三人の精霊と俺の契約事情

望月 まーゆ

文字の大きさ
35 / 216
三人の精霊と光の精霊の書

出発の朝

しおりを挟む

  世界中の時間が止まっているかのような静けさの中、馬車に乗り込む四人の精霊とアーサー。そして、馬車の馬に猫が跨り手綱を取る。

「この田舎の国から出るの初めてだよ俺」

 アーサーは、目を輝かせて新しい外の世界に胸を躍らせていた。

「アーサー様と一緒に長旅なんて幸せですわ」

 シルフィーがアーサーの腕にしがみつく。

「この起きろおおお」

 リサがアーサーの胸ポケットの中にいるエルザの左右のほっぺたを引っ張っているが起きる気配すらない。

「寝かせておいてあげなよ」

「アーサー様は、いつもエルザには甘いんだから」

 顔を膨らませて口を尖らせてリサはご機嫌斜めだ。

「そろそろ出発しますにゃん」

 馬車が動き出そうとした時に誰か呼び止める声が聞こえる。こんな朝早くに誰が。

「ちょっと待ってえ。これ持って行って下さい」

 喫茶店のウエイトレスのミーナだ。

 何やらバスケットを手渡してくれたので中を覗き込むと・・・、

「これミーナが作ってくれたの? ありがとお、嬉しい」

「みんなで食べてね。これくらいしか出来ないけど頑張ってきてね。元気でまた帰ってくるんだよ」

 バスケットの中身はサンドイッチやパンなどみんなのお弁当だった。彼女のそういった気遣いには本当に感謝しきれない。

「ありがとうミーナ、遠慮なく頂くね」

 「ありがとうですにゃ、では」

 そういい残すとメルルは手綱を引き馬車を出した。

 ミーナは、馬車が見えなくなるまでずっとその場に立ち手を振り続けた。

  
★  ★  ★

 
  大きくそびえ立つ城壁の門、その前に黒ローブに薔薇の紋様を宿したクルセイダーズの群勢が所狭しとところせまし天使マリアの加護が壊れるのを待機している。

 そんな様子に苛立ちを隠せないでいる人物がいた。

「いつまで待たせる気だ。 加護が貼られているから進入不可能ですでは済まさらないのだぞ」
 
  歯ぎしりをさせ目を血走らせて爪を噛み怒りを前面に押し出している。 周りにいるクルセイダーズ達も怯えて近寄れずに一歩下がって様子を伺っている。

  薔薇の紋様が入ったとんがり帽子のテントのような物を建てて中は光をほぼ遮断しロウソクの灯りだけの空間に一人腰掛けている人物、薔薇十字の首領  ジョゼファン・ペダランだ。

 彼は、悪魔との契約を結んでおり禁呪や黒魔術を操ることができる。 悪魔との契約内容は、その契約した悪魔ごとに違う為不明である。 

 ペダランが契約を結んだ悪魔はーー メフィスト。

冷酷で凶悪な悪魔である。

 ペダランの契約を結んだ内容は、自分の大切な人物の命をメフィストに捧げること。

 ペダランは、自分の娘の命と引き換えにチカラを手に入れた。涙は枯れ、正気は尽き果て身も心も全てメフィストに支配されていたのだ。

 悪魔と契約を結ぶということは悪魔のチカラを手に入れるのではなく、悪魔に支配される事と改めて人間は知ることになるーー。

  
「ペダラン様、メフィスト様がお帰りになりました」

 クルセイダーズの一人が慌てて血相を変え報告をする。

「くっ・・・」

 ペダランは、歯をガチガチ言わせながら肩を震わせている。

「おい。これはどう言う状況だ?説明しろ」

  現れたのは見た目は普通の少女だが明らかに違うところが幾ついくつかある。

 頭に生えている羊の様なツノ、背中に生えているコウモリのような羽根。

そう、ペダランが差し出した娘にメフィストは憑依しているのだ。

 これは、人間の情につけ込んだ作戦だ。
 人間に入り込めばまず手出し出来ない。 

 人間は、残酷にはなれない。
 人間は、優しさが必ず表に出る。
 人間は、甘い生き物だ。

 メフィストは、最強の盾を背負っているようなものだ。どんな人間でも必ず攻撃をためらう。人間の弱い部分に付け込んでくる姿はやはり悪魔族である。

「ペダラン、ワタシは別に良いのだぞ。 このカラダで無くても。新たなカラダを手に入れてそこに入るだけだ。何が言いたいか理解出来てますよね」

「はい・・・ 申し訳ございません」

 メフィストがペダランに近づき髪の毛を強引に鷲掴みにして引っ張り上げる。

「ならば今何をすべきか分かるかな? 貴方にも魔力を分け与えてるはずですよ」

「御意」

 メフィストは、髪の毛を離すと地面に唾を吐き再び外へと消えて行った。

 ペダランは、地面に膝を曲げて座ったまま自分の娘の後ろ姿を消えるまで見つめていた。

「マリシア・・・」


 薄暗いテントの中で自分の影が不気味に揺れながらランプの灯に照らし出されている。その影はもう全てに人からはかけ離れた化け物のようだった・・・




<巨大なチカラを手に入れた代償は余りにも大きかった>

ーー ジョゼファン・ペダランーー

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...