華麗なる転生を遂げたのに、いきなり婚約破棄とか。

くわっと

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3章 政略と征略

54.記憶

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私はどのくらい眠っていたのだろうか。
まるで記憶の整合がとれない。
代わりに、さっき見ていた『夢』の記憶は残っている。

アルベイス=ナーサリー
水色のシャーベットカラーを基調にした、
ふりふりの、フリルまみれの衣装。
猫目が印象的な、29歳くらいのお姉さん。
けっこうフレンドリーな人だったが、結局本題とはなんだっただろう。
最後に、名前を聞いてお別れする羽目になった。

彼女がドジっ子なのか、
それとも運が悪かったのか。

あと、失恋のくだり。
あれも気になる。
私は誰かに恋をしていたのだろうか。
そして、その人に振られたのだろうか。
この、圧倒的に可愛い見た目で。
振るやつの心理が分からない。
理解に苦しむ。

「お嬢様、体調は大丈夫ですか?」

「ああ、この通り問題なーー?」

言いかけた言葉を、途中で遮る。
左手が、動かない。
正しくは、左手の五指全てが動かない。
自分の意思で、動かせない。

左腕は動く、
振れる、
回せる。

だけど、指はーー動かない。

「うん、問題ありだね。左手が動かない」

なんだろう、どこかでぶつけたかな。
いや、そもそも意識不明の重体だったらしいのだ、何かあったに違いない。
犠牲が左手だけで済んだことを喜ぶべきだ。
魔法の扱いはいつも右手でしているし、右利きだからさして日常生活に問題はない。
少し不便だろうが、私はお嬢様。
多少の我儘は許してもらえるだろうし、
お願いしてもしなくても、色々と手伝ってくれるだろう。

だけど、メノウは不安そうに私を見つめる。
感覚が消失した左手を握る。
そして、堪えていただろう涙を流した。
すみません、すみませんと謝りながら。

「メノウは何も謝らなくていいんだよ」

私はそう言って、右手で彼女の頭を撫でた。
フリルつきのカチューシャが邪魔だった。
なので、ばっと外して投げ捨てた。

「ほら、君はこんなに可愛いんだから、たとえ間違っても大抵のことは許されるさ。それに、何かあったか、私はまるで覚えていない。直近の記憶は……えっと、うんと、ステノン家へ行こうとしたところまでだ。きっとあれだろ、婚約者のバルバトロス=ステノンが写真より7割増し不細工だから、ショックですっ転んだか何かだろう?そういうことにしておこう」

うーん、やはり頭がぼんやりする。
何か、大事なことを忘れている気がする。
だけど、思い出せないということは、大したことではないのだろう。
なら、別に忘れたままでいいじゃないか。
それで私が死ぬわけでもないし、
だれかが死ぬわけでもないし。

「お嬢様ーーごめんなさい、ごめんなさい、ごめんさない」

「よしよし、良い子、良い子、可愛い子」

謝り続けるメノウをこんな感じで小一時間ほどあやし続けた。
そういえば、リヒーはどこへ行ったのだろうか。
同僚のピンチだぞ。
それよか、主人が床に臥せっているのに、いないとは何事か!

心中でほんの少し、ピリつきながら、メノウとの時間を過ごした。
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