虐げられた黒髪令嬢は国を滅ぼすことに決めましたとさ

くわっと

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三章 領主と領民

70.彼女に

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おっと話が逸れてしまいました。
過去語りは冗長で饒舌になってしまいます。
悪い癖、です。
特に妹様のこととなると、ゆっくりとじっくりと思い出したくなってしまいます。

あの瞬間を。
命が消える刹那を。
命を搔き消した瞬きを。

ーー回想はこのくらいにして、未来について考えに戻りましょう。
人生とは何事も為さぬなら長いけれど、何事かを為すには短すぎる。
そんな台詞を本で読んだことがあります。
私が行うのは国崩し、いくら継承権を持つオルコット=マーテルロとはいえ、容易なことではありません。
人生を賭けるに十分な事柄のはずです。

私は紙に視線を戻します。
領民の方々は、表も裏も積極的に国崩しに参加してくださる手札足り得ません。
特に表の方々は既得権益側、現体制がそのまま続いた方が好ましいはずです。
だとすると、手札どころか敵に、障害であると考えるべきかもしれません。

私は額に手を当て考えます。
私が使える手札、
国崩しを望む仲間、
今の体制を憎む人間は誰がいるにでしょうか、と。

「ーーあ、あの人がいました」

私は言葉にして、自身の思いつきを喜びます。
ペンを置き、紙を机にしまいます。
これは叛逆の記録です。
見つかってはいけません。
きちんと収納し、私以外の誰にも手が触れないように仕掛けを打っておきます。

ーーそれで私の味方に成り得るあの人ですが、ちゃんと話を聞いてくれるでしょうか?
交渉に失敗したら、逆に弱みを握られてしまいます。
味方を増やすために行くのに、敵が増えることになるのは看過できません。
そもそもあの人……『彼女』は私のことを恨んでいるはずです。
少なくとも、好意的な感情は抱いていないでしょう。

となると、どうしましょうか?
どちらに転んでも、問題ないように手を打つべきです。
使い捨て、そんな一時的なカードとして扱うのが一番でしょうか?

併せて『彼女』が私に協力したくなる、または協力せざるを得ない理由はないでしょうか?
圧倒的なメリット、
喉から手が出る程欲しいもの。
そんな交渉カードはないでしょうか?

……、
…………、
すぐには思いつきませんね。
私には普通と呼ばれる人の感覚は分かりません。
書物の知識で、推測ができる程度です。

マーテルロ家の娘としての感覚、
虐げられてきた幼子としての感覚。
どちらも、一般人とのそれとは大きく乖離しているのです。

でも、それは『彼女』としても同じことでしょう。
『彼女』も普通の人に括るべきではない人生を送ってきたアウトローな人間。
でなければ、あんな大それたことはできないでしょう。

私は立ち上がり、自室からてとてとと出発しました。
思いついたら即断即決、即実行。
一寸先は闇、とはよく言います。
迷っている時間も暇もないのです。

特に、私のような人間にとっては。
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