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7.お別れ

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激しい彼女の技術で、僕は果てた。
脱力感と開放感で、頭の中が真白になる。
あぁ、どうして僕はここにいるんだっけか。
幸せそうにすり寄っているこの子は誰なんだっけか。
ーーあぁ、召喚した彼女か。
成る程、成る程。
快楽に浸りすぎて、記憶の一部が飛んでいるような感覚。
麻酔のようなものだろう、腐っても彼女達は淫魔なのだ。
一度召喚されたからには確実に術者から体液を貪る。
効率的に、できる限り。

それは、当人の意思にはさして関係なく。
愛らしい、庇護欲を誘う表情もその結果のことだろう。
彼女が僕を愛しているということではなく、
猫が餌をねだって擦り寄るようなものだ。
僕じゃなくても問題ない。
男であれば、
極論、精液さえ手に入れることができるなら、なんでも。

「むむっ、何やら難しそうな顔をしていますね」

上目遣いで彼女が言う。

「いや、特にそんなことはないよ」

「あんまり、気持ちよくなかったですか?口の方が、良かった、とか?」

「いや、普通に気持ちよかったさ」

僕は彼女の頭をぽんぽんと撫でた。
どこか彼女は不満そうに口をまげた。

「じゃあもっと嬉しそうな顔をしてくださいよ。ほらっ、その、こうーー幸せだっ、っていう顔ですね」

「いった後だから仕方がないだろ。無理な注文をしないでくれ」

「でも……」

彼女は俯き、儚げな表情を見せた。
作り物でないような、真に迫るような。
生々しい、人間の少女のような、切なそうな表情で。

「次はもう会えないのかも、しれないんですから。笑って、幸せそうな顔を見て、お別れしたいじゃないですか」

彼女の右目から、一雫溢れる。
つぅうと、一筋の流れ。
ピトンと、温い感触が僕に伝わる。
それと同時に、彼女の体が薄くなっていく。
どうやら、時間のようだ。

淫魔は基本的にはこの世界のルールの外の存在。
故に、現界時間には制限がある。
多少のブレはあるけれど、だいたい30分から1時間。
その間に一仕事を終えないといけないから、ある意味大変な種族だ。
けど、これまでの子は、別れ際にこんな表情を見せることはなかった。
あっけらかんと、
またいつか会いましょう、
みたいな感じだった。

「また、私のこと、喚んでくださいね」

「約束はしかねる」

無理なことは言わないし、しないと決めている。
これは僕の努力でどうこうなる問題ではないし、なんとかなるなら、そもそも彼女と今こんなことにはなっていない。
僕も、
爺様も。
初めての相手をきっと喚び続けたことだろう。
そして、そのまま果てて朽ちていたことだろう。
僕の一族は、惚れっぽいが一途なのだ。
だけれど、据え膳は食べきるという屑っぷり。
悲しい哉、好きでもない女性と肌を重ねることはできても、嘘の約束を交わすことはできない。

「そんなこと、言わないでください」

次第に彼女の体が消えていく。
脱ぎ捨てた服とともに、存在が希薄になっていく。
触れる肌の感触も朧になっていく。

「私は待ってますから。貴方が私のことを望まなくても、強引に出てきちゃいますから」

薄くなる、
消えていく、
淡くなる、
消えていく。

「また、いつか……貴方……と」

そこで、完全に彼女の存在は消失した。
僕はぐったりと床に寝そべったまま、動く気になれなかった。
幸せな時間ではあった。
だけれど、後味は最悪だった。

「お互いに辛いだけなら、言葉にするなよな」

僕はそう呟き、目を閉じた。
恥ずかしい状態であることに、目が覚めてから気づいた。
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