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死刑失敗
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かつて、「戦場のメリークリスマス」などを撮った映画監督、大島渚氏の作品で、絞首刑に処せられても死なない男性が登場する映画「絞死刑」があったが、その物語と似ている話を紹介する。
ある日、刑務官たる私らの立ち会いのもと、ある女性の絞首刑を行ったが、結果、女性は目を瞑りながら、死なずに息をしていた……しかも、よく見ると首には痛々しい紐の痕が残ってい……なかったのだ。
この女性、何十人もの男性をたぶらかしては金銭や保険金を騙し取り、殺害してきた罪で刑に処せられたのだが、まさかの事態に皆が慌てた……先の映画と同じ光景だ。
だが、あれほど首に負荷がかかったのに死なないのなら仕方ないと考えた次の瞬間、突然、女性の目がぱっと見開き、私を食い入るように見つめていた。
私は驚いたが、女性の第一声も意外なものだった。
「……ここは天国、それとも地獄?……あら、刑務官さんもお亡くなりになったの?」
私はポカンとなったが、どうやら、自分が死んだと女性は勘違いしているようだ。
しかし、またまた驚かされた。
女性の顔がみるみるうちに変化し始めて、何と私の妻そっくりな顔になってしまったからだ。
ただ、女性の方が妻より断然若かったので、妻というよりは娘という感じだった。
そう、娘、まさしく娘と呼んでいいと思った。
実は私と妻との間には子供は無く、もしいたら、こんな顔だろうと予想したのだ。
私は何も言えなくなってしまった。
女性は明らかに狼狽している私を見て、怪訝そうな表情を浮かべた。
「……刑務官さん、どうされたの?」
あ、声まで変わっている……やはり妻にそっくりだ。
私はただただ唖然とするばかりで、どうしたら良いか分からなかった。
すると、女性は私の顔を覗き込み、ヒソヒソと呟くように言った。
「……ねぇ、もし私を逃がせてくれれば、良い目を見させてあげるわよ」
何!……私は危うく誘惑に負けそうになったが、いやいや、と首を横に振り、女性の申し出を跳ね除けた。
「……何を言ってるんだ。君は死刑囚、私は、ん?」
いつの間にか、そこはホテルの一室だった。
しかも私の首には絞首刑に使う紐が巻かれており、女性の手に紐の先端が握られていた。
私は焦ったが、女性に身を任せる以外、無さそうだった。
「……刑務官さん、あなたは私の下僕になるのよ。あなたに自由は無いわ。私があなたに自由を与えるかどうかを決めるのよ!」
そう言うと、妻そっくりな女性はベッドの上に仁王立ちになり、思い切り、紐を引っ張ると、私は大きな悲鳴を上げ、気付くと、目の前に私の飛び出た目玉が転がっていた。
ハッ、目が覚めた。
何だ、夢だったのか……私はタオルで寝汗を拭きながら、寝室のベッドからゆっくりと起き上がると、食堂へ向かった。
しかし、おかしな夢を見たものだ……今まで沢山の人間の死に際に立ってきたからだろうか?
そして台所を見ると、そこには妻と、妻そっくりな女性がいた。
まさしく夢の中の女性だった。
「あ、あなた、おはよう……」
妻は不安そうな顔で私を見た。
私は妻に酷似した女性をチラッと見ると、すぐ妻に目線を戻した。
「あ、ああ、おはよう……」
そう言って、私と妻との間に生まれたと思われる娘に声を掛けようと再び目を向けると、いきなり娘は私に抱きついてきた。
「お父さーん!」
やはりそうだったか!
私は途端に嬉しくなり、思い切り抱きしめ…ん?
私は娘の体を突き放した。
彼女の白いワンピースは真っ赤な血で染められていて、それに密着した私の白いパジャマも赤く変色してしまったからだった。
茫然とする私に妻は言った。
「……あなた、この子ったら、人を殺しちゃったらしいのよ。きつく叱ったんだけど、お金欲しさに今までに何人も血祭りに上げたんだって……よりによって、刑務官の娘がって思ったんだけど、あなた、何とかならないかしら?」
何とかなる訳が無い……と口から出掛かったが、可愛い妻子のためだ、一肌脱ぐために私は算段を始めた。
結局、私がうまく立ち回り、娘は死刑にならずに済んだ。
だが、その代わり、別の女性に娘の罪をなすりつけた。
そして、その女性の絞首刑の日……刑は執行されたが、女性が死ぬことは無く、彼女は言った。
「……あら、刑務官さん、ここは天国?それとも地……」
私はそれ以上、彼女の姿や言葉を見聞きしたくなかったので、自分の目に思い切り指を突っ込み、目玉をくり抜き、倒れた。
そして、声が響いた。
「……あら、刑務官さん、どうなさったの?何故、目を……ん?あ、お父さんじゃない!お父さん、起きて!」
その後、死刑で死ななかった女性、そして私の娘らしき女性がどうなったかは分からないが、死刑が失敗したことだけは紛れもない事実だ。
ある日、刑務官たる私らの立ち会いのもと、ある女性の絞首刑を行ったが、結果、女性は目を瞑りながら、死なずに息をしていた……しかも、よく見ると首には痛々しい紐の痕が残ってい……なかったのだ。
この女性、何十人もの男性をたぶらかしては金銭や保険金を騙し取り、殺害してきた罪で刑に処せられたのだが、まさかの事態に皆が慌てた……先の映画と同じ光景だ。
だが、あれほど首に負荷がかかったのに死なないのなら仕方ないと考えた次の瞬間、突然、女性の目がぱっと見開き、私を食い入るように見つめていた。
私は驚いたが、女性の第一声も意外なものだった。
「……ここは天国、それとも地獄?……あら、刑務官さんもお亡くなりになったの?」
私はポカンとなったが、どうやら、自分が死んだと女性は勘違いしているようだ。
しかし、またまた驚かされた。
女性の顔がみるみるうちに変化し始めて、何と私の妻そっくりな顔になってしまったからだ。
ただ、女性の方が妻より断然若かったので、妻というよりは娘という感じだった。
そう、娘、まさしく娘と呼んでいいと思った。
実は私と妻との間には子供は無く、もしいたら、こんな顔だろうと予想したのだ。
私は何も言えなくなってしまった。
女性は明らかに狼狽している私を見て、怪訝そうな表情を浮かべた。
「……刑務官さん、どうされたの?」
あ、声まで変わっている……やはり妻にそっくりだ。
私はただただ唖然とするばかりで、どうしたら良いか分からなかった。
すると、女性は私の顔を覗き込み、ヒソヒソと呟くように言った。
「……ねぇ、もし私を逃がせてくれれば、良い目を見させてあげるわよ」
何!……私は危うく誘惑に負けそうになったが、いやいや、と首を横に振り、女性の申し出を跳ね除けた。
「……何を言ってるんだ。君は死刑囚、私は、ん?」
いつの間にか、そこはホテルの一室だった。
しかも私の首には絞首刑に使う紐が巻かれており、女性の手に紐の先端が握られていた。
私は焦ったが、女性に身を任せる以外、無さそうだった。
「……刑務官さん、あなたは私の下僕になるのよ。あなたに自由は無いわ。私があなたに自由を与えるかどうかを決めるのよ!」
そう言うと、妻そっくりな女性はベッドの上に仁王立ちになり、思い切り、紐を引っ張ると、私は大きな悲鳴を上げ、気付くと、目の前に私の飛び出た目玉が転がっていた。
ハッ、目が覚めた。
何だ、夢だったのか……私はタオルで寝汗を拭きながら、寝室のベッドからゆっくりと起き上がると、食堂へ向かった。
しかし、おかしな夢を見たものだ……今まで沢山の人間の死に際に立ってきたからだろうか?
そして台所を見ると、そこには妻と、妻そっくりな女性がいた。
まさしく夢の中の女性だった。
「あ、あなた、おはよう……」
妻は不安そうな顔で私を見た。
私は妻に酷似した女性をチラッと見ると、すぐ妻に目線を戻した。
「あ、ああ、おはよう……」
そう言って、私と妻との間に生まれたと思われる娘に声を掛けようと再び目を向けると、いきなり娘は私に抱きついてきた。
「お父さーん!」
やはりそうだったか!
私は途端に嬉しくなり、思い切り抱きしめ…ん?
私は娘の体を突き放した。
彼女の白いワンピースは真っ赤な血で染められていて、それに密着した私の白いパジャマも赤く変色してしまったからだった。
茫然とする私に妻は言った。
「……あなた、この子ったら、人を殺しちゃったらしいのよ。きつく叱ったんだけど、お金欲しさに今までに何人も血祭りに上げたんだって……よりによって、刑務官の娘がって思ったんだけど、あなた、何とかならないかしら?」
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だが、その代わり、別の女性に娘の罪をなすりつけた。
そして、その女性の絞首刑の日……刑は執行されたが、女性が死ぬことは無く、彼女は言った。
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そして、声が響いた。
「……あら、刑務官さん、どうなさったの?何故、目を……ん?あ、お父さんじゃない!お父さん、起きて!」
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