追放された悪役令嬢は残念領主を導きます

くわっと

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二章

16.独りの悪役

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情報提供者の一部を得意げに披露した後、リリネットは姿を消した。
拷問、別段悪いことだとは思わない。
必要であれば私もするだろうし、したこともある。
先ほど彼に渡された本を、手に取り、パラパラとめくる。
ーーやはり、多少盛られてはいるが拷問の記録も記されている。
併せて、そこには彼のメモらしきものも残っている。
ここに書かれている偽物情報に着想を得たのかもしれない。

指を切り落とす、なんて不可逆的な行為はしたことがないが、『拷問』という言葉で括ってしまえば同じだろう。同類だ。
だけれど、それは必要な行為だからするのであって、楽しむためではない。
あの男は明らかにその行為を楽しんでいる節があるし、実際そうなのだろう。
でなければ、拷問対象の指など持ち歩きはしない。
私以外にも自慢しているに違いない。
悪趣味極まりない。

内心でリリネットについて、一頻り毒づく。
部屋を隅々まで調べ、鍵をかけて。
彼がいなくなったことをしっかりと確認した後、パトリシアは一人呟いた。

「面倒なことに、なりましたね」

味方が誰もいないと独り言が増える。
孤独死を待つだけの老人のアレはこういうことなのか、と実感してしまう。

話相手がいないから、自分が代役を務める。
自分で話しかけ、
自分が答える。
自問自答。たしかに問題解決の手法としてはある程度有用なのだろう。
自分の状況を言葉にして、声に出すと言うことは。

ただ、

「絶望的に寂しい、ですね」

取り巻きも、駒もいない。
自身の問いかけにただ『はい、そうですね』と同意してくれるだけの自動人形でもあればと思ってしまう。
または、あの醜悪なアンドレアでもましかもしれないと。
あるいは、最早敵同然の立ち位置であるリリネットさえ、側にいた方が良かった気さえする。
良くない兆候だな、と彼女は思う。
弱くなったな、と彼女は思う。
だが、それは今まで気付いていなかっただけで、それが自身の本質であるということも、同時に思い当たってはいた。

だけれど、そんなことよりも解決すべきことがある。
蛮族の襲来、それにパトリシアは自身一人で対抗しないといけない。
基本的に、領民その他からの援助は期待できない。
これまでとは異なり、使える人的資源は自分一人。
手駒がいない、自ら動くしかないというのは、なかなかに気が重い。

先のような、対アンドレアのような、表面上は平和的な戦いならばまだいい。
だが今回は戦である。
うまく立ち回らなければ流血沙汰、場合によっては慰み物になった末の死である。
そんな死に方をするくらいなら、大人しく『あの場』で処刑されていた方がマシである。

「時間も限られていますし、思考は動きながらにしましょう。私が使えるのは『私』だけ。状況を嘆いても変わりません。いつも通り、最適解を選びましょう」

パトリシアは立ち上がり、移動を開始する。
人は指を切り落とされた程度では死なない。

首を落とさなければ、
頭を砕かなければ、
心臓を抉らなければ。
つまりは、余程乱暴に乱雑に扱わない限り、人は死なないようにできている。
人の形をしていれば、それは我々だろうと蛮族だろうと変わらない。

殺そうとしなければ、死なないのだ。
情報提供者をすぐに殺すような愚行を、リリネットは犯さないだろう。
あの男は悪趣味ではあるが、気に食わない男ではあるが馬鹿ではない。
きっと、私がそこに向かうことも想定の範囲内だろう。
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