59 / 69
59.
しおりを挟む
私は自身の手を見た。
まだ鈍く痛む傷跡。
これが、あのお方の命を守った証拠。
あのお方との繋がり。
そう思うと、途端に愛おしくなる。
確かに、名誉の負傷だ。
「話を戻しましょう。今は貴方の話ではなく、僕のお話ですので。ーーそれで、僕は我が主人が貴方達を処分しようとする隙を狙い、仕留めました。同行した仲間を手にかける必要があったこと、それと貴方に罪を被せることには躊躇いはありました……けど、大義のためには仕方がありません。そう割り切って、実行に移しました」
私は、怒るべきなのだろう。
無実の罪を着せられたことに。
無用の非難と中傷を与えられたことに。
一歩間違えば処刑されたことに。
でも、
でも。
何も言えなかった。
結局は助けられているからか、
それとも、この傷の理由のせいか。
どちらにせよ、怒るの気分ではない。
「謝って済む問題ではありません。けど、僕の仲間とは違い、貴方はまだ生きている。だから、言わせてください」
言葉をためて、言う。
ただに丁寧な口調ではなく、
心底、申し訳なさそうに。
「ごめんなさい」
その言葉を私はただ受け止めた。
許しの返答をすることなく、ただ黙って。
理性的に考えれば、許せる所業ではない。
今の甘い頭で結論を出すのは良くない。
それに、まだ私の物語は続く。
きっと、彼の物語も。
ならば、ここで許さずとも、いづれは良い状況はやってくるはず。
だから、今はその時を待とう。
みんなでしっかり生き延びて、
なんとか幸せになって、
そんな時を。
「許して欲しい、なんて都合のいいことは求めません。ただ、分かって、知って欲しいというだけです」
私の心情を察したのか、彼はそう締めた。
私は何も言わなかったし、彼もそれ以上言葉を紡がなかった。
「じゃあ、主たるねたばらしは完了だね。そろそろ目的地にも着く頃だ。これからの話をしよう」
ペコットが間に入る。
そして、目の前の大きな屋敷を指さす。
彼女の邸宅、バルバシリアの屋敷。
どうやら彼女は一度、自分の領域で私を匿うらしい。
ーーだが、近くづくに連れて、その門前に誰かいるのが見える。
大きな男と、控える女。
見覚えは、もちろんあった。
「早速、問題発生だ」
ペコットはあっけらかんと言った。
「追手の登場、先回り。リトア、やっぱり君は運が悪いね」
と、付け加えて。
まだ鈍く痛む傷跡。
これが、あのお方の命を守った証拠。
あのお方との繋がり。
そう思うと、途端に愛おしくなる。
確かに、名誉の負傷だ。
「話を戻しましょう。今は貴方の話ではなく、僕のお話ですので。ーーそれで、僕は我が主人が貴方達を処分しようとする隙を狙い、仕留めました。同行した仲間を手にかける必要があったこと、それと貴方に罪を被せることには躊躇いはありました……けど、大義のためには仕方がありません。そう割り切って、実行に移しました」
私は、怒るべきなのだろう。
無実の罪を着せられたことに。
無用の非難と中傷を与えられたことに。
一歩間違えば処刑されたことに。
でも、
でも。
何も言えなかった。
結局は助けられているからか、
それとも、この傷の理由のせいか。
どちらにせよ、怒るの気分ではない。
「謝って済む問題ではありません。けど、僕の仲間とは違い、貴方はまだ生きている。だから、言わせてください」
言葉をためて、言う。
ただに丁寧な口調ではなく、
心底、申し訳なさそうに。
「ごめんなさい」
その言葉を私はただ受け止めた。
許しの返答をすることなく、ただ黙って。
理性的に考えれば、許せる所業ではない。
今の甘い頭で結論を出すのは良くない。
それに、まだ私の物語は続く。
きっと、彼の物語も。
ならば、ここで許さずとも、いづれは良い状況はやってくるはず。
だから、今はその時を待とう。
みんなでしっかり生き延びて、
なんとか幸せになって、
そんな時を。
「許して欲しい、なんて都合のいいことは求めません。ただ、分かって、知って欲しいというだけです」
私の心情を察したのか、彼はそう締めた。
私は何も言わなかったし、彼もそれ以上言葉を紡がなかった。
「じゃあ、主たるねたばらしは完了だね。そろそろ目的地にも着く頃だ。これからの話をしよう」
ペコットが間に入る。
そして、目の前の大きな屋敷を指さす。
彼女の邸宅、バルバシリアの屋敷。
どうやら彼女は一度、自分の領域で私を匿うらしい。
ーーだが、近くづくに連れて、その門前に誰かいるのが見える。
大きな男と、控える女。
見覚えは、もちろんあった。
「早速、問題発生だ」
ペコットはあっけらかんと言った。
「追手の登場、先回り。リトア、やっぱり君は運が悪いね」
と、付け加えて。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
敗戦国の元王子へ 〜私を追放したせいで貴国は我が帝国に負けました。私はもう「敵国の皇后」ですので、頭が高いのではないでしょうか?〜
六角
恋愛
「可愛げがないから婚約破棄だ」 王国の公爵令嬢コーデリアは、その有能さゆえに「鉄の女」と疎まれ、無邪気な聖女を選んだ王太子によって国外追放された。
極寒の国境で凍える彼女を拾ったのは、敵対する帝国の「氷の皇帝」ジークハルト。 「私が求めていたのは、その頭脳だ」 皇帝は彼女の才能を高く評価し、なんと皇后として迎え入れた!
コーデリアは得意の「物流管理」と「実務能力」で帝国を黄金時代へと導き、氷の皇帝から極上の溺愛を受けることに。 一方、彼女を失った王国はインフラが崩壊し、経済が破綻。焦った元婚約者は戦争を仕掛けてくるが、コーデリアの完璧な策の前に為す術なく敗北する。
和平交渉の席、泥まみれで土下座する元王子に対し、美しき皇后は冷ややかに言い放つ。 「頭が高いのではないでしょうか? 私はもう、貴国を支配する帝国の皇后ですので」
これは、捨てられた有能令嬢が、最強のパートナーと共に元祖国を「実務」で叩き潰し、世界一幸せになるまでの爽快な大逆転劇。
辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。
コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。
だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。
それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。
ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。
これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。
【完結】婚約破棄に祝砲を。あら、殿下ったらもうご結婚なさるのね? では、祝辞代わりに花嫁ごと吹き飛ばしに伺いますわ。
猫屋敷 むぎ
恋愛
王都最古の大聖堂。
ついに幸せいっぱいの結婚式を迎えた、公女リシェル・クレイモア。
しかし、一年前。同じ場所での結婚式では――
見知らぬ女を連れて現れたセドリック王子が、高らかに宣言した。
「俺は――愛を選ぶ! お前との婚約は……破棄だ!」
確かに愛のない政略結婚だったけれど。
――やがて、仮面の執事クラウスと共に踏み込む、想像もできなかった真実。
「お嬢様、祝砲は芝居の終幕でと、相場は決まっております――」
仮面が落ちるとき、空を裂いて祝砲が鳴り響く。
シリアスもラブも笑いもまとめて撃ち抜く、“婚約破棄から始まる、公女と執事の逆転ロマンス劇場”、ここに開幕!
――ミステリ仕立ての愛と逆転の物語です。スッキリ逆転、ハピエン保証。
※「小説家になろう」にも掲載。(異世界恋愛33位)
※ アルファポリス完結恋愛13位。応援ありがとうございます。
私のかわいい旦那様
Rj
恋愛
優秀だが変わり者とよばれる王太子ダレンに嫁いだシャーリーは、「またやってしまった……」落ち込む夫に愛おしさを感じる。あなたのためなら国を捨てることもいといません。
一話完結で投稿したものにもう一話加え全二話になりました。(10/2変更)
『次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛』に登場するグレイスの長女と次男の話ですが未読でも問題なくお読み頂けます。
天真爛漫な婚約者様は笑顔で私の顔に唾を吐く
りこりー
恋愛
天真爛漫で笑顔が似合う可愛らしい私の婚約者様。
私はすぐに夢中になり、容姿を蔑まれようが、罵倒されようが、金をむしり取られようが笑顔で対応した。
それなのに裏切りやがって絶対許さない!
「シェリーは容姿がアレだから」
は?よく見てごらん、令息達の視線の先を
「シェリーは鈍臭いんだから」
は?最年少騎士団員ですが?
「どうせ、僕なんて見下してたくせに」
ふざけないでよ…世界で一番愛してたわ…
婚約者を義妹に奪われましたが貧しい方々への奉仕活動を怠らなかったおかげで、世界一大きな国の王子様と結婚できました
青空あかな
恋愛
アトリス王国の有名貴族ガーデニー家長女の私、ロミリアは亡きお母様の教えを守り、回復魔法で貧しい人を治療する日々を送っている。
しかしある日突然、この国の王子で婚約者のルドウェン様に婚約破棄された。
「ロミリア、君との婚約を破棄することにした。本当に申し訳ないと思っている」
そう言う(元)婚約者が新しく選んだ相手は、私の<義妹>ダーリー。さらには失意のどん底にいた私に、実家からの追放という仕打ちが襲い掛かる。
実家に別れを告げ、国境目指してトボトボ歩いていた私は、崖から足を踏み外してしまう。
落ちそうな私を助けてくれたのは、以前ケガを治した旅人で、彼はなんと世界一の超大国ハイデルベルク王国の王子だった。そのままの勢いで求婚され、私は彼と結婚することに。
一方、私がいなくなったガーデニー家やルドウェン様の評判はガタ落ちになる。そして、召使いがいなくなったガーデニー家に怪しい影が……。
※『小説家になろう』様と『カクヨム』様でも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる