虐げられた黒髪令嬢は国を滅ぼすことに決めましたとさ

くわっと

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四章 呪いと反乱

89.そわそわとふわふわ

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「ずっとずっと、こうしてお話したかった。きちんと謝りたかったのです。あの時、お助けできずに申し訳なかったと。妹様をお諌めできずにすまなかったと伝えたかったのです」

チャンドラさんの言葉に、私は少しだけ考えて返します。
沢山の嘘と建前に、ちょっとだけの本当を混ぜて。

「いえ、私は気にしていません。逆にチャンドラさんが頑張っていたら、妹様の感情を逆撫でして、もっと酷いことになっていたかもしれません。あの時は、何もしないのが最善の行動だったのです」

それに、と私は言葉を続けます。

「オルコット=マーテルロは今や私だけです。過去も昔もありません。彼女の罪なら、それは私の罪でもあります。この名前を引き継いだ時に、そう決めたのです」

それでは、と言葉を締めくくり、改めてチャンドラさんに背中を向けます。
これ以上、回想に耽っていても仕方がありません。
過去は過去です。
終わったことを変えることはできません。
そんなことができるのは、魔女さんの所業です。
ただの人間、それも虐げられてきた少女と料理人には尚更不可能なのです。
私たちにできるのは、過去を受け入れるか決別するか、その程度。
とどのつまり、変えられるのは今現在しかないのですから。

「ありがとう……ございます」

消え入るような小さな声で、チャンドラさんはお礼を言いました。
私は何も返さず、そのまま調理場を後にしました。

でも、なんでしょう、この感覚。
心臓の鼓動が早まるような、
何か心がざわつくような。
それでいて、それがあまり不愉快ではないこの感覚。

チャンドラさんとの会話、
彼の謝罪と私を助けたかったという気持ちの吐露。
その行動を確認して以降、私の感覚に異常を与えています。
なんというか、ふわふわしています。
そわそわのふわふわ。
言語化するのが難しい感情です。

もしかして、私もお父様たち同様、呪いの奇病に伝染してしまったのでしょうか?
不覚にも、あのタイミングで。
確かに、統計から見ても私が件の病にかからない保証はありません。
動物さんとの関わりはまだ少女の身の上のため強くはありませんが、
地域的条件は満たしています。

となると、私の外見も次第に醜く変化していくのでしょうか?
私は通りがかりの窓に反射した、自身の姿を確認します。

艶やかな借り物の金色の髪と、
シンプルながら高級感のある衣服。
少女故の張りのある肌に、
傷跡のない顔。
こうして見ると、やはり私も変わりました。
あの時とは、
昔とは、
心も。
体も。
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