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二章
12.孤独な悪役令嬢
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彼女は基本1人で生きてきた。
無論、謀略を巡らす時は、駒としての人間が必要であった。
だが、それに心を許すことは一切なく、駒として最後まで扱い続けた。
その結果故の、現在の境遇。
命が繋がったのは、宿敵アトラの一言によるものであり、他の人間たちは、誰一人として彼女を救おうとは言わなかった。
駒のように、沈黙を貫いた。
パトリシアは、それが悪いこととは思わない。
自分が同じ立場だったらもちろんそうするだろうし、それが最適解だ。
だが、不愉快であることには変わりないし、
目的の巻き添えを与えようと、
何ら心は痛まなし、
むしろ晴れやかになるくらいだ。
だが、今回は違う。
意識不明の痛手を必要とはいえ、強いてはいるが協力者を準備している。
もちろん、彼が協力者足りうるかは今後の頑張り次第。
私と、
彼の。
別に、あんな肉塊に心を許した訳ではない。
情が移ったわけでもない。
ただ、ほんの少し嬉しかっただけ。
その程度の感情を抱ける程、まだ自身の故障は治っていないのだと反省する。
痛感する。
「さて、国取りの下準備と行きましょうか」
呟くように言って、旧アンドレアの仕事部屋に向かう。
程々に豪華な家具が並んでいて、椅子はパトリシアが座ると幾分かスペースが余る程の大きさ。
机上には資料が乱雑に放置されており、そのどれもが中途半端に目を通した形跡があった。
「成る程、私には見栄を張っていただけで、予想通りこちらもよろしくない、と」
資料をひらひらとはためかしながら、パトリシアは嘆息する。
これも予想通りだ。
本当に有能ならば、見た目の不利など簡単に覆せる。
影でも日向でも悪口を言われたい放題。
才覚は全くないわけではない……だろうが、
現状は日の目を見ていない、ということだ。
とりあえず、軽く整理だけして机上をまっさらにする。
整然な机は好きだ、と彼女は思った。
回転式の椅子でくるくると回りながら思考を巡らす。
アンドレアが倒れるまでの期間、従者、領民含め一通りの交友は深めた。
やはり、自身に対する印象は最悪で、会話や動作の端々から警戒が見て取れた。
怯えるもの、
恐るもの、
憎むもの、
妬むもの。
種類は豊富だが、どれも負の感情ということに変わりはない。
別に、あなた方をどうこうするつもりなんて、全くないのに。
「ーー傷つくなぁ」
いつかの彼のように、呟いてみせる。
だが、別段本心ではない。
昔だって、似たような感情は向けられていた。
あくまで、その比率が変わった程度。
それ故に、嘘だけどと付け加えようと思った。
誰も聞いていないので、本来その必要は全くないのだが。
ーーけれど、それは不意に現れた細長い男によって止められた。
「嘘ですね、貴方はいつだって傷つける側ですから」
心の中を読まれたように。
音もなく、気配もなく。
最初からそこに当たり前にいたように。
彼はパトリシアの背後に控えていた。
無論、謀略を巡らす時は、駒としての人間が必要であった。
だが、それに心を許すことは一切なく、駒として最後まで扱い続けた。
その結果故の、現在の境遇。
命が繋がったのは、宿敵アトラの一言によるものであり、他の人間たちは、誰一人として彼女を救おうとは言わなかった。
駒のように、沈黙を貫いた。
パトリシアは、それが悪いこととは思わない。
自分が同じ立場だったらもちろんそうするだろうし、それが最適解だ。
だが、不愉快であることには変わりないし、
目的の巻き添えを与えようと、
何ら心は痛まなし、
むしろ晴れやかになるくらいだ。
だが、今回は違う。
意識不明の痛手を必要とはいえ、強いてはいるが協力者を準備している。
もちろん、彼が協力者足りうるかは今後の頑張り次第。
私と、
彼の。
別に、あんな肉塊に心を許した訳ではない。
情が移ったわけでもない。
ただ、ほんの少し嬉しかっただけ。
その程度の感情を抱ける程、まだ自身の故障は治っていないのだと反省する。
痛感する。
「さて、国取りの下準備と行きましょうか」
呟くように言って、旧アンドレアの仕事部屋に向かう。
程々に豪華な家具が並んでいて、椅子はパトリシアが座ると幾分かスペースが余る程の大きさ。
机上には資料が乱雑に放置されており、そのどれもが中途半端に目を通した形跡があった。
「成る程、私には見栄を張っていただけで、予想通りこちらもよろしくない、と」
資料をひらひらとはためかしながら、パトリシアは嘆息する。
これも予想通りだ。
本当に有能ならば、見た目の不利など簡単に覆せる。
影でも日向でも悪口を言われたい放題。
才覚は全くないわけではない……だろうが、
現状は日の目を見ていない、ということだ。
とりあえず、軽く整理だけして机上をまっさらにする。
整然な机は好きだ、と彼女は思った。
回転式の椅子でくるくると回りながら思考を巡らす。
アンドレアが倒れるまでの期間、従者、領民含め一通りの交友は深めた。
やはり、自身に対する印象は最悪で、会話や動作の端々から警戒が見て取れた。
怯えるもの、
恐るもの、
憎むもの、
妬むもの。
種類は豊富だが、どれも負の感情ということに変わりはない。
別に、あなた方をどうこうするつもりなんて、全くないのに。
「ーー傷つくなぁ」
いつかの彼のように、呟いてみせる。
だが、別段本心ではない。
昔だって、似たような感情は向けられていた。
あくまで、その比率が変わった程度。
それ故に、嘘だけどと付け加えようと思った。
誰も聞いていないので、本来その必要は全くないのだが。
ーーけれど、それは不意に現れた細長い男によって止められた。
「嘘ですね、貴方はいつだって傷つける側ですから」
心の中を読まれたように。
音もなく、気配もなく。
最初からそこに当たり前にいたように。
彼はパトリシアの背後に控えていた。
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