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後日談 虐げられた黒髪令嬢は国を滅ぼしましたとさ
119.虐げられた黒髪令嬢は国を滅ぼしましたとさ【完結】
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「あの方は、この国を滅ぼすことができたのでしょうか?」
彼は遠くの空を眺めながら言う。
あの女のことを思い出しているのだろう。
「どうして?」
「それがあの方の望みだったのです」
そう言って、ノートのような冊子を見せる。
彼は私に手渡し、読むように促した。
黙って首肯し、パラパラとページをめくる。
そこには、彼女の望みが書かれていた。
彼女の計画が書かれていた。
とても年端のいかぬ少女が書くような、
思いつくような計画ではなかった。
残酷で、残虐で、冷酷で冷徹で。
でも結果としては、世界が良い方向に向かう。
救済のために破滅を行う、そんなどこぞの悪の組織が企てるような内容。
「これ、本当にあの女が書いたの?」
私の問いに、彼は黙って頷いた。
ページを再びめくり、目を通す。
彼女しか知り得ない情報も書かれていた。
私のこと、
先輩のこと、
妹殺しのこと。
それからのこと。
ーー私は途中でぱたんと閉じた。
「なるほどね。なら、彼女の願いはかなったと思うよ」
冊子を返却して、代わりに言葉を紡いだ。
そのままの意見を、彼に伝える。
私が思い、感じたことを。
嘘偽りなく、飾り立てることもなく。
ただ、正直に。
一人の、彼女の人生に関わった人間としての意見を。
「だって、こうしてマーテルロという国は崩壊した。屋敷もこの通りのありさま。しっかり望みは叶っている」
そうだ、
あの女は自身の望み通り全てを破壊した、滅した。
全て予想通り、理想に沿う形ではないにしろ。
目的は、一番大切な部分は達成したのだ。
「けど、彼女は生きていない。死んでしまいました」
目を伏せて、震える手で花束を握りしめる。
花弁がはらりと、1枚落ちた。
私はそれを手にとり、とくに考えることもなくポケットにしまった。
「生きているだけが全てじゃないでしょ。死んでも、望みを果たしてればそれでいいじゃない。彼女は死んだというより、ゴールしたんだよ」
「ゴール?」
聞き返す言葉を、私は空を見上げなら打ち返す。
「そう、ゴール。終わりを見た、というのかな。ここが彼女の終焉だった。物語の終わり、とでも言うのかな。御伽噺とかと同じ。ただ、あの女の場合はその締めくくりが『彼女は幸せに過ごしましたとさ』ではなく、『彼女は国と共に滅びましたとさ』と言うだけのこと」
「なる……ほど」
「そういえば、お金持ちになった貴方は何をしているの?」
「孤児院をしています。食事だけなら、私にもできることがありますから」
そういえば、彼は単純な料理ではなく、これまで食べることが叶わなかった野草の調理法を見つけたとか。
それで救われた国も数えるくらいにはなる。
彼はもはや英雄になっていた。
革命家よりも、よっぽど国を救っている。
私も今からでも勉強すべきかもしれない。
国は落とせなくとも、いい男くらいならーーっと、これは冗長が過ぎるか。
「それに、あの方の家族もいますから」
振り向いて、背後について来ている動物を紹介した。
見知った顔がいた。
苦い思い出が蘇る。
だけれど、それは私の方だけだろう。
彼らはきっと私を覚えていない。
ただ、命令に従っただけ。
それは道具のそれと変わらない。
刃で斬られたと言って、刃そのものを憎むのは間違いだ。
憎むべきは使った相手、道具は使用者を選べないのだから。
「この子たちが生きている間は、私は生きねばなりません」
あぁ、本当に立派だなこの人は。
私には真似できないし、したくもない。
自身の愚かさが引き立つ。
「では、私はこの辺で。また縁があったらご飯でもご馳走してください」
私は足早に頭を下げて、その場を後にする。
ここはもう終わった場所だ。
感傷に浸るだけの場所。
私の人生はまだ終わっていない。
ここからが、始まりーーとまではいかないが、続く。
とりあえず、目的地を決めるとこから始めよう。
私程度にもできる、小さくて、それでいて愛おしい目的を。
ーー
虐げられた黒髪令嬢は、国を滅ぼした。
病に反乱、そして鎮圧で生き残った人は少なかった。
国はなくなっても、人は生きている。
それぞれに、それぞれの道を生きている。
自分の人生を、自分のために。
彼は遠くの空を眺めながら言う。
あの女のことを思い出しているのだろう。
「どうして?」
「それがあの方の望みだったのです」
そう言って、ノートのような冊子を見せる。
彼は私に手渡し、読むように促した。
黙って首肯し、パラパラとページをめくる。
そこには、彼女の望みが書かれていた。
彼女の計画が書かれていた。
とても年端のいかぬ少女が書くような、
思いつくような計画ではなかった。
残酷で、残虐で、冷酷で冷徹で。
でも結果としては、世界が良い方向に向かう。
救済のために破滅を行う、そんなどこぞの悪の組織が企てるような内容。
「これ、本当にあの女が書いたの?」
私の問いに、彼は黙って頷いた。
ページを再びめくり、目を通す。
彼女しか知り得ない情報も書かれていた。
私のこと、
先輩のこと、
妹殺しのこと。
それからのこと。
ーー私は途中でぱたんと閉じた。
「なるほどね。なら、彼女の願いはかなったと思うよ」
冊子を返却して、代わりに言葉を紡いだ。
そのままの意見を、彼に伝える。
私が思い、感じたことを。
嘘偽りなく、飾り立てることもなく。
ただ、正直に。
一人の、彼女の人生に関わった人間としての意見を。
「だって、こうしてマーテルロという国は崩壊した。屋敷もこの通りのありさま。しっかり望みは叶っている」
そうだ、
あの女は自身の望み通り全てを破壊した、滅した。
全て予想通り、理想に沿う形ではないにしろ。
目的は、一番大切な部分は達成したのだ。
「けど、彼女は生きていない。死んでしまいました」
目を伏せて、震える手で花束を握りしめる。
花弁がはらりと、1枚落ちた。
私はそれを手にとり、とくに考えることもなくポケットにしまった。
「生きているだけが全てじゃないでしょ。死んでも、望みを果たしてればそれでいいじゃない。彼女は死んだというより、ゴールしたんだよ」
「ゴール?」
聞き返す言葉を、私は空を見上げなら打ち返す。
「そう、ゴール。終わりを見た、というのかな。ここが彼女の終焉だった。物語の終わり、とでも言うのかな。御伽噺とかと同じ。ただ、あの女の場合はその締めくくりが『彼女は幸せに過ごしましたとさ』ではなく、『彼女は国と共に滅びましたとさ』と言うだけのこと」
「なる……ほど」
「そういえば、お金持ちになった貴方は何をしているの?」
「孤児院をしています。食事だけなら、私にもできることがありますから」
そういえば、彼は単純な料理ではなく、これまで食べることが叶わなかった野草の調理法を見つけたとか。
それで救われた国も数えるくらいにはなる。
彼はもはや英雄になっていた。
革命家よりも、よっぽど国を救っている。
私も今からでも勉強すべきかもしれない。
国は落とせなくとも、いい男くらいならーーっと、これは冗長が過ぎるか。
「それに、あの方の家族もいますから」
振り向いて、背後について来ている動物を紹介した。
見知った顔がいた。
苦い思い出が蘇る。
だけれど、それは私の方だけだろう。
彼らはきっと私を覚えていない。
ただ、命令に従っただけ。
それは道具のそれと変わらない。
刃で斬られたと言って、刃そのものを憎むのは間違いだ。
憎むべきは使った相手、道具は使用者を選べないのだから。
「この子たちが生きている間は、私は生きねばなりません」
あぁ、本当に立派だなこの人は。
私には真似できないし、したくもない。
自身の愚かさが引き立つ。
「では、私はこの辺で。また縁があったらご飯でもご馳走してください」
私は足早に頭を下げて、その場を後にする。
ここはもう終わった場所だ。
感傷に浸るだけの場所。
私の人生はまだ終わっていない。
ここからが、始まりーーとまではいかないが、続く。
とりあえず、目的地を決めるとこから始めよう。
私程度にもできる、小さくて、それでいて愛おしい目的を。
ーー
虐げられた黒髪令嬢は、国を滅ぼした。
病に反乱、そして鎮圧で生き残った人は少なかった。
国はなくなっても、人は生きている。
それぞれに、それぞれの道を生きている。
自分の人生を、自分のために。
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