虐げられた黒髪令嬢は国を滅ぼすことに決めましたとさ

くわっと

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三章 領主と領民

62.不敬

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お兄様が死んだら、どうなるか。
確かに、その場合は高確率でオルコット=マーテルロもどきこと元フォルテシアマーテルロである私が次期当主になります。
継承の優先権は男子にあるといいますが、その男子が不慮の事故等で死んでしまえば、その限りではありません。
死亡もしくは、行動不能ならば。

大事なのは、あくまで『血』。
そこに男も女もありません。
ただ、男が優先としたほうが分かりやすいから、そうしているだけ。
それだけなのです。

「なるほど、そうなった場合は確かに私が次期当主になるかもしれませんね。私如きで務まる仕事には思えませんけど」

真実半分、
嘘半分。

「いえいえ、屋敷内では才能溢れるオルコット様こそ、これからのマーテルロ家を導くに相応しいと思う方は大勢です」

「そんな褒めても何も出ませんよ」

気持ちと言葉は嬉しいですけれど。
いえ、正しくは言葉だけでも、ですね。
誰かに褒められるようになったのは最近なので、まだ体が慣れていないのです。
今までは、そんな扱いをされたこと、ありませんでしたので。

「でも、お兄様はお元気ですよ。どこも悪いところはなさそうです」

「そうですね。なんとかは風邪にならない、という奴でしょう」

「ーーペントレイアさんは、お兄様のことがお嫌いなのですか?」

私の問いに、彼の表情は固まりました。
一瞬、
刹那。
まばたきしていたら、見逃してしまいそうな、そんな短い時間の変化。

だけれど、私の視界はそれを捉えてしまいました。
必要でない情報を、
知るべきでないことを、
知ってしまった感覚、です。

「いえ、そんなことはありません。オルコットと様と同じく、仕えるべき大事な主君です」

と作り笑いで応えます。

「ごめんなさい、変なことを聞きました」

「こちらこそ、叛逆の意ととられても仕方がない、不敬な発言でした。アデル様にはどうかご内密に」

口元に人差し指を立て、片目を瞑ります。
小悪魔的な男性の仕草。
乙女ならば、心奪われてしまうのでしょう。
体も心も傷ついていない乙女なら。

だけれど、私はただの乙女ではありません。
呪われていると虐げられ、
実の妹をその手で殺し、
マーテルロ家の娘として認知された女。

だから、ただ受け流すだけです。
何も感じず、
何も思わず。

「もちろんです」

と。
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