後一切侯爵家への出入りを禁じるのがよいかと存じますわ」
「え、ええっ?リアーナ、いったいどうしたって言うんだい??」
「お兄様、この件はもうお父様のお耳に入っていらっしゃいますの?」
「あっ、あぁ……どうかな、今日はちょうど屋敷におられる日だから、もしかすると誰かが既に報告している可能性もなくはないが…」
「そうですか、なら私が直接お父様にお話ししてきます」
「リ、リアーナ!?」


兄相手にこれ以上何を言っても埒があかないことはわかっていた。兄は優秀だが、やや素直過ぎるところがある。人の善意を疑わず、誰に対しても誠実であろうとする。その姿は清廉で高潔であると評されたが、それ故に周囲の人間や環境には特に気をつけておかねばならない。

(ミレアムのような男がお兄様のそばにいるのは、百害あって一利なしだわ)

今世は誰にも媚びずに生きていくと決めたのだ。可憐で愛される令嬢として生きる必要もない。ならば誰に憎まれてもその悪意を跳ね除けられるだけの力を身につけておかなければならない。
それだけの覚悟が、今のリアーナにはあるのだから。

(これは、その前哨戦ね)

以前の私とは違うのだということを証明しないといけないわね、とリアーナは席を立つ。
普段とはまるで違う様子の妹に、慌てふためく兄をその場に残して。
 
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