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8-2 ディーク敗北…勝者メリッサ
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メリッサが勢い良くそう叫ぶと、焦ったラナともう一人のメイド、アンがメリッサを掴み、後ろへと引きずった。
「ちょ、ちょっと! メリッサ! あんたまた余計なことを!!」
「えー、だって皆も絶対そう思ってるでしょ!?」
「いや、まあそうだけど……」
「だからって本人の前で言う馬鹿がいる!?」
「だってだってイケメン騎士様にはイケメン王子様でしょー!!」
全員であれこれ言い合っていたかと思うと、メリッサが一人それを全て吹き飛ばす勢いで叫んだ。
「は?」
訳が分からないディークは茫然。
明らかに「ひぃぃ」という顔になったメリッサ以外のメイドたちはディークの顔を蒼褪めながら見詰め、そしてリンがメリッサの首を腕で絞め上げた。
「も、申し訳ございませんんんん!!」
若干泣きそうな顔となっているリンに、メリッサは死にそうな顔、他のメイドたちも皆顔を引き攣らせ、この場の空気は混沌としていた……。
「ブッ」
ディークはそんなメイドたちの姿を眺め、耐えきれずに噴き出した。
「ブッハッハッハッ!! いや、なんかよく分からんが……あんたたちほんと賑やかだな!! アッハッハッハッ!!」
笑いが止まらず、ずっと爆笑しているディークを見ているうちに、メイドたちはなんだか大丈夫そうだ、と引き攣らせていた顔が次第に緩みだし、この場にいた全員が笑い出したのだった。
「ひぃぃ、あー、笑った笑った。で、俺と殿下がなんだって?」
一緒に笑っていたメイドたちはギクッとしたが、メリッサが相変わらずの口調でメイドたちの止めるのも間に合わず口にした。
「それはもちろん! ディーク様とセルヴィ殿下の恋物語ですよ!」
「は?」
終わった……、といった顔になったメイドたちを尻目にメリッサはディークに力説していく。
「今恋愛小説が流行っているのですよ!」
「お、おー、そ、そうなのか?」
ディークは巷で流行っているものには全く興味がないため、昨今なにが流行っているかなど全く知らない。恋愛小説が流行っていると言われても、「ああ、そうなのか」くらいにしか思わないし興味もない。それがなぜ自分に関わるのか、それが分からなかった。
「そのなかでも男性同士の恋愛小説が今物凄く流行っているのですー!」
「は?」
メリッサがまるで恋する乙女のような目でうるうるとしながら、いかに素晴らしい小説かを力説していたが、ディークの頭のなかでは「?」が大量に浮かんでいた。
もう誰もメリッサを止める気がなくなってしまったのか、メイドたちは遠い目をし、乾いた笑いを浮かべていた。
「その主人公カップルが王子様と近衛騎士! 身分違いの恋! まさにセルヴィ殿下とディーク様! これを推さずにいられますかー!!」
「えーっと、ちょっと待ってくれ、ということはあんたたちは俺と殿下をそんな目で見ている、と……?」
メリッサは目を輝かせ、他のメイドはそっと目を逸らした。
「まさに推しカップルですー!!」
「はぁぁぁぁぁああああ!?」
まるで鈍器で頭を強打されたかのような眩暈を感じ、その場にしゃがみこみ項垂れるディーク。
「まじか……」
まさか自分とセルヴィがそんな目で見られていたとは思いもしなかった、と予想外のことに珍しく思考が停止してしまう。基本的にディークは頭が切れる。賢いとかそういうことではない、と自身で認識しているが、生きる上での知識やその応用に、機転を利かせるといったことが得意だ。だから余程のことがない限りは思考が停止することなどない。それは死に直結するからだ。
しかし今回のことはディークの知識の範疇を明らかに超えていた。説明されても理解不能。そもそもディークは同性愛者ではない。女性への興味が他の男に比べて薄くとも、それでも今まで抱いて来たのは女性だ。男ではない。いくらセルヴィが中性的といえども男は男。
(男に恋愛感情など……)
ふいに昨晩のセルヴィの姿を思い出す。汗ばんだ顔や首筋に、色気のある声。それを思い出してしまい、急激に顔が熱くなる。
(いやいやいや! あれは違う!! たまたま……じゃなく、ご無沙汰だったから! いやいや、そうじゃなく! ち、違う!! 別に俺はなにも!!)
脳内で一人突っ込み、混乱し、頭を抱える。
「ディ、ディークさん、その、すみません。気にしないでください……アハハ」
ラナがそっとディークの肩に手を置いた。顔を上げたディークにメイドたちはまた悲鳴を上げる。メイドたちはなんだかよく分からないが良いものを見た、とばかりにディークの顔を見て拝むのだった。
訳の分からないディークは洗濯を手伝うこともせず、その場を離れ、窓に映る自身の顔が恥ずかしいくらいに赤面していることに気付き、その場に崩れ落ちたのだった。
「ちょ、ちょっと! メリッサ! あんたまた余計なことを!!」
「えー、だって皆も絶対そう思ってるでしょ!?」
「いや、まあそうだけど……」
「だからって本人の前で言う馬鹿がいる!?」
「だってだってイケメン騎士様にはイケメン王子様でしょー!!」
全員であれこれ言い合っていたかと思うと、メリッサが一人それを全て吹き飛ばす勢いで叫んだ。
「は?」
訳が分からないディークは茫然。
明らかに「ひぃぃ」という顔になったメリッサ以外のメイドたちはディークの顔を蒼褪めながら見詰め、そしてリンがメリッサの首を腕で絞め上げた。
「も、申し訳ございませんんんん!!」
若干泣きそうな顔となっているリンに、メリッサは死にそうな顔、他のメイドたちも皆顔を引き攣らせ、この場の空気は混沌としていた……。
「ブッ」
ディークはそんなメイドたちの姿を眺め、耐えきれずに噴き出した。
「ブッハッハッハッ!! いや、なんかよく分からんが……あんたたちほんと賑やかだな!! アッハッハッハッ!!」
笑いが止まらず、ずっと爆笑しているディークを見ているうちに、メイドたちはなんだか大丈夫そうだ、と引き攣らせていた顔が次第に緩みだし、この場にいた全員が笑い出したのだった。
「ひぃぃ、あー、笑った笑った。で、俺と殿下がなんだって?」
一緒に笑っていたメイドたちはギクッとしたが、メリッサが相変わらずの口調でメイドたちの止めるのも間に合わず口にした。
「それはもちろん! ディーク様とセルヴィ殿下の恋物語ですよ!」
「は?」
終わった……、といった顔になったメイドたちを尻目にメリッサはディークに力説していく。
「今恋愛小説が流行っているのですよ!」
「お、おー、そ、そうなのか?」
ディークは巷で流行っているものには全く興味がないため、昨今なにが流行っているかなど全く知らない。恋愛小説が流行っていると言われても、「ああ、そうなのか」くらいにしか思わないし興味もない。それがなぜ自分に関わるのか、それが分からなかった。
「そのなかでも男性同士の恋愛小説が今物凄く流行っているのですー!」
「は?」
メリッサがまるで恋する乙女のような目でうるうるとしながら、いかに素晴らしい小説かを力説していたが、ディークの頭のなかでは「?」が大量に浮かんでいた。
もう誰もメリッサを止める気がなくなってしまったのか、メイドたちは遠い目をし、乾いた笑いを浮かべていた。
「その主人公カップルが王子様と近衛騎士! 身分違いの恋! まさにセルヴィ殿下とディーク様! これを推さずにいられますかー!!」
「えーっと、ちょっと待ってくれ、ということはあんたたちは俺と殿下をそんな目で見ている、と……?」
メリッサは目を輝かせ、他のメイドはそっと目を逸らした。
「まさに推しカップルですー!!」
「はぁぁぁぁぁああああ!?」
まるで鈍器で頭を強打されたかのような眩暈を感じ、その場にしゃがみこみ項垂れるディーク。
「まじか……」
まさか自分とセルヴィがそんな目で見られていたとは思いもしなかった、と予想外のことに珍しく思考が停止してしまう。基本的にディークは頭が切れる。賢いとかそういうことではない、と自身で認識しているが、生きる上での知識やその応用に、機転を利かせるといったことが得意だ。だから余程のことがない限りは思考が停止することなどない。それは死に直結するからだ。
しかし今回のことはディークの知識の範疇を明らかに超えていた。説明されても理解不能。そもそもディークは同性愛者ではない。女性への興味が他の男に比べて薄くとも、それでも今まで抱いて来たのは女性だ。男ではない。いくらセルヴィが中性的といえども男は男。
(男に恋愛感情など……)
ふいに昨晩のセルヴィの姿を思い出す。汗ばんだ顔や首筋に、色気のある声。それを思い出してしまい、急激に顔が熱くなる。
(いやいやいや! あれは違う!! たまたま……じゃなく、ご無沙汰だったから! いやいや、そうじゃなく! ち、違う!! 別に俺はなにも!!)
脳内で一人突っ込み、混乱し、頭を抱える。
「ディ、ディークさん、その、すみません。気にしないでください……アハハ」
ラナがそっとディークの肩に手を置いた。顔を上げたディークにメイドたちはまた悲鳴を上げる。メイドたちはなんだかよく分からないが良いものを見た、とばかりにディークの顔を見て拝むのだった。
訳の分からないディークは洗濯を手伝うこともせず、その場を離れ、窓に映る自身の顔が恥ずかしいくらいに赤面していることに気付き、その場に崩れ落ちたのだった。
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