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4.心地よい反撃

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彼女の嬌声を一通り楽しんだ。
舌を動かし過ぎて、若干の気怠さはある。
ひりつくような、ちょっとした筋肉痛のような、謎の痛み。
このまま彼女の限界まで、果てるまで行こうかと思ったが、流石に体力がもたない。
いや、正しくは舌の筋肉が持たない。
指ならばあるいは、とも思ったがそこまで相手を慮る必要もないだろう。
ここには愛はないし、
情もない。
恋心もない。
ただの生存のための行為と、その補助。
僕は彼女の名前も知らないし、彼女と再び会うこともきっとない。
ゼロではないだろうが、その可能性は限りなく低い。
だからこそ、爺様は死の間際、嫁であるお祖母様の名前でもなく、息子である父さんの名前でもなく、孫である僕ですらなく。
一度しか会えなかった名前も知らぬ淫魔のことを思ったのだ。

「油断……、してっ……、ましたっ……」

僕が行為を中断し、物思いに耽っている間に回復したようだ。
回復、と言っても呼吸は安定していないし、言葉も途切れ途切れ。
目もぽわんと、まるでお酒に酔っているように焦点が定まっていない。

「まさ、か……ここまでっ……、とはぁ」

慣れ、という程召喚回数はこなしていないが、気持ちいポイントはだいたい同じらしい。
つまりは、人間と同じということだ。
つい最近まで童貞であった僕には、書物の知識しかなかったけれど、存外それで十分だった。
ーーまあ、演技である可能性も捨て切れないが。
だが、演技だからと言ってどうだというのだろう。
別に、問題は何もない。
デメリットは、何もない。
少なくとも、僕には。

「気持ちよかった?」

僕は逆に先ほど彼女から受けた問いを返した。
恥じらうように視線を逸らして、こくりと無言で頷いた。
あれだけ、恥ずかしく乱れておいて、何を今更ーーとも思ったが、きっとそういうものなのだろう。
それはそれ、これはこれ。
性行為の最中と、会話の最中。
状況が違えば、羞恥の感じ方も異なるのだ。

「でもっーー反撃開始です」

そう言って、彼女は僕へもたれ掛かるように倒れ込み、スムーズな流れでしかかるように体を乗せた。
マウントポジション。
羽のような……とまではいかないが、きっと女性としては理想的な体重が僕に負荷をかけた。
人肌の体温、
柔らかな触感。
どこか、安心する。
心拍の鼓動は上がっているはずなのに、相反する感情。
これに理由を見つけるのは難しそうだ。

下から僕は彼女を見上げた。
嬉しそうに、
楽しそうに微笑みを浮かべている。
だけれど、その表情には先の余韻が残っているらしく、どこか抜けた雰囲気が漂っている。
隙がある女性、
どこか不安定な女性、
デメリットであるソレを男を落とす武器に用いる連中の手管の恐ろしさが理解できた。
どうしてなかなか魅惑的に見えてしまう。
それが狙う狙わないに限らず。
いや、普通に眼前で揺れる二つの胸に心奪われているだけなのかもしれない。
彼女の呼吸に合わせて、僅かに揺れる二つの乳房。
うん、きっとそうだろう。
そうとしか考えられない。

「ーーはむぅ」

意味をなさない言葉とともに、僕は改めて唇を奪われた。
最早童貞でもなく、一切の希少価値を有しない僕の唇。
無論、抵抗することも可能だが、する必要もない。
彼女の言う通り、ここからは攻守交代だ。
改めて、いや再び彼女に体を任せよう。
僕はそう思い、彼女を受け入れた。

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