追放された悪役令嬢は残念領主を導きます

くわっと

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二章

15.決断

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蛮族。
野蛮な民族、
外部からの侵略者。
言語が通じず、文化も知らず、ただ暴力によって嵐の如く厄災を振り撒く連中。

基本、主要都市でしか生活していなかったパトリシアにとって、襲来する敵の情報はその程度しかない。
戦力も戦略も戦術もまるで分からない。
一応、かの宿敵との諍いにおいて、ならず者を活用した経験はあった。
しかし、彼らは言葉も通じれば、金の価値も理解できる、一応の文明人ではあった。
故に、勝手が違う。
違いすぎる。

「本来ならば、いつもの如くこの身共がお相手しようかと考えていましたが、状況が状況です。アンドレア様の守護が最優先、従ってこちらには攻撃に割く戦力がなくーー」

「それで私を戦力として活用しようと?こんなか弱い令嬢を?」

正気の沙汰ではない、とパトリシアは思った。
蛮族の噂が本当なら、パトリシアを前線……いや、戦闘そのものに参加させるだけで十分過ぎるほど危険が生ずる。
言葉は通じなくとも、物の価値は分からずとも、人としての本能はある。

つまりは、蹂躙し凌辱の対象となり得る、ということだ。
ぶたれ、嬲られ、性の吐口、あるいは肉袋として扱われる。
物語に出てくる小鬼と同じだ。
見た目が人間である分、もっと酷いかもしれない。
優先的に狙われ、攻撃を受ける。

「ご謙遜を。この身は期待しているのですよ、貴方のお力を。この程度の『課題』は、鼻歌交じりに踏破していただけると」

それに、とリリネットは続ける。

「もし無理というのであれば、それでお終いです。あなたの人生も。この身は命に変えてもアンドレア様や領民の方々は全力でお守りします。しかし、お子も為していない、今後為す予定も薄い貴方に貴重な戦力を割く、というのは難しいのですよ」

またか、と彼女は歯噛みした。
選択できない選択肢。
選び難きを選ぶ。
相手の掌の中でもがくしか無い。

自身も、似たようなことをしてきた。
同じような手法を用い、他人を縛り、操った。

だけど、
だけど。
こうして、続いて。
不利な立場を利用されるのは。

「そうーーですか」

嫌だ。
我儘なのは分かっている。
自分勝手なのも分かっている。
自分がやるのは良くて、相手にされるには嫌、だなんて。

「分かり……ました。こちらとしても、別段策がない、という訳でもありません。やりたくはないけれど、本当に怖いですけれど、やるしかないならーーやるしかないのでしょう」

リリネットに相対し、自身の決断を言い放つ。
それに『結構』と短い一言で、道化のように手を叩きながら受け応えた。

「あ、それと一つ忘れていました」

不意に思い出したように、彼は上着のポケットをゴソゴソと漁った。
そして、白い布に巻かれた『何か』をボスんと投げ置いた。

「……何ですか、これは?」

「今回の情報提供者です。私もそろそろ仕事に戻りますので、残りはに聞いてみてください。少女のような見た目ですが、なかなか賢い子でしてね。蛮族のなのに、この身どもの言葉を理解し話すことができる」

パトリシアはその白い布をゆっくりと解いた。
白い、とは言っても、所々朱色に滲みーー中身が何なのかは容易に想像できた。

「言葉なんて喋らなければ、そのまま縊り殺してお終い、だったのですが。いやはや……いやはや、賢いというのは、悲しいことですね。我が主人のように、どこまでも愚鈍を貫いていれば良かったのでしょうが。賢い人、というのは、最後の最後まで生きたがるのでしょうか? 同類としては、どうですか? 貴方も、処刑を言い渡された時は、その子のように命乞いをしたのでしょう?」

言葉の終わりとともに、パトリシアは解梱を完了した。
独特の臭いと感触が不快感を掻き立てる。

「いやいや、同類というのは失礼でしたね。指の数本を切り落とした程度で、仲間を危機に晒すような軟弱者と、貴方は違いますよね。愛に溺れ、愛に狂い、愛に生きた悪役令嬢、パトリシア・エーテルザットとは」

それは、血に塗れた少女の指の束だった。
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