74 / 120
37-2 兄弟の絆
しおりを挟む「兄貴、大丈夫か?」
「リョウ……」
見舞いという名目で部屋まで会いに来てくれたリョウ。おそらく俺とジウシードのギクシャクした雰囲気に気付いたのだろう、苦笑しながら俺を椅子へと促した。
「泣きそうな顔になってるぞ?」
「…………分かってる……でも、ジウシードが……」
そこまで口にし、涙が零れそうになってしまい俯く。情けない……本当に情けない……こんなことで泣きそうになるなんて。女々しい。なんの取柄もない平凡な男なのに、さらに泣くとかありえない。こんなおっさんが泣いても可愛くないんだよ。くそっ。
「はぁ……なんかよく分からんが、おそらくジウシードも馬鹿なことをグルグルひとりで考え込んでいるんだろう。ちゃんと腹割って話し合えよ」
「避けられてる……夜もなにも話さずすぐに寝ちゃうんだよ……」
「…………あいつは違う意味での馬鹿だな」
そう言うとリョウは深い溜め息を吐いた。馬鹿とは……ジェイクのことじゃないよな……ジウシードが? 馬鹿……。リョウにはジウシードがなにを考えているのか分かるんだろうか……俺とは違って頭も良いしな……リョウみたいな奴ならジウシードの母親も納得したんだろうか……。
チラリとリョウの顔を見ると、そんな卑屈な考えをしていることに気付かれたのか、リョウは呆れたような顔になり、ぬっと手を伸ばしたかと思うと、思い切りデコピンされました……。
「痛っ!!」
「まーた、くだらないこと考えてるんだろ。兄貴は自己肯定感が低すぎるんだよ。もっと自分のことを褒めてやれよ」
「自己肯定感……だって俺みたいな平凡な奴……なんの取柄もないし……好かれるような要素……なにもない……」
自分で言って、どんどん情けなくなってくる。こんな後ろ向きな考えばかりしていること自体が、自分を駄目にしているということは分かっているのに……分かっているのに益々マイナスな考えの沼に嵌まっていく……。
心と一緒にどんどんと俯いてしまい、リョウは今度は容赦なく手刀で俺の脳天をズビシッ! と、思い切り叩いた。
「だ、だから痛いっつーの!!」
頭を両手で押さえながら若干涙目で訴える。本気で痛いわ!!
「兄貴も大概アホだな」
「酷っ!」
溜め息を吐きながらリョウは俺を見て苦笑した。そして優し気な目で笑う。
「俺は兄貴を尊敬してるぞ?」
「え?」
突然の台詞に一瞬意味が分からず固まった。尊敬? リョウが? 俺を? 尊敬する要素なんてあるか? いや、兄としてそれもどうなのよ、って感じだが、でも今までそんな尊敬されている気はしたことがないし、自分でも尊敬されるようなことをした覚えもない。情けない話だが……。
「ハハ、なんだよ、その間抜け面」
「間抜けって、おい」
「だから自己肯定感が低すぎるって言ってんだよ。全く自覚がないんだろ」
「自覚がないってどういう……」
リョウは苦笑しながら話し出す。
「両親が死んだとき俺はまだ高校生だっただろ? 兄貴もまだ入社して一年くらいしか経ってなかったよな?」
「ん? あ、あぁ……そうだったな」
両親が死んだときリョウは十八、俺は二十三だった。リョウは大学受験を控えていて、俺は入社して一年という時期で、ようやく仕事にも慣れて来た矢先のことだった。
「あのとき俺の大学受験が控えていたから、兄貴は両親の事後処理や家のこととか全て負担してくれた。兄貴だってまだ仕事では新人同然で大変だっただろうに……。大学進学の金銭的負担も両親の保険金や遺産はあまり使わず今後のために置いておけって言って、自分の給与から俺の大学生活の面倒見てくれてたよな」
「あー、うん? そう、だったかな?」
ハハ、と笑ってみせると、リョウはフッと笑った。その顔はとても優し気で、俺のことを尊敬している、という言葉は本心で言ってくれているんだな、ということが分かった気がした。
「俺は兄貴にめちゃくちゃ感謝してる。俺が大学生活を楽しくなんの憂いもなく過ごせたのは兄貴のおかげだから」
「リョウ……」
なんだかめちゃくちゃ嬉しいことを言ってくれている。こんな素直な言葉を聞くのは初めてかもしれない。それがむず痒くもあり、そわそわと嬉しい気持ちにもなる。
「俺もお前のおかげで頑張れたんだぞ?」
「?」
「両親が死んだとき、リョウが取り乱さず冷静に対処してくれたから、俺も冷静になれた。哀しみに暮れるばかりでなく過ごせた。だからその後も頑張れたんだよ。お前とふたりで生きていくために」
「ハハ、小っ恥ずかしい台詞だな」
「お前が先に言い出したんだろ!」
アハハ、とリョウは楽しそうに笑った。
67
あなたにおすすめの小説
【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる
おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。
知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました
雪
BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?
魔王に転生したら幼馴染が勇者になって僕を倒しに来ました。
なつか
BL
ある日、目を開けると魔王になっていた。
この世界の魔王は必ずいつか勇者に倒されるらしい。でも、争いごとは嫌いだし、平和に暮らしたい!
そう思って魔界作りをがんばっていたのに、突然やってきた勇者にあっさりと敗北。
死ぬ直前に過去を思い出して、勇者が大好きだった幼馴染だったことに気が付いたけど、もうどうしようもない。
次、生まれ変わるとしたらもう魔王は嫌だな、と思いながら再び目を覚ますと、なぜかベッドにつながれていた――。
6話完結の短編です。前半は受けの魔王視点。後半は攻めの勇者視点。
性描写は最終話のみに入ります。
※注意
・攻めは過去に女性と関係を持っていますが、詳細な描写はありません。
・多少の流血表現があるため、「残酷な描写あり」タグを保険としてつけています。
異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない
春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。
路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。
「――僕を見てほしいんです」
奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。
愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。
金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年
助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!
夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。 ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公
【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)
てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。
言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち―――
大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡)
20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる