1000年前の恋人が忘れられない吸血鬼の話

もちえなが

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メイ編 うっかり人間に恋に落ちた話

ヴァンパイアハンター

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「へぇ、君の伴侶はハンターなんだ。それはまた面白い組み合わせだね」

「あぁ、最初は殺しかけた」
「え…?!」

「ま、結果殺さなくてよかった」
「君は血の気が多いからなぁ」

夜の街を風のように走る。
オリアスは、息も乱さずぴったりと着いてくる。

結果として、犯人はオリアスではなかった。
まぁ、こいつは元から人を滅多に殺さない穏やかなやつだ。

なので、少ししか疑ってはいなかった。
亡くした恋人の幻影を追って……、みたいなことをしなくもなさそうだなとは、少しだけ思っていたが。

そして今、俺たちがなぜ走っているかといえば、オリアスと酒場で酒を煽っていたときに、近くで女の悲鳴が聞こえたからだ。

賑やかな酒場では、女の悲鳴に気づいている奴はいない。
耳の良い俺たちだけが気付いた。

すぐに会計を済まし、酒場を出ると、女の悲鳴がする海辺の方へ向かった。

このタイミングで女の悲鳴は、絶対に今ちまたを騒がせている吸血鬼だろう。

「なるほど考えたね、あそこには輸入品を保管する倉庫が並んでいて、そうそう人が立ち寄らない。」
「へー、まぁどうでもいい。殺すから」
「もう、物騒だなぁ」
 
倉庫に着くと、女の声が近くなる。

オリアスと気配を消して、いくつか並ぶ倉庫から声の発生源を探すと、そのうちの一つから、女の苦しむ声や喘ぎ声が聞こえた。

どうやら女だけでなく、吸血鬼も複数いるようで、俺たちには気付かず、お楽しみの最中なようだった。

「はぁ、最悪」
「メイ、待って」

さっさと殺してしまおうと足を踏み出すと、オリアスに止められる。

その瞬間、別の気配がして、白い何かが素早く横切った。

「ユエル…」
「あ、メイ、待てって!」

ユエルだ。
俺は隠れているのも忘れて、ユエルのあとを追って、倉庫の入り口に立つ。

「ハンターにバレるぞ…、ってメイ?」

オリアスが俺を心配して肩を掴む。
俺はそんなことよりも、目の前の光景に夢中になっていた。

ユエルは、天使のように舞いながら、吸血鬼たちの命を刈り取っていく。

白い羽が生えているかのように足取りは軽く、人間の数倍は運動神経のいい吸血鬼たちが、なす術もなく倒れていった。

的確なナイフ捌きで命を刈るその姿は、死神のようでありながら、紛れもなく白く儚い天使のような美しさを宿していた。

「彼が、君の伴侶なんだね。随分綺麗な子だ」
「あぁ」

ヴァンパイアハンターとして戦うユエルを、初めてじっくり見た。
いや、正確には初めてではない。出会った時、俺たちは殺し合っていたのだから。

だが、あの時よりも、しなやかに伸びた四肢が繰り出す一撃は力強く、こんなにも美しいのだと、はたから見るまで知らなかった。

「え、メイ?」

すべて倒し終えたユエルが、気配を察知してこちらを向くと、すぐに驚いた顔をした。

「それじゃあ、またいつか会う日まで」

オリアスが、肩を叩くとさっと気配を消してその場を去る。

「メイ、あの人は?」
「ただの顔見知りだ」

俺たちは、次に会う約束などしない。
偶然会えば、一晩酒を引っ掛けるだけだ。

「ふーん……それより外に出ていたのかい?危ないだろう?」
「ふ、誰に言ってんだよ」

「そうだけどさー、心配はするだろう?」
「はいはい、悪かったよ」
「もう、メイったら」

ユエルに抱きしめられる。
まだ戦ったばかりだからか、鼓動が早かった。

「ユエルさん!無事っすか?」
「ユエル!……て、え?!」

倉庫で俺とユエルが抱きしめ合っていると、仲間のハンター達が駆け込んできた。

「もう全部倒したよー。君たちは女の人たちをお願い」

目を見開いているハンターを前に、ユエルが、呑気に報告をする。
 
そして、ハンターに従属している吸血鬼達が俺を目にすると、一瞬硬直して一気に跪く。

「…え、これが僕の力?」
 
ユエルが見当違いのことを言って、手をわきわきとさせていた。

「やめろ」

俺が一言そういうと、吸血鬼達はブルブル震えながら、立ち上がる。
 
吸血鬼の世界は分かりやすい。
力のあるものこそが正義。ただそれだけだ。 

つまり、あまりに力の差がある吸血鬼を前にすると、身体が勝手に降伏してしまうのだ。
 
「あんた、吸血鬼だな」
「ユエルさんといて、一体何者っすか!」

ハンター達が警戒して、臨戦体制を取る。
本能で理解できる吸血鬼とは違って、相手の力量を読み取れない人間は、愚かだ。

お前らが束になっても、ユエルにすら勝てないのに。

「やめてよ君たち!メイは、僕の伴侶さ!誰も信じてくれなかったけれど」
「…は!?あの話まじだったんすか!」
「……ただの妄言だと思ってた」

「君たち本当にひどいよ!」

ユエルが頬をぱんぱんに膨らませてむくれる。

「……でも吸血鬼っすよね、教会にバレたらまずいんじゃないすか」
「あぁ、まず破門だな。所詮吸血鬼だ。人間を殺してるだろ」
 
「殺してない!メイはもう、殺さないよ」
「そんなのわかんないじゃないっすか」
「制御できるのか、」

制御、ね……。
いかにも、吸血鬼を従えるハンターらしい言葉だ。
俺はその言葉の後を、簡単に想像できた。

制御できるのか、そんなに強い吸血鬼を。
牙を折らないと、いつ殺されるかわからないぞ。

そう言いたいんだろ?
俺を睨んでいる男は、相当吸血鬼が憎いらしい。
こいつも訳ありというわけか。
 
「は、何言ってんだ」
「……メイ?」
「伴侶とか笑わせるな。遊びだよ最初から」
「え……」

「俺が人間に本気になるわけないだろ」
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