126 / 216
三人の精霊とクリスタルパレスの魔女の書
魔力解放
しおりを挟む奥の部屋は壁全体に魔法陣が描かれた部屋だった。
先に準備に訪れていたメーディアはカーテンを閉め光を遮断していた。
真っ暗な部屋に不気味に浮かび上がる魔法陣、立体魔法陣とはこの事だった。
「メーディアちゃん例の物をーー」
「どうぞ」
メーディアがメイザースに手渡したのは杖だった。メイザース愛用のケリュケイオンの杖、魔力を大幅に増大させる効果があるらしい。立体魔法陣や時空移動魔法など常識では考えられない魔法を可能にするのは膨大な質量の魔力が必要なのだ。それを補っているのはこの杖があるからだと言っても過言ではない。
「アーサーきゅん、この円の中心に立ってくれたまえ」
言われるがままアーサーは部屋全体を覆っている魔法陣の中心に立った。
「リサ、エルザ、シルフィーはこっちに来てなさい。巻き込まれるわよ」
三人の精神たちはアーサーから離れ部屋の隅にいるメーディアの元に行った。
三人の精霊たちはアーサーが何をされるのかと想像すると、とても不安そうにアーサーを見つめていた。
「因を律する者、来るべく者、去り行く者、その結ばれし鎖を断ち切り我が意のままに我がなすままに、その力の全てを示せ」
メイザースの演唱とともに、ケリュケイオンの杖が輝く。
部屋の中に描かれた魔法陣が浮かび上がりアーサーの周りを囲むように反時計回りに回り始める。
「す、凄い。本当に魔法なの?」
リサが目を丸くし目の前に起きている現象がまだ信じられないようだ。
「メイザース様は常に時代の先を見つめてらっしゃるわ。あなた達精霊が使っている魔法は一昔前の魔法よ。立体魔法陣や空間魔法など常識では考えられない魔法を可能にしたのはメイザース様だけよ。いずれメイザース様が創り上げたこの魔法が主流になる時代が来るかもしれないわね」
三人の精霊はメーディアの言葉が少し胸に刺さった。
そうなったら人間は、精霊と契約しなくなる時代が来るかもしれないとーー。
☆
「うわああぁぁぁぁぁーー」
身体が焼けるように熱い。更に体の自由が効かずに空気を吸っても吸っても入ってきてる気がしない。
「あ、アーサーきゅん、耐えるのです」
杖を翳し魔力をフルパワーで送り続けるメイザース、彼も必死な形相をしている。
「アーサーさまああ」
「ダメよ。近寄っては、本当にこの世から消滅してしまうわよ」
アーサーの苦しむ姿に見兼ねてリサが飛び出して行きそうなところをメーディアに制止される。
「あああぁぁぁぁァァァァァァ」
「アーサーきゅん、もう少しですよ。意識をしっかり保つのです」
アーサーの形相は計り知れない苦痛に襲われているのは一目瞭然だった。
「ぐわああああぁぁぁぁーー」
アーサーの悲鳴に耳を塞ぎ座り込む三人の精霊たちは、ポロポロと涙を流していた。
「もう少し、もう少しの辛抱ですよ。アーサーきゅん、頑張るのです」
「あなた達も目を背けないの。ご主人様が必死で戦ってるのよ」
その言葉に三人の精霊たちは肩を震わせながら目を背向けたいのを我慢し必死でアーサーを見守った。
魔法陣の球体の中心で叫き苦しむアーサー、体全身がズタズタに裂けるような痛みと焼けるような熱さと苦しさでこんな苦しむならいっそのことひと思いに殺してくれとさえ思っている。
「ぐわああああああああ」
「もう少しなのだよ、耐えるのです。耐えるのですよアーサーきゅん」
「私もう見てられないよ」
リサが背を向けその場から逃げたそうとすると、
「ダメよ!リサ、あなたがその痛みと苦しみを分かってあげなきゃ。アーサーにはあなた達が必要なのよ」
「・・・わかった」
リサを目を細めながらも必死でアーサーの苦しみ姿を見つめた。
☆
拷問のような痛みと苦しみからようやく解放されたアーサーは放心状態だった。
体中の力という力が抜け、床に倒れ込み一人では起き上がれない程だった。
「アーサーきゅん良くぞ耐えきりましたね。成功ですよ」
メイザースもだいぶ疲れているのか顔に疲労が浮かんでいる。アーサーの元に近寄ろうと歩み寄るがフラつき倒れそうになる。
「メイザース様、大丈夫ですか」
メーディアが慌てて駆け寄りメイザースを支える。
「ええ、少しばかり魔力を使い過ぎたようです」
「無理をなさらずお座りになられて下さい」
「私よりアーサーきゅんですよ。ここからが本当の苦しいとこです」
「ここからってどういうこと」
話を聞いていたリサがメイザースに聞き返す。
「私はアーサーきゅんの魔力に蓋をしていた物を取り除いたと思っていて下さい。なので、今から魔力が噴き出します。それを体内に留められ尚且つコントロール出来るかどうかなのです」
「ーー出来なかったらどうなのお?」
リサは、恐る恐るメイザースに尋ねてみる。
「全て溢れ魔力が空っぽになり最悪の場合死んでしまいます」
「そ、そんなあ」
「そろそろ来ますよ!アーサーきゅんしっかりと体内に魔力を止めるのですよ」
一瞬静まり返った部屋、床に倒れているアーサーから一気に魔力が放出される。
体中に魔力のオーラが目に見えて分かるほど膨大なオーラがまるで生き物のように暴れまわっている。
「リサ、エルザ、シルフィー私の影に隠れなさい。魔力のオーラに触れたら危険よ」
慌ててメーディアの側に隠れる精霊たち、メーディアは魔導障壁を貼り暴れ襲ってくる魔力のオーラを回避する。
「アーサーさまどうなっちゃったの?」
エルザはメーディアの背中に貼り付きながら心配そうにアーサーを見つめる。
「メイザース様により封印されていた魔力を解放しているのでアーサー自身が魔力を体内に留められるようにしなければならないのだけど今は自分ではどうしようもない状態なのよ」
「私は何も出来ないの?」
メーディアの背中体中のリサの声が聞こえる。メーディアは横に首を振り、
「残念だけどアーサー自身が乗り越えなければならない事よ。あなた達に出来ることは意識をしっかりと保ってもらえるように声をかけてあげる事よ」
「わかったわ」
リサはエルザ、シルフィーと息を合わせて
「せーの」と同時に、
「「「アーサーさまー!!!」」」
と大きな声を出した。
その声はアーサーの耳に確かに届いていた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる