三人の精霊と俺の契約事情

望月 まーゆ

文字の大きさ
17 / 216
第1章: 三人の精霊との契約

いつもの喫茶店

しおりを挟む

   ( ちゅっ、チュ、ちゅーーッ )

「ーーーー吸い付くなエルザっ」

「このひとときが、しあわせなの」

  満足そうに笑みを浮かべとろけそうな表情になっているエルザ、その隣にも二人の精霊が同じように顔を赤らめて喜んでいる。

 これがいつも通りの朝の光景だとしたら何を毎朝してるんだと思うかもしれないが契約により一日一回必ず精霊と口づけを交わさないとならないのだ。羨ましいと思うのかウンザリと思うのかは人に分かれるだろうが俺は完全に後者だ!

「アーサー様あ、今日はどっかあ遊びに連れてってよお」

  駄々っ子のようにリサがアーサーに飛びつき服を引っ張りながらおねだりする。

「わたしも、どこかいきたいの」

  アーサーの顔の前でくるんと一回し、胸の前で両手を組み少し首を傾げて上目遣いでお願いポーズをとるエルザ。ほんわかおっとりの可愛い雰囲気全開である。  

  しかしーー アーサーはこの色気仕掛けの誘いにものらない。 

「ふふふ、アーサー様。私と大人のデートでもーー」

  シルフィーが前屈みになり胸を強調させてアピールしている最中だったが完全にスルーされた。

「酷いですわ・・・しくしく」

★  ★  ★
 
  扉に掛かっている鈴の音が小さな店の隅々まで緩やかに響き渡る。

「いらっしゃいませーー おはよ」
 
  笑顔で手を振りながら出迎えてくれるウエイトレス、もうすっかり顔馴染みの喫茶店である。相変わらずのコーヒーのほろ苦い香りとケーキの甘い香りが店内に広がっている。
  
「やっほー。ミーナあ」

 リサが元気よく手を挙げて挨拶を返す。

「昨日は、大変お世話になりました。街の方々もみんなアーサーさんには感謝してましたよ。本当に何とお礼をして良いのか」

「お礼とかいいよ。それならこいつらに何か食べさせてやってよ」

  アーサーは人から感謝されたことなどなかったので焦ってしどろもどろになっていた。

  決まって席は店の奥の角のテーブル席に座る何故か知らないがそこが一番落ち着く。 そこから窓の外の風景を眺めながらぼんやりとコーヒーを飲みながら過ごすのがアーサーの日課になっている。

「お待ちしました。どうぞ。」

  もう、注文しなくても届くコーヒー、完全に常連客だと改めて実感する。

「リサとエルザとシルフィーには今日は最新のイチゴのミルフィーユよ」

  割れんばかりの喝采が起こる店内、精霊たちは目を輝かしてケーキを見つめている。
 
  このウエイトレスのミーナは気を遣える心優しい人なので精霊たちの為に少し小さめにケーキを作ってくれたり特注の小さな食器まで用意してくれている。

  今までは、みんな同じテーブルで食べたりしていたが今まではガールズグループとアーサーのみのぼっちテーブルに分かれている。

  いつもながら何を毎日毎日、話す内容があるのだろうとコーヒーを口に含んだ。


  昨日は、あの後大変だったーー。

 街の人たちに兄貴と俺は王宮まで運んでもらった。 

  街の護衛をするはずの兄貴が暴走し本来ならその暴走を止めなければならない姉や親父が来ない。暴走を止めたのはみんなが無視や毛嫌いしてきた俺だったのだから街の人々の怒りは凄まじかった。状況の説明を求めて王宮は一時騒然となった。

  しかし、ウチの精霊と喫茶店のウエイレスのミーナが一生懸命説明して治めてくれたのだ。

  兄貴は、悪魔に操られていて意図してやった訳ではないと・・・

  (駆けつけなかった親父や姉は問題だ・・・)

  外交や社交辞令みたいな利益優先で本来の目的を忘れてしまってはいけない。 目を向けるのは利益や将来のことより身近にある今の街の人々の生活だろうな。

  アーサーはコーヒーを啜りながら街の人々が昨日壊れた建物などを復興している姿を眺めていた。



  ーー 銀の渇いた鈴の音が再び店内に響き渡る。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...