追放された悪役令嬢は残念領主を導きます

くわっと

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4章

35.あの人からの手紙

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パトリシアの短い戦いは終わった。
生存という勝利で幕を閉じた。
彼女の視点から見ればそうである。

久方振りの長い睡眠から覚め、平穏な時間を過ごした。
戦闘の後処理、関係各位への説明、今後の対応等やるべきことは盛りだくさんではあったが。
物理的には誰も傷つかず。
ただ自身が頑張ればどうにかなる状況。

この時間が続くのかとも思った。
しかし、そうはならない。
それはどこかで、彼女自身もそう感じていた。
『このまま』が続くのか、と。
戦いはまだ終わってはいない。
これは単なる小休憩。
まだ続いているのではないか、と。

一時の勝利は次なる敗北の布石。
表裏一体。

時間は流れ、舞台は彼女の私室。
旧アンドレアの仕事部屋。
コンコン、と扉が叩かれる。

まったりのんびり仕事をしているところに、使用人の一人が現れる。
表情はどこか暗く。
その理由は、パトリシアのことが嫌いだからとか、そんな簡単なことではないだろう。
きっと、大事そうに抱えているものだろう。

「パトリシア様、これを」

渡された手紙に目を落とす。
封書の装丁から、送り主の検討はついた。
内容までは予測できないが、別段そうする必要もない。
ただ開いて、読めばいいだけのこと。
それだけのことだ。

「ーーっ、これは」

そして、内容に驚き、床に落とす。
ひらりと、ゆっくりと。
内容は長くはない。
ものの数秒で読了できる程度。
しかし、
だからといって。

紙の重さに比べて、書かれた内容はずっしりと重かった。
文字の少なさに比べ、伝えられた内容は胸に痛かった。

『貴方は残虐にも、領地を経由して移動するだけの難民たちを不当に攻撃を加えた』

『剰え、一部には重傷を与え、捕らえ、非人道的扱いをした』

『貴方だけの罪とは言えない。貴方は実際には手を下していないだろう』

『いつかのあの時のように。裏で糸を引いているだけだろう』

『だが、そうであっても看過できる所業ではない。故に、貴方の領地に経済的な制裁を下す』

『詳細は追って伝えるが、基本的には交易の禁止が主なところである』

『アンドレアとの婚約で君が変わってくれると信じていた』

『残念だ』

『ダリル・ラインバルトより』

パトリシアに新たな罪状が追加された。
罪なき難民の暴虐の罪状が追加された。

だが、大事なのはそこではない。
罪は彼女だけのものではなく、
アンドレアが治める領地。
その全体に課せられていた。


交易の禁止。
それはつまり陸の孤島と化すこと。
外部から物を手に入れることも、
外部へと物を売ることもできない。

ある種の死刑宣告。
平和的な殺人。
ゆっくりと、確実に蝕む毒。

時間はある。
即時的な苦痛もない。
だけれど、その絶望感は果てしなく。

「ダリル……様」

しかし、当の本人。
パトリシアにとって一番問題だったのは、その手紙の送り主がかつての想い人であるということだった。
いくら理屈をつけて振り切ろうとも。
いくら最後の思い出が辛くても。
熱く滾ったあの想いは、簡単に振り返す。
直筆の手紙であれば、十分過ぎるほどに。
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