虐げられた黒髪令嬢は国を滅ぼすことに決めましたとさ

くわっと

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三章 領主と領民

57.後継()

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お兄様は黙っています。
言葉を発せず、
お父様の目を見ることもできず、
伏せ目がちに、床に視点を落としながら、時を過ごします。
その様子を、お父様はため息をついて観察しています。
きっと、お兄様がどの選択肢を選んだのか、理解したのでしょう。

何もしない、ということは最後の選択肢。
短刀を手にしないということは、お父様に逆らわないということ。

「残念だよ。やはりお前はその程度、ということか。まだまだ教育が必要だな」

お父様は短刀を自ら拾い上げ、お兄様に手渡します。

「え、父上?」

「これはお前に預けておく。私の寝首を取る気概が出来た時に返しに来い」

お父様はそう告げると、椅子に座ります。

「大まかな報告は以上だ。さて、食事をしよう。たまにはこうして、家族全員で食事をとるのも悪くはない」

お父様はそう言って、私とお兄様に着席を促します。

「これからはフォルテシアーー間違えた、オルコットも社交の場に出るのだからな。書物で多少の知識はあるとはいえ、名家の者としての立ち振舞いを実技として身につけなければならぬ」

「はい、お父様」

「まあ、お前は呪われていようと覚えは悪くない。むしろ元オルコットよりも向いているかもしれないな。あいつはお転婆が過ぎた」

たしかに妹様はこの手のことは苦手だったと思います。
だからこそ、ストレスを溜めそのはけ口に私を利用した。
それはお兄様も同じことでしょうけど。

……むむっ、何か殺意と害意がこもった視線を感じます。
ちらり、とお兄様を横目にみます。
やはり睨んでいます。
鬼の形相、というやつです。
私が褒められ、妹様が貶されているが気に入らないのでしょう。
さっきの短刀、お父様ではなく私に向けられるような気がします。

「アデル、何度も言い聞かせているが、改めて言う。このオルコットに対してこれまでのような行為は禁止だ。どうしてもやりたいと言うのなら、別のものを充てがうから、そいつで我慢しろ。一応、聞いておくが……今日にでも必要か?」

お父様はお兄様の方を見ず、無機質に告げます。

「いえ、そんなことはありません」

「なら良い。感情のコントロールも当主として必要な能力な一つ。私が死ぬまで、いや朽ちるまで、せいぜい励め」

「はい、父上」

こうして、私の身の安全はお父様によって保証されました。
しかし、それはあくまでお兄様からの暴力行為。
お父様自身はこれまで通り力を伴った教育を行う可能性は十分にあります。
ただ、1人分減るだけでも嬉しいことです。
あ、妹様の分を含めると2人分、ですか。
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