虐げられた黒髪令嬢は国を滅ぼすことに決めましたとさ

くわっと

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三章 領主と領民

59.遠く、薄く

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「今日からオルコット様のお世話をさせていただきます、ペントレイアと申します。以後、お見知り置きを」

ペントレイアと名乗ったその男は、深々と私に頭を下げました。
食事を終え自室に戻りたいとうずうずしていたら、お父様の指示で彼が私の眼前に現れたのです。
ペントレイアさん、初めて見る方です。
見た感じ、年齢は20代後半くらいでしょうか、男性なのにさらさらな金色の髪が綺麗です。
中性的で、やり方次第では女装映えするような顔立ち。
背は少し高めでお父様くらい、適度に引き締まった肉質が、ある程度の荒事に対応できる専属使用人としての力量を示しているように思えます。

「よ、宜しくお願いします」

おずおずと私は頭を下げます。
知らない人と話すのは久しぶりーーという訳ではありませんが、やはり萎縮しています。

一応、金色の被り物をしているとはいえ、お父様やお兄様がいる空間ではオルテシアのように振る舞うのは少々難しいようです。
いや、違いますね。
かつてはお兄様相手にも、武と言の葉を用いてやり合った経験があります。
なのに、それができないと言うのは、きっとあの被り物が特別だったのでしょう。
お父様から貰ったこれと、自身が見つけ手に入れた(勝手に借りた)アレとでは。

私の態度に、ペントレイアさんはにっこりと笑顔で対応します。
使用人故の処世術なのでしょう。
初対面の私相手でも、丁寧な対応。

「そんなに警戒しないでください。僕はオルコット様の従僕。基本はお皿やぬいぐるみのようなモノとして思っていただいて問題ありません。もちろん人として扱っていただけるならば、それはそれは無上の喜びですが」

と、また笑いかけます。

「ペントレイアは優秀な使用人だ。小さき頃よりマーテルロ家に尽くしてくれた忠臣の一族。元々は私専属の使用人の1人だったが、今回の誘拐事件の件もある。故にお前に与えよう。好きに使うといい」

「あ、ありがとうございます」

横目にお兄様の殺意のこもった視線を感じつつ、私はお礼を言います。
私専属の使用人、ですか。
随分と名家の令嬢っぽくなったものですね。
どんどんかつての私と、
フォルテシア=マーテルロが遠くになっていくのを感じます。

あの時の私はどんな人間だったのか、
何を思い、
何を恨み、
何を望み、
何を憎み、
生きて生きたのか。

この甘い砂糖菓子のように、なくなってしまいそう。
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