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2章 第2の婚約者

38.バケモノ

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「さて、落ち着いたところで、当事者同士で話をしようか」

メノウとリヒーは、拘束され、室外のどこかへと連行された。
リヒーは無傷だから問題ないだろうが、メノウは違う。
急所は外した、とはいえ重傷は間違いない。
彼女は私やバルバトロスとは違う、普通の人間。
流れる赤い血を、ある程度失えば、普通に死ぬ。
死んで、動かなくなる。

「彼女のことなら大丈夫、心配いらないよ。ちゃんと全力で治療するから安心して。人質は死んじゃあ、いけない。役目を果たすことができなくなるからね」

「それはご親切にどうも」

「あれ、随分と口調が砕けたね。余に心を許してきたってことかな?嬉しいな、幸せだな♪」

るんるんと小さな両手をばたばたさせ、喜びのポーズ。

「何を馬鹿な。バケモノ相手に品を作っても意味がないと割り切っただけだよ」

「バケモノなんて酷いな!余はこんなに可愛いのに!」

ぶーぶーと膨れる。

「五体をバラバラにされても、自己再生できる生物を人はバケモノって呼ぶんだよ」

いくら賢くても、
いくら強くても、
いくら、可愛くても。

「じゃあいいや、バケモノでも。バケモノという名前の天使、って理解で納得することにする。それにーー」

人は自身で理解できないものを、適当に名前をつけて迫害するからね、
と彼は囁くように言った。

彼と大して変わらない、
ジャンルが違うだけの『バケモノ』であるところの私に。

「また話がそれたね。お仕事、というかお願いの話に戻さないと」

バルバトロスはそう言って、私に2枚の写真を手渡した。
片や、褐色の肌の屈強そうな青年。
片や、色白の眼鏡をかけた細身の青年。

たぶん、前者が武のアルバリア=ステノンで
後者が知のクリスティア=ステノンだろう。
仮に違っていたとしても、どちらも殺さなければいけないから、どちらにしたところで同じことなのだろうが。

「……裏に名前が書いてあったか」

裏に続く問題用紙のよう。
私の予想は当たっていたようだ。

「それで、いつ殺す?後はアリシアさんの心と体の準備次第なのだけど。あれだけの魔法を使った後だから、一回休憩を挟んだ方が確実なのかな?まあ、人二人を消すくらいなら、最悪魔法である必要もないのだけれどね」

彼は続ける。

「銃でもいいし、槍でもいい。剣でもいいし、ナイフでも十分だ。彼らは人間だから、それだけで死ぬ。いくら武芸あるいは知略に優れていようと、人間を辞めれていない以上、そのくびきからは逃れられない」

彼は続ける。
だったら、誰かに命令すればいいと思った。
さっきメノウにしたように。
部下にでも臣民にでも。

「それなら、私に言わずに部下に命令すればいいじゃん!って思うでしょ?でもそれができないからこそ、君にお願いしているんだよね♪余に兄さんたちは『刷り込み』故に殺せない。部下たち含め、臣民たちは余含め、兄さんたちを『神格化』しているから殺せないんだ。殺してしまえば、自身は神殺し。未来永劫、一族郎党、死んでも許されることのない罪を背負うことになる」

「だからこその、無関係の君だ。アリシア=ラインバルト。魔法の使える、お嬢様」

彼の言葉は、そこで終わった。
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