虐げられた黒髪令嬢は国を滅ぼすことに決めましたとさ

くわっと

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三章 領主と領民

69.耐えるつらさ

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自室に戻ると私は机に向かいます。
取り出したるは紙とペン。
形を持たない思考を、現実世界へと召喚するための魔法の道具。
いえ、文明の利器、ですね。

街の様子は理解しました。
どんな人間がいて、
どんな関係性があって、
どんな生活をしているのか。

過ごした時間は短かったけれど、類推するのに十分な時間ではありました。
妄想、想像は私の得意分野です。
かつて、虐げられていた私が無制限に持つことを許された一つ、それが思考なのですから。

ペンを左手に、スラスラサラサラと言葉にしていきます。
紙面に文字が怒涛の如く記されていきます。

まずは関係性の把握。
マーテルロ家と領民の関係性。
表の民ーーつまりは最初に出会った方々ですが、彼らのマーテルロ家の感情は比較的良好のようです。
それも当然でしょう。
日々あのように笑いながら過ごせているのですから。
今の生活が続くのであれば、彼らが自発的に反旗を掲げるということはないでしょう。
メリットが別段、無いのですから。

それに対して裏の民。
ボロ布を纏った生気を失った人たち。
彼らは最早諦観が板についていますね。
反旗を掲げるメリットあっても、それをする力も気力もないという感じです。
死んだお魚さんのような目をしていましたからね。
生きたお魚さんならともかく、死んでいるならばどうしようもありません。

死者に生者は殺せません。
口もありません。
ただのモノです。
自分の意思では何も出来ず、ただ存在するだけ。
妹様と同じ。
ペントレイアさんの言葉は、言い得て妙でしたね。

まあ、兎にも角にも自ら動く人たちではないということですね。
きっかけがないと、動かないし動けない。
いえ、きっかけがあっても立ち上がることすらしないかもしれません。
それ程までに憔悴している感じでしたかね。
虐げられる日々、というのはそういうものです。
経験者なのでよく分かります。

耐えることに使うエネルギーの多さ。
心を凍らせ、相手の感情を予測し、如何に自身への攻撃を減らすか。
その心労はすごいです。
とっても、しんどいです。
あの頃の私には戻りたくはありません。
フォルテシア=マーテルロには戻りたくありません。

私はサラサラの手触りの被り物感触を味わいつつ、そんな風に思いました。
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