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第1章: 三人の精霊との契約
いつもの喫茶店
しおりを挟む( ちゅっ、チュ、ちゅーーッ )
「ーーーー吸い付くなエルザっ」
「このひとときが、しあわせなの」
満足そうに笑みを浮かべとろけそうな表情になっているエルザ、その隣にも二人の精霊が同じように顔を赤らめて喜んでいる。
これがいつも通りの朝の光景だとしたら何を毎朝してるんだと思うかもしれないが契約により一日一回必ず精霊と口づけを交わさないとならないのだ。羨ましいと思うのかウンザリと思うのかは人に分かれるだろうが俺は完全に後者だ!
「アーサー様あ、今日はどっかあ遊びに連れてってよお」
駄々っ子のようにリサがアーサーに飛びつき服を引っ張りながらおねだりする。
「わたしも、どこかいきたいの」
アーサーの顔の前でくるんと一回し、胸の前で両手を組み少し首を傾げて上目遣いでお願いポーズをとるエルザ。ほんわかおっとりの可愛い雰囲気全開である。
しかしーー アーサーはこの色気仕掛けの誘いにものらない。
「ふふふ、アーサー様。私と大人のデートでもーー」
シルフィーが前屈みになり胸を強調させてアピールしている最中だったが完全にスルーされた。
「酷いですわ・・・しくしく」
★ ★ ★
扉に掛かっている鈴の音が小さな店の隅々まで緩やかに響き渡る。
「いらっしゃいませーー おはよ」
笑顔で手を振りながら出迎えてくれるウエイトレス、もうすっかり顔馴染みの喫茶店である。相変わらずのコーヒーのほろ苦い香りとケーキの甘い香りが店内に広がっている。
「やっほー。ミーナあ」
リサが元気よく手を挙げて挨拶を返す。
「昨日は、大変お世話になりました。街の方々もみんなアーサーさんには感謝してましたよ。本当に何とお礼をして良いのか」
「お礼とかいいよ。それならこいつらに何か食べさせてやってよ」
アーサーは人から感謝されたことなどなかったので焦ってしどろもどろになっていた。
決まって席は店の奥の角のテーブル席に座る何故か知らないがそこが一番落ち着く。 そこから窓の外の風景を眺めながらぼんやりとコーヒーを飲みながら過ごすのがアーサーの日課になっている。
「お待ちしました。どうぞ。」
もう、注文しなくても届くコーヒー、完全に常連客だと改めて実感する。
「リサとエルザとシルフィーには今日は最新のイチゴのミルフィーユよ」
割れんばかりの喝采が起こる店内、精霊たちは目を輝かしてケーキを見つめている。
このウエイトレスのミーナは気を遣える心優しい人なので精霊たちの為に少し小さめにケーキを作ってくれたり特注の小さな食器まで用意してくれている。
今までは、みんな同じテーブルで食べたりしていたが今まではガールズグループとアーサーのみのぼっちテーブルに分かれている。
いつもながら何を毎日毎日、話す内容があるのだろうとコーヒーを口に含んだ。
昨日は、あの後大変だったーー。
街の人たちに兄貴と俺は王宮まで運んでもらった。
街の護衛をするはずの兄貴が暴走し本来ならその暴走を止めなければならない姉や親父が来ない。暴走を止めたのはみんなが無視や毛嫌いしてきた俺だったのだから街の人々の怒りは凄まじかった。状況の説明を求めて王宮は一時騒然となった。
しかし、ウチの精霊と喫茶店のウエイレスのミーナが一生懸命説明して治めてくれたのだ。
兄貴は、悪魔に操られていて意図してやった訳ではないと・・・
(駆けつけなかった親父や姉は問題だ・・・)
外交や社交辞令みたいな利益優先で本来の目的を忘れてしまってはいけない。 目を向けるのは利益や将来のことより身近にある今の街の人々の生活だろうな。
アーサーはコーヒーを啜りながら街の人々が昨日壊れた建物などを復興している姿を眺めていた。
ーー 銀の渇いた鈴の音が再び店内に響き渡る。
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