とある恋のお終い

くわっと

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始まりのお終い

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「もう一度、やり直したい」

 彼女の手紙が伝えたい内容は、その一言に集約する。
 私が悪かった。
 貴方は悪くない。
 私のせい
 貴方のせいじゃない。
 あの時は楽しかった。
 今会ってもそう思う。
 今度は直すから
 もうしないから
 絶対、傷つけないから。

 僕は振り返る。
 彼女との生活を。
 彼女との時間を。
 
 僕も、彼女のことは好きだ。
 どれだけ酷いことをされようと、
 物理的、精神的にされた過去があろうと、嫌いなっていない
 正しくは、嫌いになりきれない。
 一度抱いた恋心を、簡単には捨てきれない。
 一度奪われた心は、取り戻すことはできない、ということなのかもしれない。
 だけれど、それは彼女に限った話ではない。
 過去の恋愛は全てそうだ。
 男の恋は別枠保存、ということなのだろう。
 別れ方は全て最悪だったけれど、今でも彼女たちのことは嫌いになれない。
 リボ払いだろうと
 愛情表現が希薄だろうと
 嫌いにはなっていない。

 今回も、それと同じ。
 いつもの如く、繰り返し。
 ただ違うのは、次の恋人が隣にいないからだ。
 新しい恋人がいれば、僕は迷うことすらしなかったに違いない。
 過去が大事に思えるのは、今を生きていないからだ。
 それはお互いに言えること。
 この手紙の主だって、新たな恋に出逢えば、僕のことなど秒で忘れるに違いない。
 あるいは、なんて酷い男だったとこきおろすかもしれない。

 だから、
 これは幻想。
 恋に恋した、彼女の幻想。
 つまりは僕ではないのだ。

 そんなことを思いつつ、僕は彼女の手紙をしまう。
 開ける前の状態に、丁寧に燃やす。
 そして、火にかけた。
 ゆらゆらと、炎が手紙を覆う。
 黒い煙が、立ち込める。
 手紙はどんどん消えていく。
 黒い燃え滓に姿を変える。

 原型がなくなったのを確認したところで、予め準備しておいた水をかける。
 炎は消え、手紙の残骸だけが残る。
 最早解読は不可能で、元に戻すことも不可能だ。
 僕らの関係と同じ。
 
「落ち着いて考えたい。一週間だけ待ってほしい」

 自分の言葉を思い出す。
 その時には、既に答えは出ていた。
 適切に言語することができないだけで、結論は確定していた。
 手紙を燃やすことは考えていなかったが、行き着く先は同じ。
 物語は繰り返す、バッドエンドは変わらない。

 同じ役者では、物語は変わらない。
 同じ結末を繰り返すならば、この恋に価値はない。
 お互いが傷ついて、
 お互いに嫌いあって。
 お終いだ。

 だから、この手紙のようにしてしまうのがいい。
 取り返しのつかない状態にしてしまうのがいい。
 後悔しても戻れないように。
 願っても取り戻せないように。

 台無しにしてしまうのが、一番いい。
 期待を、希望を持たせるのが、一番悪い。

 僕は、手紙の亡骸を写真に撮って、彼女に送る。
 そして、返事を待たずにブロックボタンを押した。
 紙切れ一枚で縛られるのが結婚というなら、
 ボタンひとつで終わるのも恋愛、ということだろうか。
 
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