虐げられた黒髪令嬢は国を滅ぼすことに決めましたとさ

くわっと

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三章 領主と領民

61.お嬢様の日常と誘惑

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こうして、私の偽お嬢様生活がスタートしました。
かつての妹様や現在進行形のお兄様のように、厳しい教育的指導が起こるのかと思いましたがーーそんなことはありませんでした。

もちろん、一通りの実技を兼ねた『お勉強』はしました。
料理の食べ方、
名家の人間としての振る舞い方、
護身術、
民の治め方、
えとせとら、エトセトラ。

だけれど、その知識は既に書物からある程度得ていたので、特に難しいとは思いませんでした。
何より、指導役の方々がとても優しいのです。
質問しても怒りませんし、
間違いを指摘しても殴りません。
正論を述べても、嫌味一つ言わないのです。
流石は人にモノを教える人々、なんと人格者なのでしょうか。
私のように、姿も経歴も、名前すら偽っている人間に対し、そうも良心的に関わってくれるなんて、尊さと嬉しさで胸が痛いです。
ーーとは言っても、私が本当の妹様、つまりはオルコット=マーテルロではないことは、身内と限られた使用人しか、知らないのですけどね。

けれど、とても楽しい時間です。
書物から知識や物語を知るのはそれはそれで楽しい時間でしたけど、血の通った、生きた人間に何かを教えてもらうというのもなかなかに悪くありません。
自分とは違った意見、異なる解釈、新しい視点を得ることができます。
また少し、賢くなれた気がします。

「オルコット様は本当に勉強がお好きなんですね」

「あ、ペントレイアさん。お疲れ様です」

そんな風に、過去語りを自分の中でしていると、ペントレイアさんが現れた。
彼のことです、当然ノックはしたのでしょうけど、私が自分の世界にはいっていたから気づかなかったのでしょう。
私の悪い癖です、他人が見えなくなるというのは。

「そうですね。自分の知らないことを教えてもらうのは、とても楽しいです」

「それは何よりです。その特性の1000分の1でも、アデル様も引き継いでくれれば、マーテルロ家の将来も多少は明るくなるんでしょうが……」

彼はそう言って苦笑します。
最近改めて理解したんですが、お兄様は相当ダメな人のようなんです。
性格的にも、
才能的にも、
実力的にも。

「それでも、マーテルロ家の次期当主はお兄様がやるしかないのでしょう?」

私の何気ない質問に、ペントレイアさんは笑いました。
ほんの、少しだけ。
その笑みには覚えがありました。
私がかつて自身がした表情。
妹様に、自分の意思で成り代わった時にした表情。

「いえ、そんなことはありません。次期当主の指名権は現当主、つまりはオルコット様のお父様にあります」

彼は言葉を続けます。

「だから、事と次第によっては、オルコット様も当主になる可能性は十分にあるのですよ」

例えば、と彼は最後の言葉を口にしました。

「アデル様がお亡くなりになったりしたら、間違いなく」

と。
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