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一応、それぞれに序列はある。
基本、家柄に依存するが。
私は9番目で、ペコットは11番目。
実に微妙な順位。
下はいるけれど、上はもっといる。

どうして、このような事態になったかというと、あのお方の姉ーーイデア様のせいである。
『せい』、という言い方はあまり良くないかもしれない。
だけれど、事実はそうだ。
恋敵として、多少の偏見はあるかも知れないだろうけど。
イデア様とあのお方があまりも親密な関係であり、他の誰かと結ばれようとしなかった。
姉弟の、禁断の愛。
ただの家族愛ならば良かったのだ。
ただの仲の良い姉弟ならば良かったのだ。
お互いがそれぞれに恋人、あるいは婚約者を持てば良かったのだ。

だけど、そうはならなかった。
イデア様は虚弱で、いつも何かしらの病にかかっていた。
本当のところは分からないが、少なくとも健康ではないことは確かだ。
故に、政略としての婚約者探しはなかなか難しかった。
だって、婚約しても世継ぎが生まれる可能性が絶望的ならば、非常に扱いにくい。
王族としての立場上、相手側はイデア様を粗末には扱えない。
国側の補助もあるだろうが、それは同時に枷にもなる。
監視がつく、ということに類似だ。
自由な動きは取れない、どころか怪しまれるだけで致命傷になる。
ーーということで、姉側の恋人探しは早々に座礁した。
この通りの思考遊戯、机上の論理で終了した。
結果、イデア様はカストリア様以外とは、誰とも触れ合うことなく過ごしている。
箱庭の中で、理想の相手と愛を育み続けている。
今この瞬間でさえ、きっと。

では、弟であるカストリア様の方はどうか。
姉とは対照的な健康体。
才智に恵まれ、美貌に恵まれ、その心も歪むことなく正しく根付いた。
結果、本来は兄であるアンドレアル様が継ぐはずの王位も、彼のものとなった。
次期、国王候補。
それも他者が羨むもの全てを持った男。
姉と異なり、その貰い手は引くて数多。
国王様はその中でも最も優れた相手を選んだ。
それが今の序列一位に君臨する『あの人』だ。
私から見ても、およそ勝てる見込みが少しもない、完成された女性だ。
一つだけ、唯一弱点というか欠点を見出すならば、その完全性。
人間らしくない、弱さがないという点。
どこか作り物感がある、と言うところだろうか。
何でもそつなく優雅にこなし、その美貌も十分過ぎる程。
性格も理想的だ。
他者に優しく、家を国にとって正しい行動をする。
ペコットが『聖女』ならばあの人は『聖母』だ。
誰にでも優しい、
誰にでも平等。
無駄がない。
失敗もしない。
並の男なら、自身の未熟さを恥じ、側にいられないだろう。
私だったら、常に気を張って生きる日常は疲れてしまう。

あのお方であれば、きっと何も感じず過ごせるだろう。
あのお方はあのお方で、完璧なのだから。
私があのお方にいたいと思うのは、恋心故だろう。
自分の未熟さも見えなくなるくらい、好きだからなのだろう。
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