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39-1 馬鹿を好きな馬鹿
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そこには眉間に皺を寄せたジウシードが焦った様子で出て来たかと思うと、ラウルの顔を見た後、その胸には俺が抱き抱えられているのを目にし、目を見開いた。
「お、お前!! アキラになにをしている!?」
「えっ」
「……なにもしておりませんが」
ジウシードが鬼のような形相になり、ラウルを睨んだ。そして勢い良くラウルから引き剥がすかのように、俺を抱き抱えた。
急に俺を奪い取られたかのような形となったラウルは、呆れた顔で小さく溜め息を吐いたかと思うと冷たい声で言う。
「アキラ様を傷付け続けている貴方にとやかく言われる筋合いはありませんね。そもそも私はただ酔ったアキラ様を部屋まで送り届けて来ただけですし。アキラ様はこちらの部屋に戻ることも躊躇われているようでしたから、なんなら私の部屋にお連れしても良かったのですけどね」
そう言い放ったラウルの言葉に、ジウシードは目を見開き、そして俺を見下ろした。なぜか傷付いたような表情のジウシード。なんでお前がそんな顔をするんだよ。お前が俺を避けているからだろうが! 俺から離れようとしているお前がそんな顔をするな!!
なんだか腹が立ってきてしまい、涙目になりながらジウシードを睨んだ。そして、ジウシードに抱えられている腕から飛び降りるように強引に離れた。しかし、やはり酔いが抜けていないのか、足元がふらつき思わず前のめりになると、ジウシードとラウルのふたりに支えられる。
「大丈夫か?」
「アキラ様、大丈夫ですか?」
慌ててその手から逃れ、後退る。そしてラウルのほうへ向いた。
「ご、ごめん、大丈夫大丈夫。ラウル、運んでくれてありがとう。もう寝るよ」
そう早口に捲し立てると、ジウシードの顔を見ることなく、急いで隣の部屋のベッドへと潜り込んだ。風呂へ入るでもなく、着替えるでもなく、ただジウシードと顔を合わせたくない一心だった。
「ジウシード様、やはり貴方は盛大な阿呆ですね」
「なんだと!?」
「それが分からないようなら、アキラ様は私がいただきますから」
「なっ!?」
なんだかよく分からない会話をしているふたりの声が聞こえるが、俺は布団にぎゅうっと包まるだけだった。なにやらジウシードの怒鳴り声が響き渡っていたが、俺はもうそんな会話ですら聞きたくなかった。耳を押さえ蹲り、寝てしまおうと思っていたが、一度目が覚めてしまうとなかなか眠気がやって来ない。
声が聞こえなくなり、扉が閉まる音が聞こえ、どうやらラウルが部屋を出て行ったのかと分かる。ベッドへ近付く足音が聞こえ、身体が強張る。必死に息を殺し、寝たふりをした。
ギシリとベッドが軋み、俺の身体を撫でるように手が触れていることに気付く。布団越しにでも分かる優しい手付き。
「アキラ……」
ジウシードが躊躇いがちに俺を呼ぶ声が聞こえる。ギクッと身体が強張るが俺はなにも言葉に出来ない。なにを言われるのかが怖くて、顔を合わせられない。
「アキラ……話がしたい。顔を見せてくれないか?」
「…………お前のほうが俺の顔を見たくなかったんだろうが。だからずっと俺を避けてたんだろ? 俺が男なんかに襲われたから……もう俺のことなんか嫌いなんだろ?」
あぁ、言ってしまった……。言ってしまって肯定されるのが怖くて、それで終わってしまうのが怖くて、ずっと自分を騙すようにジウシードから避けられているからと言い訳をしていたのに……。
「そうじゃない!!」
ジウシードの怒声が響き、ビクリとする。そしてバサッと勢い良く布団を剥ぎ取られてしまい、蹲る俺の姿はジウシードの前に晒された。
「布団返せ!! なにが「そうじゃない」だよ!! ずっと俺を避けて来たくせに!!」
「それは……」
言い淀んだジウシードに腹が立ち、ベッドから逃げ出そうとした。しかし、それに気付いたジウシードは勢い良く俺の腕を掴んだかと思うと、グイッと引き寄せ、抱き締められる。
「は、離せ!!」
「嫌だ!!」
力の限り抱き締められ身動きが取れない。苦しいほどの抱き締める力。それなのに……それなのにジウシードは震えていた。
「お、お前!! アキラになにをしている!?」
「えっ」
「……なにもしておりませんが」
ジウシードが鬼のような形相になり、ラウルを睨んだ。そして勢い良くラウルから引き剥がすかのように、俺を抱き抱えた。
急に俺を奪い取られたかのような形となったラウルは、呆れた顔で小さく溜め息を吐いたかと思うと冷たい声で言う。
「アキラ様を傷付け続けている貴方にとやかく言われる筋合いはありませんね。そもそも私はただ酔ったアキラ様を部屋まで送り届けて来ただけですし。アキラ様はこちらの部屋に戻ることも躊躇われているようでしたから、なんなら私の部屋にお連れしても良かったのですけどね」
そう言い放ったラウルの言葉に、ジウシードは目を見開き、そして俺を見下ろした。なぜか傷付いたような表情のジウシード。なんでお前がそんな顔をするんだよ。お前が俺を避けているからだろうが! 俺から離れようとしているお前がそんな顔をするな!!
なんだか腹が立ってきてしまい、涙目になりながらジウシードを睨んだ。そして、ジウシードに抱えられている腕から飛び降りるように強引に離れた。しかし、やはり酔いが抜けていないのか、足元がふらつき思わず前のめりになると、ジウシードとラウルのふたりに支えられる。
「大丈夫か?」
「アキラ様、大丈夫ですか?」
慌ててその手から逃れ、後退る。そしてラウルのほうへ向いた。
「ご、ごめん、大丈夫大丈夫。ラウル、運んでくれてありがとう。もう寝るよ」
そう早口に捲し立てると、ジウシードの顔を見ることなく、急いで隣の部屋のベッドへと潜り込んだ。風呂へ入るでもなく、着替えるでもなく、ただジウシードと顔を合わせたくない一心だった。
「ジウシード様、やはり貴方は盛大な阿呆ですね」
「なんだと!?」
「それが分からないようなら、アキラ様は私がいただきますから」
「なっ!?」
なんだかよく分からない会話をしているふたりの声が聞こえるが、俺は布団にぎゅうっと包まるだけだった。なにやらジウシードの怒鳴り声が響き渡っていたが、俺はもうそんな会話ですら聞きたくなかった。耳を押さえ蹲り、寝てしまおうと思っていたが、一度目が覚めてしまうとなかなか眠気がやって来ない。
声が聞こえなくなり、扉が閉まる音が聞こえ、どうやらラウルが部屋を出て行ったのかと分かる。ベッドへ近付く足音が聞こえ、身体が強張る。必死に息を殺し、寝たふりをした。
ギシリとベッドが軋み、俺の身体を撫でるように手が触れていることに気付く。布団越しにでも分かる優しい手付き。
「アキラ……」
ジウシードが躊躇いがちに俺を呼ぶ声が聞こえる。ギクッと身体が強張るが俺はなにも言葉に出来ない。なにを言われるのかが怖くて、顔を合わせられない。
「アキラ……話がしたい。顔を見せてくれないか?」
「…………お前のほうが俺の顔を見たくなかったんだろうが。だからずっと俺を避けてたんだろ? 俺が男なんかに襲われたから……もう俺のことなんか嫌いなんだろ?」
あぁ、言ってしまった……。言ってしまって肯定されるのが怖くて、それで終わってしまうのが怖くて、ずっと自分を騙すようにジウシードから避けられているからと言い訳をしていたのに……。
「そうじゃない!!」
ジウシードの怒声が響き、ビクリとする。そしてバサッと勢い良く布団を剥ぎ取られてしまい、蹲る俺の姿はジウシードの前に晒された。
「布団返せ!! なにが「そうじゃない」だよ!! ずっと俺を避けて来たくせに!!」
「それは……」
言い淀んだジウシードに腹が立ち、ベッドから逃げ出そうとした。しかし、それに気付いたジウシードは勢い良く俺の腕を掴んだかと思うと、グイッと引き寄せ、抱き締められる。
「は、離せ!!」
「嫌だ!!」
力の限り抱き締められ身動きが取れない。苦しいほどの抱き締める力。それなのに……それなのにジウシードは震えていた。
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