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55-1 月の魔力
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リョウに睨まれつつも、俺と原田さんはひとしきり笑い、そして改めて原田さんが持って来てくれた鍵で金庫を開けてみることにした。
「この金庫か?」
「うん」
父親の書斎に原田さんと共に向かい、皆で金庫を見下ろす。
「じゃあ開けてみるぞ?」
リョウが原田さんの持って来た鍵を使い、金庫を開ける。ガチャリと音を立て開いた金庫の中身は……
「またノートだな」
「うん。それになにか箱がある」
中身を取り出すと、父親の筆跡で書かれたノートと、小さな箱。リョウがそのノートを手に取りパラパラと捲る。そこには親父がアルヴェスタへと渡った後のことが書かれてあった。
父親は日本に現れた母親と結ばれ、共にアルヴェスタへと帰還した。そして国王選定の儀を受け、その当時の三領主のうち、ひとりの領主が国王として選ばれる。母親は国王として選ばれることなく、領主選抜を行い、領主を退いた。
そして母親はその後、国王の補佐になることを拒んだ。父親のような異世界から来た人間をアルヴェスタに縛り付けることが納得出来なかった母親は日本へと戻ることを望んだ。
競い合った友でもある領主と国王に訴え、異世界を渡る方法を探し出し、日本へと戻ることを認めさせた。
古代魔法を使い異世界へ渡っていたという事実を突き止め、その当時の国王ともうひとりの領主の判断の元、父親と母親は異世界転移の魔法陣を開き、日本へと舞い戻った。
しかし、そのとき母親は転移と同時にその転移に必要とされる魔法陣を発現させる魔石を持ち出してしまった。
その魔石は今のこの時代には失われた魔法で、その魔石を創り出す方法はすでに誰も知り得なかった。現存する唯一の魔石を持ち出してしまったのだ。
その魔石を再びアルヴェスタへと戻すべきかと悩んでいる間に、母親は俺を身籠った。身籠った状態で転移する危険性を恐れた母親は、アルヴェスタへと渡ることを拒んだ。そうして魔石は誰にも見付からぬよう父親が隠すこととなる。
父親はことの経緯、そして異世界を渡る魔法陣の開き方、それらを自身の見聞きしたこととして書き記しておいた。いつかこの魔石があるべき場所へと戻されることを願って。
「おふくろ……持ってきちゃった訳だな」
本来、アルヴェスタにあるべき魔石とやらをこちらの世界に持って来てしまったのか。リョウとふたりで苦笑する。
「まああのおふくろならやりそうだな。返さなくていいのか聞いても「ま、大丈夫だろう」とか言ってそう」
母親はサバサバとした性格で、男勝りというか、何事にも豪快で、今思えばさすが領主まで上り詰めただけのことはあるな、という、とても強い女性だった。だから魔石を持って来てしまったという事実にも、「なんとかなるだろう」としか思っていなかった気がする。
リョウの発言にふたりして乾いた笑いが出た。そんな俺たちに母親のことを知る原田さんも苦笑する。
ノートと共に入っていた小さな箱。それを手に取り開く。そこには小さな宝石。紫色に輝く綺麗な宝石。これが魔石と呼ばれているものか。手のひらに乗る小さな魔石。卓球の球くらいの大きさだろうか。摘まみ持ち上げ光に翳すと、中心部分は透明にも見える。キラキラと煌めいてはいるが、天井の灯りが向こう側に透けて見える。
「とりあえずこの石で発動するという魔法陣。それが転移の魔法陣ってことか。その方法は?」
リョウは再びノートに目を落とした。そして、続きに書かれた魔法陣の発動方法。それらを読み上げていく。
『月が真円に満ちるとき、魔石に月の力を溜め、そして魔石に魔力を注ぐ。そのとき古代の魔法が封じ込まれた魔石の力が魔法陣を開き、異世界へと繋がる』
「月が真円に満ちるときってのはおそらく満月のことだよな?」
「だろうな」
「満月のときに魔石に月の力を溜め? 魔石に魔力を注ぐ? どうやって?」
「…………」
リョウが顎に手をやり考え込んだ。原田さんは呑気に魔石を興味深そうに眺めている。
「満月に魔石を翳してみるか。もしかしたらなにか起こるかもしれない」
リョウが魔石を見詰めながら言った。確かに詳しい方法が分からない以上、そうやって試してみるしかないな。
「でも魔力は? 俺たちに魔力なんてない……どうしたら……」
「この金庫か?」
「うん」
父親の書斎に原田さんと共に向かい、皆で金庫を見下ろす。
「じゃあ開けてみるぞ?」
リョウが原田さんの持って来た鍵を使い、金庫を開ける。ガチャリと音を立て開いた金庫の中身は……
「またノートだな」
「うん。それになにか箱がある」
中身を取り出すと、父親の筆跡で書かれたノートと、小さな箱。リョウがそのノートを手に取りパラパラと捲る。そこには親父がアルヴェスタへと渡った後のことが書かれてあった。
父親は日本に現れた母親と結ばれ、共にアルヴェスタへと帰還した。そして国王選定の儀を受け、その当時の三領主のうち、ひとりの領主が国王として選ばれる。母親は国王として選ばれることなく、領主選抜を行い、領主を退いた。
そして母親はその後、国王の補佐になることを拒んだ。父親のような異世界から来た人間をアルヴェスタに縛り付けることが納得出来なかった母親は日本へと戻ることを望んだ。
競い合った友でもある領主と国王に訴え、異世界を渡る方法を探し出し、日本へと戻ることを認めさせた。
古代魔法を使い異世界へ渡っていたという事実を突き止め、その当時の国王ともうひとりの領主の判断の元、父親と母親は異世界転移の魔法陣を開き、日本へと舞い戻った。
しかし、そのとき母親は転移と同時にその転移に必要とされる魔法陣を発現させる魔石を持ち出してしまった。
その魔石は今のこの時代には失われた魔法で、その魔石を創り出す方法はすでに誰も知り得なかった。現存する唯一の魔石を持ち出してしまったのだ。
その魔石を再びアルヴェスタへと戻すべきかと悩んでいる間に、母親は俺を身籠った。身籠った状態で転移する危険性を恐れた母親は、アルヴェスタへと渡ることを拒んだ。そうして魔石は誰にも見付からぬよう父親が隠すこととなる。
父親はことの経緯、そして異世界を渡る魔法陣の開き方、それらを自身の見聞きしたこととして書き記しておいた。いつかこの魔石があるべき場所へと戻されることを願って。
「おふくろ……持ってきちゃった訳だな」
本来、アルヴェスタにあるべき魔石とやらをこちらの世界に持って来てしまったのか。リョウとふたりで苦笑する。
「まああのおふくろならやりそうだな。返さなくていいのか聞いても「ま、大丈夫だろう」とか言ってそう」
母親はサバサバとした性格で、男勝りというか、何事にも豪快で、今思えばさすが領主まで上り詰めただけのことはあるな、という、とても強い女性だった。だから魔石を持って来てしまったという事実にも、「なんとかなるだろう」としか思っていなかった気がする。
リョウの発言にふたりして乾いた笑いが出た。そんな俺たちに母親のことを知る原田さんも苦笑する。
ノートと共に入っていた小さな箱。それを手に取り開く。そこには小さな宝石。紫色に輝く綺麗な宝石。これが魔石と呼ばれているものか。手のひらに乗る小さな魔石。卓球の球くらいの大きさだろうか。摘まみ持ち上げ光に翳すと、中心部分は透明にも見える。キラキラと煌めいてはいるが、天井の灯りが向こう側に透けて見える。
「とりあえずこの石で発動するという魔法陣。それが転移の魔法陣ってことか。その方法は?」
リョウは再びノートに目を落とした。そして、続きに書かれた魔法陣の発動方法。それらを読み上げていく。
『月が真円に満ちるとき、魔石に月の力を溜め、そして魔石に魔力を注ぐ。そのとき古代の魔法が封じ込まれた魔石の力が魔法陣を開き、異世界へと繋がる』
「月が真円に満ちるときってのはおそらく満月のことだよな?」
「だろうな」
「満月のときに魔石に月の力を溜め? 魔石に魔力を注ぐ? どうやって?」
「…………」
リョウが顎に手をやり考え込んだ。原田さんは呑気に魔石を興味深そうに眺めている。
「満月に魔石を翳してみるか。もしかしたらなにか起こるかもしれない」
リョウが魔石を見詰めながら言った。確かに詳しい方法が分からない以上、そうやって試してみるしかないな。
「でも魔力は? 俺たちに魔力なんてない……どうしたら……」
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