1000年前の恋人が忘れられない吸血鬼の話

もちえなが

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メイ編 うっかり人間に恋に落ちた話

誇り

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「なんで……!ここまでしなくても!」

「結果認めてもらっただろ。これでハンターの仕事ができる。ソロでやるか教会でやるか、全部ユエルが決められるんだ、良かったじゃ――」
「良くない!!全然良くないよ!」

「ったく、なんで、お前が泣くんだよ」

歯を折ったのは俺なのに、ユエルの方が辛そうに泣く。

「僕のために、牙を折るなんて…!!
こんなの昔の君ならありえなかった!」
 
ありえない。
本当にありえないことだ。

吸血鬼の牙を折る。
それは誇りを踏みにじられ、存在そのものを否定されるに等しい屈辱だ。 

牙は吸血鬼であることの象徴であり、プライドの高い彼らの尊厳そのものだからだ。

教会に従属した吸血鬼は、かつて下等と蔑んでいた人間に、牙と同時に反骨心を砕かれ、心を壊して廃人のようになる者も少なくない。

俺は誰かのになるのが、心底嫌いだし、耐えられない。

でもユエルに出会ってから、
この俺が人間を好きになって、後ろを許して、牙まで折って。

昔の俺にとってはありえないことだらけだった。

「ユエル、お前が先にしたことだ」
「え……?」
「お前が先にハンターの道を捨てたんだろ」

こいつは、あろうことか大好きな仕事を失う覚悟をしてまで、俺への愛を貫き通した。
どうとでもうまく誤魔化すことはできたのに。

「あの時の俺も同じ気持ちだった。」
「……」
「お前が簡単に誇りを捨てたのが許せなかった」

「お前は感情のままに行動するところがあるから、後先考えなかったんだろ。でも、お前が俺のために大好きなもの諦めて、俺が喜ぶとでも思ったか?」
「ちがうっ!そんなつもりじゃ…」

「そんなつもりじゃなかったらなんなんだ?
3日間何も音沙汰がないままで、帰ってきたと思ったら傷だらけ。その上、嘘だってわかって安心しただと……?」
「メイ……、メイ」
 
「お前、どれだけ俺を侮辱すれば気が済むんだ!」

「ごめん、ごめんなさい、メイ、もうしないから」

ユエルが、立ち上がった俺の腰に抱きつく。

いい加減頭に来ていた。
ユエルも、あの司教も。
自分ユエルを軽く見やがって。

こいつは、自分のことになるととことん鈍くて、自分を卑下した結果、周りが、俺がどんな気持ちになるのかわかっていない。

だから、『自分にはこれしかない』とさえいったヴァンパイアハンターという誇りを簡単に捨てる。

俺を、俺への気持ちを侮辱されるのが耐えられないから。

そんなつまらないプライドのせいで、結果俺の気持ちを軽んじ、侮辱していることに気づきもしない。

俺がどれだけユエルを好きか、大切にしているか、わかっていないのだ。

「メイ、メイ、うぅ、ごめんなさい、ごめんなさい」

自分だけが愛しているっていう顔しやがって。
ユエルが腰にしがみつきながら謝り続ける。

「はぁ、わかったから。
別に、牙は少しすれば生える。戻るんだからそれでいいだろ」

教会を抜けたって独立の道があるように、牙を折ったってこれで一生血が吸えないわけじゃない。
噛んで飲めないのが不便なだけだ。
 
「ううん、違う、違うよ」

「僕、メイに牙を折らせてしまって、すごく辛くて苦しいのに、でも僕、メイにこんなに愛されて、震えるほど嬉しい…!」

ユエルが立ち上がると、俺を抱きしめた。

「僕、正直自信がなかった。メイは綺麗で、僕よりずっと大人で、経験が豊富で。精一杯振る舞っていたけど、メイが、いつか僕に飽きてしまうかもって、そう思うと怖くて仕方なかった。」
「ユエル……」
 
「だから、僕を好きになってもらわなきゃって、そればっかりで、僕自分勝手だった。傷付けてごめんねメイ。僕、自分に自信を持つよ。メイが僕を大好きなんだって自信!」
「気づくの遅えんだよ、馬鹿」

「えへへ、メイ、僕のことどれくらい好きー?この部屋くらい?教会くらい?それとも地球くらい?」
「調子のんな」
「うふふ、もっとなんだ!そうなんだね?」

やかましいやつだ。
嬉しそうにしやがって。
 
ユエル、お前はそれくらい能天気な方がいいんだよ。
 
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