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三人の精霊と光の精霊の書
出発の朝
しおりを挟む世界中の時間が止まっているかのような静けさの中、馬車に乗り込む四人の精霊とアーサー。そして、馬車の馬に猫が跨り手綱を取る。
「この田舎の国から出るの初めてだよ俺」
アーサーは、目を輝かせて新しい外の世界に胸を躍らせていた。
「アーサー様と一緒に長旅なんて幸せですわ」
シルフィーがアーサーの腕にしがみつく。
「この起きろおおお」
リサがアーサーの胸ポケットの中にいるエルザの左右のほっぺたを引っ張っているが起きる気配すらない。
「寝かせておいてあげなよ」
「アーサー様は、いつもエルザには甘いんだから」
顔を膨らませて口を尖らせてリサはご機嫌斜めだ。
「そろそろ出発しますにゃん」
馬車が動き出そうとした時に誰か呼び止める声が聞こえる。こんな朝早くに誰が。
「ちょっと待ってえ。これ持って行って下さい」
喫茶店のウエイトレスのミーナだ。
何やらバスケットを手渡してくれたので中を覗き込むと・・・、
「これミーナが作ってくれたの? ありがとお、嬉しい」
「みんなで食べてね。これくらいしか出来ないけど頑張ってきてね。元気でまた帰ってくるんだよ」
バスケットの中身はサンドイッチやパンなどみんなのお弁当だった。彼女のそういった気遣いには本当に感謝しきれない。
「ありがとうミーナ、遠慮なく頂くね」
「ありがとうですにゃ、では」
そういい残すとメルルは手綱を引き馬車を出した。
ミーナは、馬車が見えなくなるまでずっとその場に立ち手を振り続けた。
★ ★ ★
大きくそびえ立つ城壁の門、その前に黒ローブに薔薇の紋様を宿したクルセイダーズの群勢が所狭しと天使マリアの加護が壊れるのを待機している。
そんな様子に苛立ちを隠せないでいる人物がいた。
「いつまで待たせる気だ。 加護が貼られているから進入不可能ですでは済まさらないのだぞ」
歯ぎしりをさせ目を血走らせて爪を噛み怒りを前面に押し出している。 周りにいるクルセイダーズ達も怯えて近寄れずに一歩下がって様子を伺っている。
薔薇の紋様が入ったとんがり帽子のテントのような物を建てて中は光をほぼ遮断しロウソクの灯りだけの空間に一人腰掛けている人物、薔薇十字の首領 ジョゼファン・ペダランだ。
彼は、悪魔との契約を結んでおり禁呪や黒魔術を操ることができる。 悪魔との契約内容は、その契約した悪魔ごとに違う為不明である。
ペダランが契約を結んだ悪魔はーー メフィスト。
冷酷で凶悪な悪魔である。
ペダランの契約を結んだ内容は、自分の大切な人物の命をメフィストに捧げること。
ペダランは、自分の娘の命と引き換えにチカラを手に入れた。涙は枯れ、正気は尽き果て身も心も全てメフィストに支配されていたのだ。
悪魔と契約を結ぶということは悪魔のチカラを手に入れるのではなく、悪魔に支配される事と改めて人間は知ることになるーー。
「ペダラン様、メフィスト様がお帰りになりました」
クルセイダーズの一人が慌てて血相を変え報告をする。
「くっ・・・」
ペダランは、歯をガチガチ言わせながら肩を震わせている。
「おい。これはどう言う状況だ?説明しろ」
現れたのは見た目は普通の少女だが明らかに違うところが幾つかある。
頭に生えている羊の様なツノ、背中に生えているコウモリのような羽根。
そう、ペダランが差し出した娘にメフィストは憑依しているのだ。
これは、人間の情につけ込んだ作戦だ。
人間に入り込めばまず手出し出来ない。
人間は、残酷にはなれない。
人間は、優しさが必ず表に出る。
人間は、甘い生き物だ。
メフィストは、最強の盾を背負っているようなものだ。どんな人間でも必ず攻撃をためらう。人間の弱い部分に付け込んでくる姿はやはり悪魔族である。
「ペダラン、ワタシは別に良いのだぞ。 このカラダで無くても。新たなカラダを手に入れてそこに入るだけだ。何が言いたいか理解出来てますよね」
「はい・・・ 申し訳ございません」
メフィストがペダランに近づき髪の毛を強引に鷲掴みにして引っ張り上げる。
「ならば今何をすべきか分かるかな? 貴方にも魔力を分け与えてるはずですよ」
「御意」
メフィストは、髪の毛を離すと地面に唾を吐き再び外へと消えて行った。
ペダランは、地面に膝を曲げて座ったまま自分の娘の後ろ姿を消えるまで見つめていた。
「マリシア・・・」
薄暗いテントの中で自分の影が不気味に揺れながらランプの灯に照らし出されている。その影はもう全てに人からはかけ離れた化け物のようだった・・・
<巨大なチカラを手に入れた代償は余りにも大きかった>
ーー ジョゼファン・ペダランーー
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